EDUCATION 各種研修会

2018年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 作業療法士部門

9月13日(木)・14日(金)
県民情報交流センターアイーナ(岩手県)

 平成30年度の日本精神科医学会学術教育研修会作業療法士部門は、平成30年9月13日(木)、14日(金)の両日にわたり、日本精神科病院協会岩手県支部の御担当により、いわて県民情報交流センターアイーナで開催された。「不易流行【ふえきりゅうこう】~精神科OTを見つめ直し、これからを考える~」としたテーマのもと、全国から111名の受講生が参加した。 開講式では、岩手県支部長 伴亨先生の開講挨拶の後、日本精神科医学会 山崎學学会長が挨拶された。続いて、来賓として盛岡市長谷藤裕明様(代理:盛岡市保健所長 高橋 清実 様)、岩手県障がい保健福祉課総括課長 山崎淳様、岩手県議会議員 福井誠司 様よりご挨拶を頂いた。

 第1日目午前の会長講演では、伴亨先生の座長のもと、『精神科医療の将来展望』と題して公益社団法人日本精神科病院協会 山崎學会長がご講演された。①精神保健福祉行政の歩み②精神保健福祉の動向(データ編)③認知症④精神科医療の将来像について、豊富な資料や統計データを引用して解りやすくお話しいただいた。その中で、本年度に要介護高齢者の長期療養・生活施設である新たな介護保険施設として「介護医療院」が創設されたことに触れ、精神療養病棟などとも比較され、今後の病棟の介護医療院への転換を考慮する必要性について言及された。 午後からの講演Ⅰでは、『精神医学の基本概念の起源』と題して、医療法人社団創生会 おとめがわ病院 理事長院長 上田雅道先生の座長のもと、岩手医科大学神経精神科学講座 教授 岩手県こころのケアセンター 副センター長 大塚耕太郎先生がご講演された。先生は北海道でのDPAT活動を終えたばかりでこちらに向かわれ、ご多忙を極めていたようであった。講演では、古代ギリシアから中世、近代へとこれまでの精神医学史について触れ、精神医学はこころを病める者に対する実存的理解に基づいた実践的学問であり、歴史的に見てもさまざまな理論や多種多様な医学的知見が集積されており、精神医学史からいろいろな視点を学ぶことができるとした。また、患者さんに寄り添い、語りに耳を傾け、①平易な日常会話レベルでのやりとりを心がけ、相手のテーマとしたい話しの内容に焦点を当てる、②丁寧に聴き、出た話しを生かして話しを拡げ、困っていることの原因や性状、状況を理解することが大切であると話された。

 続いて講演Ⅱでは、『これからの精神科作業療法の可能性』と題して、社会医療法人花北病院 理事長・院長 齊藤悦郎先生の座長のもと、一般社団法人日本作業療法士協会 副会長 東北文化学園大学 医療福祉学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 教授 香山明美先生がご講演された。作業療法におけるこれまでの歩みや現状、課題、これからの役割について話され、その中で役割については医療領域や保健福祉領域、刑事司法領域だけではなく、地域包括ケアシステムに資する作業療法士など領域を超えて作業療法士の役割は無限大に拡がっているとした。また、職種を超えて色々とやっていき、その後で作業療法士の視点での考え方や関わり方を示していくことが必要であると話された。

 講演Ⅲは、医療法人真彰会ひめかみ病院 理事長院長 坂本文明先生に座長をしていただき、岩手医科大学いわてこどもケアセンター 主任作業療法士の松田均先生が、『こどものこころを繋ぐ作業療法~震災から7年目こどものこころとケアセンターの役割~』と題してお話された。2011年3月11日に大津波をともなう東日本大震災が発生した。7年を経過した今でも未曾有の被害は未だ鮮明に人々の記憶にある。様々な喪失体験や避難生活など壮絶な体験をした子どもの心のケアの必要性があり、いわてこどもケアセンターが開設された。このケアセンターの業務と経験されたケースを紹介された。そして、乳幼児期から成人期まで切れ目のないライフサイクルにおいて、それぞれの年代に応じた発達課題をクリアする手助けをし子どもの発達を支援していくこと、脳の可塑性やニューロネットワークの発達を遊びや運動、関わり、認知、感動などを通して促すこと、ソーシャルネットワークに関連させること、それらがこどものこころを繋ぐOTがなしうることではないだろうか、特に厳しい環境下におかれた子どもの笑顔と保護者の安らぎを支えるためにと結ばれた。

 その後、ホテルメトロポリタン盛岡にて、懇親会が行われた。シャンソンの夕べと題して盛岡在住のシャンソン歌手のささき絢子さんが数曲歌を披露され、盛岡3大麺の一つ、わんこそばの早食い大会も催され、数種類の岩手の銘酒も振舞われた楽しい一夜だった。

 2日目は、講演Ⅳとして、社会医療法人みやま会盛岡観山荘病院 理事長院長 小泉幸子先生座長のもと、株式会社荒川商店 代表取締役社長 荒川鉄平氏が、『笑いと健康』と題して、小噺をたくさん織り交ぜ、楽しく笑いを誘いながらお話ししてくださった。荒川氏は、あがり症のため人前で話をするのが大の苦手だったことから、青山学院大学入学時から落語研究会に所属されたとのことで、亡くなられた義弟は脳外科医、ご長男は現在皮膚科医として病院に勤務されているという医療に関係のあるお立場でもあり、健康であるためにはいかに『笑い』が大切かということを落語の紹介と共にお話しされた。

 最後の講演Ⅴは、医療法人財団正清会三陸病院 理事長院長 三浦正之先生に座長をお願いし、社団医療法人新和会宮古山口病院 院長 及川暁先生に『依存症に対する作業療法の可能性について』という演題で講演していただいた。まず、依存症といえば、アルコール依存症が最も認知されているが、覚せい剤や麻薬などの非合法薬物、市販薬、処方薬、カフェイン、ニコチンなどの物質系の依存症とギャンブル、買い物、インターネット、自傷行為、セックスなどの非物質系のアディクション(嗜癖)といわれるものがあり、依存症者では、中脳辺縁系ドーパミン経路(脳内報酬系)のドーパミンの放出が増強されているといわれていると依存症・嗜癖の説明をされた。その上で、依存症に対する作業療法は、現時点では統一化されたものはないので、様々な依存症個々の病理にあえて着目せず、ドーパミンを中心とした脳内報酬系に関するものと考えて、作業療法の可能性について検討したいとしてお話しされた。

 その後、閉講式が行われた。受講証授与に続いて、開催していただいた日本精神科病院協会岩手県支部を代表して支部長の伴亨先生に感謝状が授与され、日本精神科医学会学術研修会構成員が山崎學学会長に代わって総評をさせていただき、無事閉会となった。 本研修会の報告を終えるにあたり、伴亨先生を始めとする岩手県支部の諸先生方、並びに関係スタッフの皆様に、このような充実した研修会を開催していただいたことに深く感謝申し上げるとともに、岩手県支部の今後益々のご発展をお祈り申し上げる。

(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会 熊谷雅之 坂本隆行)