GUIDE 精神科医療ガイド

主な精神障害の解説

主な精神障害について、よくみられる病状を解説します。この病名のすべての患者さまが同じ病状を認めるわけではありません。精神医学的な診断は精神科医が行います。

 それまでは同年代の他の者と同じように過ごしていたものが、多くは思春期以降に、話しにまとまりがなく、脱線し、会話のキャッチボールができなくなります。見られている、聴かれているなどと被害的なことを言い、他人のしぐさやまわりの変化が、自分に関係していると述べ、大変なことが起こる、自分は高貴な人間だなど明らかに現実離れした内容のことを話し、相手の話を聞かず、自己主張が強くなります。考えていることが外に漏れている、自分の考えが、何者かに抜き取られると言い、訂正が困難になります。
 現実には存在しない声が聞こえる、あるいは存在しない人物などが見えるなどと言い、幻の声の内容は、死ね、バカなど本人を中傷する内容のものが多く、その声と会話しているかのような独り言があり、時にけんかしているような乱暴な言葉を発します。落ち着きがなく、行動はまとまりに欠け、目的が不明な奇異な動作がみられます。一方的に怒り、時に攻撃的な態度をとり、興奮することもあります。  喜ぶことがなく、趣味や読書やテレビなどを楽しまなくなります。家族や友人との交流がなくなり、学校や仕事に行かず、外との関係性を断ち、閉じこもります。
 昼夜の生活リズムが逆転し、昼間寝て、夜中に起きているようになります。食事は不規則で、同じ物しか口にせず偏食し家族と食卓を囲むことがなくなります。時に、食事に毒が入っていると言い、販売されている包装された食品しか口にしなくなります。入浴を拒否し、着替えをせず不潔な身なりをし、ひげや毛髪の手入れをせず、髪の毛や爪は伸びたままで気にも留めなくなります。暑い日にセーターやオーバー、寒い日にTシャツや短パンで過ごすこともあります。
 周囲の制止にもかかわらず毎日多量に飲酒し、一日数十本喫煙することもあります。生活全般がだらしなくなります。
 おおよそ100人に1人にみられます。男女差はありません。
 精神科を受診しましょう。発病後早期の受診を推奨します。

 うつ状態からこの病気が始まることが多いとされています。
 うつ状態は、ゆううつな気分、理由もなく悲しい気持ち、何事にも興味がわかず、喜びを感じない、仕事や勉強や家事に意欲がわかない、体が重く動かない、いらいらが強い、疲労感、気力がわかない、自身の無価値観、罪深く思い、金銭的な心配が強い、思考力がなくなった、集中力がない、決断力がない、眠れないあるいは寝すぎてしまう、食欲がないあるいは食べ過ぎる、体調不良を感じ体に何か病気があると思い、死にたい気持ちがある。 これらの変化を自覚するか他人から指摘される。このような変化がほとんど一日中ほとんど毎日続き、学校に行くこと、仕事すること、家事をすることなどができなくなります。
 躁(そう)状態は、気分が著しく高揚し、怒りっぽく、活動的になり、自尊心が大きく、異常におしゃべりで、話が止まらず、いろいろな考えが出てまとまらず、注意散漫になります。疲れを知らず、睡眠時間が著しく短く、倫理観に欠けた言動がみられ、お金の使い方が荒くなり浪費します。これらのために、学校や仕事や家事など日常の社会生活を続けることができなくなります。このような状態がほぼ毎日、一日の大半にみられる場合は躁状態の可能性があります。また、これらの状態が比較的軽い軽躁状態もよくみられます。
 これらのうつあるいは躁状態のあらわれ方には個人差があります。うつ状態を繰り返した後に躁状態になるタイプ、躁状態から発病するタイプなど。うつだけを繰り返すうつ病と思っていても、本人も周囲も気づかない軽い躁状態をうつ病相と次のうつ病相の間に認めていることもあります。うつ病と双極性障害では治療の方法が異なるため、正確な診断が必要です。
 おおよそ50人に1人にみられます。男女差はありません。
 精神科を受診しましょう。発病後早期の受診を推奨します。

 われわれの日常生活は、嬉しいときや悲しいとき、理性的なときや感情的なとき、やる気満々のときややる気が出ないとき、誰かと会いたいときや誰にも会いたくないとき等々、良かったり悪かったりしながら過ぎて行きます。この日常生活に常についてまわるのが感情です。そして心身のあらゆる機能に自動的にまとわりつき、われわれの考え、意欲、記憶、知覚、判断、認知等に影響を与えています。異常に感情が落ち込んだ状態は「病的抑うつ」といいますが、これは、うつ病でみられます。
 うつ病を経験した者の割合は5%前後(100人いれば5人)で男性より女性の方が多いようです。思い当たる原因がなく発病することもありますが、きっかけではないかと思われる出来事がある場合もあります。例えば、地位の昇進、定年退職、引越し等が知られています。過労に引き続き発病することも少なくありません。初めは、身体的な不調が目立ち、抑うつ気分などの精神症状が目立たない場合があります。身体的な不調としては、食欲の低下、不眠や過眠(いつまでたっても眠くて起床できない)、易疲労性、胃部不快感、頭重感、月経不順などがありますが、これらの症状は客観的所見を欠いていることが多くあります。
次第に、ゆううつ感、悲哀感、焦燥感を自覚し、し慣れた何でもない動作もおっくうになってきます。口数が少なくなり動きも減少してきます。仕事の能率も低下します。さらに考えを先に進めるのにブレーキがかかったような抵抗感を抱いたり、考えが頭に浮かばない状態が起こったりします。何とか頑張ろうと一人で努力しても一つの仕事に非常に長い時間がかかるようになり、悲観的になり、自分ができないせいでみんなに迷惑をかけているといった自分を責める傾向が出てくるために、自殺を考えるようになります。うつ病の症状は朝方に強く夕方に改善してくることがあり、これを日内変動と呼びます。
 
 外来治療は、休養と薬物療法、できれば認知行動療法等の精神療法を併用するのが望ましいです。もちろん、自分と相性のいい治療者と出会うことが第一です。
1)休養
 例えば、骨折で休むのとは違って、見た目は普通かもしれませんが心身は疲れ切っている病気なので、何もすることがなくボーッとしていることになってもそれでいいのです。この休養は退職や退学などの早まった決断をさせないためにも必要です。
2)薬物療法
 うつ病治療では最も重要な治療となります。薬の効果は患者さん一人一人によって違うので医師はその患者さんにとって最もふさわしいと考える処方をします。そして、薬の効果が出てくるのには、ある程度時間がかかるので患者さんは処方に従ってきちんと薬を飲む必要があります。
3)精神療法
 対話を通して、治療者が患者さんのこころに働きかける治療法です。うつ病では説得・支持・暗示療法、認知行動療法、対人関係療法などがあります。認知行動療法はうつ病に対する効果が証明されており、特に薬物療法で症状がある程度改善している患者さんに効果があります。
4)その他
 修正型電気痙攣療法は、即効性があり、自殺のおそれのある患者さんなど緊急のときに有用であり、薬の効果が出にくい患者さんにも効果があるため外来でも行う施設が増えてきました。
 
参考文献
大熊文男:うつ病の臨床.金剛出版,東京,1979.、秋元波留夫:実践 精神医学講義.日本文化科学社,東京,2002.、保崎秀夫:うつ病の人の気持ちがわかる本.主婦の友社,東京,2006.

 「不安性障害」とは、精神疾患の中で不安を主症状とする疾患群をまとめた名称です。その中には、代表的なものに「パニック障害」があります。さらに、公共の場、電車・飛行機の中、狭い空間、人前のなど特定の場所、状況や環境において不安が生じる「恐怖症」、漠然とした持続した不安に苛まれる「全般性不安性障害」、意味がないと理解していても頭から離れない観念やイメージや行動に支配され不安を生じる「強迫性障害」などがあります。
 「不安性障害」を有する生涯有病率は9.2%(H14-18年度の厚労省の研究班・主任、川上憲人調査)で、その内訳をみると、「恐怖症」が最も多く、次いで、「パニック障害」、「全般性不安性障害」、「外傷後ストレス障害(PTSD)」、「強迫性障害」となっております。そして、「不安性障害」は一定期間に二つ以上の疾病の併存を経験することが多く、例えば電車の中でパニック発作を経験してから、電車への恐怖症と予期不安に悩み社会生活を送るのに困難を生じている方など、多くみられます。
 この病気の原因は、まだ十分には解明されていません。どんな病気もそうですが、精神障害の発症には、生物学的(身体的要因)、心理的(心因)、および社会的要因がいろいろな度合いで関わっていると考えられています。不安性障害も、かつては心理的要因(心因) が主な原因であると考えられてきましたが、近年、心因だけでなくセロトニン神経などの脳内神経伝達物質系の障害や、大脳辺縁系にある扁桃体を中心とした「恐怖神経回路」の過活動が関係しているとの脳機能異常(身体的要因)があるとする説が有力になってきています。

 「ストレス関連障害」は、その名のとおりストレスと密接にかかわっています。
ストレス体験によって、多様な精神症状を呈する疾患群で、「不安性障害」の中に位置づけられる障害ですが、ここではあえて「不安性障害」とは分けて説明します。
 「ストレス関連障害」は、ストレス体験してから症状が出るまでの時間と症状の持続期間、ストレスの性質によって、①「急性ストレス障害」、②「外傷後ストレス障害(PTSD)」、③「適応障害」に分類されます。
 ①「急性ストレス障害」は、生命を脅かすような非常に強いストレスに曝された数時間から数日内に、パニック発作、悲哀や絶望感、精神的混乱、注意障害、自律神経失調症状などが出現し、長くても1ヶ月以内には治まってきます。
 ②「外傷後ストレス障害(PTSD)」は、ストレス体験直後から3ヶ月以内に発症し、急性ストレス反応とは異なり1年以上と症状が長く続くことが多く、そしてその恐怖体験が記憶に残ってこころの傷(トラウマ)となり、何度も思い出されて当時と同じような恐怖(フラッシュバック)を感じ続ける障害であります。症状としては、恐怖だけでなく、日常生活で閉じこもりがちになったり体験を想像させるような場所を避けたり、ちょっとしたことでいらいらしたり、びっくりしたり、不眠などの過覚醒・過敏状態が生じてくることも多く認めます。
 この病気が社会的に注目されるようになったのは、阪神・淡路大震災、東日本地下鉄サリン事件からですが、大規模災害だけでなく、犯罪被害、交通事故、家庭内暴力(DV)、児童虐待なども、PTSDの原因となります。
 ③「適応障害」は、前記であげたような極端な異常体験ではなく、肉親の死、失恋、失職、対人関係上のトラブルなど、もっと日常起こりうるようなストレスを経験した場合に生じる状態です。症状としては、軽度の抑うつ、不安、心配、仕事や家事の障害などがみられ、3ヶ月以内に症状が出現し、ストレス要因消滅の6ヶ月~1年以内で症状が消滅します。「適応障害」は、そのストレス度合いとストレス耐性力のバランスによって生じてきます。

 「摂食障害」は食行動の重篤な障害を呈する精神障害の一種です。摂食障害は大きく分けて、①神経性食欲不振症・思春期やせ症と、②神経性過食症・神経性大食症の2つに分類されます。そして、その両者は移行することもあります。
 ①神経性食欲不振症・思春期やせ症は、完ぺき主義・強迫的傾向が強く、とにかく徹底的に拒食を続け体重が30kgを下回ることも多々あります。極度のやせの状態にもかかわらず、活動的でさらに痩せようと努力を続けます。自らのボディーイメージのゆがみがあると考えられています。極端な痩せ(飢餓)により、徐脈、不整脈、消化器症状、代謝異常、骨異常、ホルモン系の障害など全身の身体症状を生じ、特に若い女性は無月経になることが多く、さらにひどい場合には生命の危険も脅かされます。
 ②神経性過食症・神経性大食症は、発作的に繰り返される過剰な過食とその渇望、そして体重をコントロールするために自ら誘発する嘔吐、緩下剤の乱用、薬物使用などで抵抗しようとします。そして、精神的に抑うつ、気分の変動、衝動性などを伴ってきます。
 これらの原因として、スリムをもてはやす社会・文化的要因、絶えずさらされている競争や対人関係等の社会的ストレス(心理的要因)、親子(特に母子)関係での問題(家庭環境要因)そして元来のパーソナリティ等が複雑に絡み合って発病すると考えられています。

 認知症は、正常な知的な発達をした大人が、何らかの脳の病気や外傷後に、その知的な機能が障害された状態をいいます。症状には、
①認知障害
 新しいことが記憶できない、これまでの人生の事柄を思い出せない、家族やその他の人間関係がわからない、文章の読み書き計算ができない、時と場所がわからない、自分のまわりの変化の理解ができない、社会の変化に関心を持てない、意思決定や判断力に欠けるなどの状態
②行動精神症状
 存在しないものが聞こえるあるいは見える、物が盗られたと強く主張する、大声を発し興奮する、不安が強く落ち着かない、食事を拒否あるいは過度な食欲、夜間不眠、逸脱した抑制に欠けた言葉や行動などの症状
③神経症状
 手が震える、飲み込みができない、言葉を発することができない、立つ歩くができない、寝たきりになる、暑い寒いがわからない、臭いがわからない、味がわからない、耳が聞こえない、尿便を漏らすなどの症状
 
認知症を認める主なもののそれぞれの特徴について簡単に解説します。また、これらの特徴が混合することもあります。
①アルツハイマー型認知症
 物をなくす、置き場所を忘れる、物の名前が出ないなどの物忘れが少しずつゆっくりとひどくなっていきます。さらに時間や場所、人物などを間違い、簡単な金銭の計算ができなくなり、日常の作業や仕事で誤りが多くなります。同じ言葉や問いを繰り返し、日常の生活動作が緩慢になり、家族が認識できない、着替えができない、洗面や入浴ができなくなります。これらの変化に本人は深刻に心配することがなく、もともとの人柄が変わることがあります。
②脳血管性認知症
 認知症の症状の前に、頭痛やめまいや何らかの体の症状を認める場合があります。認知症は突然に始まり、一時的に軽くなることもありますが、ある日を境にさらに悪くなります。一時的に意識がなくなり、言葉がでなくなり、手足のしびれや麻痺がみられ、感情表現が大きくなります。うつ症状を認めることがあります。認知症を自覚することが多く、人柄は保たれます。
③レビー小体型認知症
 認知症の症状の他に、一時的に意識がなくなり、実際にはいない人物や動物がありありと見える幻視、手のふるえや小刻み歩行などのパーキンソン症状、睡眠中の興奮、転びやすいなどの特徴があります。
④前頭側頭型認知症
 人柄の変化で気づかれます。だらしない、不潔、無頓着、不真面目、嘘つき、万引きなど、道徳感情がなくなり、反社会的行為がみられます。認知症の症状が急速に進行します。
 
認知症を認めることがある他の病気として
 ①外傷性脳損傷による認知症
 ②物質・医薬品誘発性認知症
 ③HIV感染による認知症
 ④プリオン病による認知症
 ⑤パーキンソン病による認知症
 ⑥ハンチントン病による認知症
 ⑦他の医学的疾患による認知症
 ⑧複数の病因による認知症
 ⑨特定不能の神経認知障害
などがあります。
 
(参考文献:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル 医学書院)

 症状精神病とは、頭(脳)を除くさまざまな身体の病気が原因で精神症状をおこす病気です。脳の病気が原因のものは“(脳)器質性精神障害”と言われます。症状精神病を認めることの多い身体疾患としては甲状腺などの内分泌系疾患、糖尿病や尿毒症などの代謝性疾患、膠原病などがあります。精神症状としては、イライラや不安感、落着きのなさやぼんやり~集中力低下、神経過敏や感情不安定などの比較的軽いものから、躁うつ状態や幻覚妄想状態あるいは興奮状態などさまざまです。身体疾患に伴うことの多い不眠、不安、軽い抑うつ気分や億劫さなどは含みません。
 この障害の診断は、身体症状のため内科などの一般科を受診し、精神症状も認めるために精神科を受診し診断されるもの、精神症状のため精神科を受診し、のちに身体疾患が背景にあることがわかり診断されるものがあります。躁状態で双極性障害(躁うつ病)が疑われたが甲状腺機能亢進症であった例、妄想や興奮、衝動行為などで統合失調症が疑われたが膠原病であった例などがあります。
 器質性精神障害とは、脳の何らかの疾患により精神症状を認めるもので、前項の認知症も含まれますが、認知症を主とする疾患以外のものについて解説します。原因として、頭部外傷による脳損傷、脳出血、脳梗塞などの脳血管障害、脳炎、脳腫瘍、脳変性疾患などがあります。症状として、意識障害、意識障害に伴う幻覚や興奮などの症状、記憶障害、認知症状、感情の不安定、人格変化、幻覚や妄想症状、躁状態やうつ状態などがあります。なお、統合失調症や双極性障害(躁うつ病)なども脳の病気ですが、これらは脳の機能性障害に分類されます。

 発達障害とは、生まれつきの脳の特性が通常と異なることにより、社会生活において様々な障害を認める精神疾患です。それらの原因は、脳の発達や機能の一部が通常と異なるためであると考えられています。そのため、発達障害は生まれつきの特性であるため、世間一般に我々が使用する「病気」とは異なると言えるかもしれません。
 発達障害は幼少期から徴候を認め、通常の育児や療育環境では困難を認める場合があります。そして成長するにつれて、周囲の人との違いから社会生活において当事者を苦しめる様々な症状を引き起こしていきます。
 発達障害はいくつかのタイプに分類されています。自閉症、アスペルガー症候群、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などが含まれます。特に自閉症とアスペルガー症候群に関して、その他の発達障害(広汎性発達障害)を含めて、自閉症スペクトラム障害という診断名を使用する場合があります。
 自閉症スペクトラム障害は、相互的な対人関係の障害(相手の感情を読み取って対人関係を築くことができない)、コミュニケーションの障害(通常の言語的・非言語的なコミュニケーションが上手くできない)、偏った興味や行動がある(自分の興味があることにのめり込む一方で、その他のことには馴染めない)などの特徴があります。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)は、年齢に合わない程度の多動・衝動性、不注意、あるいはその両方の症状が認められます。それらの程度により、多動・衝動性優勢型、不注意優勢型、混合型の3つに分類されます。多動・衝動性の症状は順番が待てない、じっとしていられない、などがあります。不注意の症状は、整理整頓ができない、集中力に欠きミスが多い、などがあります。
 学習障害(LD)は、知能的な問題はないのに関わらず、書字や読字や計算などの特定のものができない障害です。小学校の中学年頃に実際の知能以上に成績の悪さが目立つようになります。周囲の人が、できない特定のものを理解しないと支援が難しくなってしまいます。

パーソナリティ障害とは、ものごとに対して世間一般的な人とは異なる反応や感情を抱いてしまうことにより、本人やその周囲の人が苦しんでしまう精神疾患です。人間関係のあり方をはじめ、ものごとの捉え方や考え方、そこから生まれる感情、その結果としてとる行動など、広い意味での我々のパーソナリティ機能の偏りから著しい苦痛や機能障害(人間関係における問題や制御できない感情や衝動性など)が生じるものです。
注意が必要なのは、「性格の悪さ」や「パーソナリティそのものが病的である」ということを意味するものではありません。
パーソナリティ障害には、その傾向や特徴に応じて、いくつかのタイプに分けられます。世界保健機構の精神疾患の診断基準(ICD-10)では、以下の8種に分類されています。
 
・妄想性パーソナリティ障害 (周囲への不信感や強い猜疑心が特徴)
・統合失調質パーソナリティ障害 (自閉的で他者への関心の低さが特徴)
・境界性パーソナリティ障害 (対人関係の不安定さや感情的な衝動行為が特徴)
・反社会性パーソナリティ障害 (反社会的かつ衝動的な言動が特徴)
・演技性パーソナリティ障害 (他者の注目を集める演技的な言動が特徴)
・依存性パーソナリティ障害 (他への過度の依存と、孤独への恐怖が特徴)
・強迫性パーソナリティ障害 (融通が効かず、独自のこだわりが特徴)
・回避性パーソナリティ障害 (不安が強く、回避的な言動が特徴)
 
パーソナリティ障害に共通する特徴として、思春期前後から徴候が認められること、ものごとの捉え方(認知)、人間関係、感情や衝動性のコントロールなどのパーソナリティ機能の広い範囲において障害が認められること、家庭や学校や職場など広い場面で苦痛や障害が生じることなどが挙げられます。

 アルコール依存症は、アルコールに対する精神依存、身体依存、耐性を特徴とする慢性進行性疾患です。国際疾病分類第10版(ICD-10)では、次の6項目のうち3項目が該当すればアルコール依存症と診断されます。①アルコールを摂取したいという強い欲望あるいは強迫感(終業前になると決まって飲みに行くことを考える)。②アルコール使用の開始、終了、あるいは使用量を統制することが困難(「今日はやめておこう」と思っても飲んでしまう)。③使用を中止もしくは減量したときの生理学的離脱状態(離脱症候群の出現や、離脱症状を軽減するか避ける意図で飲酒する)。④アルコール耐性の証拠(飲酒の効果を得るために飲酒量が増加する)。⑤アルコールのために、楽しみや興味を次第に無視するようになる。また、その回復に時間がかかるようになる。⑥明らかに有害な結果が起きているにも拘らずアルコールを使用する(有害な結果とは、肝臓病など身体の病気、うつ状態などの悪化、家庭・職場でのトラブル、飲酒運転など)。
 合併症として心臓や脳の血管障害、肝・膵など消化器疾患、末梢神経炎や栄養障害などの身体疾患を有することが多く、不安性障害、双極性障害、うつ病、発達障害などの精神障害を併せ持つ方も多いとされています。特にうつ病は、自殺と結びつき易く「死のトライアングル」とも呼ばれており、まず断酒が最優先されます。
(アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」ではアルコール依存症を「アルコール使用障害」と呼称)
 
参考文献
新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン、監修:同作成委員会、編集:樋口進・斎藤利和・湯本洋介、新興医学出版社、2018.

 アルコールは依存性薬物であり、大量の飲酒により急性中毒を、あるいは持続的使用により依存症からさまざまな精神症状を引き起こします。前者では意識障害を起こし昏睡から死に至ることがあります。飲酒量は少なくても錯乱、もうろう、せん妄などの精神症状を起こすことがあります。時には、飲酒後のことを思い出すことができない記憶欠損を認めることがあります。
 長期間大量の飲酒継続により、離脱(退薬)症状や精神病症状がみられます。
 離脱症状は身体依存の症状で、通常はアルコール使用中あるいは使用数時間後から、振戦、幻覚、けいれん発作をみとめることがあります。さらに発汗、下痢などの自律神経症状、不安や焦燥感、幻視(小虫視など)などの幻覚症状、妄想や精神運動興奮などがみられ、これらの症状は「振戦せん妄」と呼ばれます。通常は1週間程度で軽快しますが、より長期間持続することもあります。
 アルコールを連続して長期間使用していると、幻覚症(幻聴など)、嫉妬妄想、うつ症状、健忘症候群(コルサコフ症候群)を認めることがあります。健忘症候群は物忘れ、作話(作り話をする)、失見当識(時間や場所がわからなくなる)を認めるもので、数ヶ月から数年で改善することもありますが、認知症になることもあります。

 てんかんは脳の神経細胞の異常放電によりさまざまな発作を起こす病気です。てんかん発作とは”普段と違うことが突然起こり、同じことが繰り返される“ことです。
 突然倒れてけいれんをおこす発作のほかにも、一瞬にして力が抜けて座り込むような発作、短時間身体をピクピクさせる発作、意識ははっきりしていて突然怖い感じがしたり音が聞こえたり匂いを感じる発作、突然動作が止まり反応が鈍くなる発作、これらに続いて変な行動をする発作などがあります。
 このような“普段と違うことが突然起こり、同じことが繰り返される発作”がみられたら、スマートフォンなどで動画に撮って受診されることをお勧めします。てんかんは精神科の他に、小児科、神経内科、脳神経外科で診療を行います。

 睡眠-覚醒障害には、不眠障害、過眠障害、ナルコレプシー、呼吸関連睡眠障害、概日リズム睡眠―覚醒障害群、ノンレム睡眠からの覚醒障害、悪夢障害、レム睡眠行動障害、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)、物質・医薬品誘発性睡眠障害が含まれます。
 不眠障害は、寝つけない、何度も目が覚めてしまう、あるいは再び寝付けない、短時間で目が覚めてしまうなどの睡眠についての不満が強く、社会での生活や活動に影響を及ぼしている場合、その睡眠困難が少なくとも一週間に3夜程度みられる場合、さらにそれらが長期間持続する場合などに医療の対象になります。ただし、睡眠は人によりその標準が異なり、状況の変化に影響されやすいものです。交代勤務型による睡眠リズムの乱れ、むずむず脚症候群、呼吸関連睡眠障害群、過眠症、カフェインやその他の薬物によるものなどを区別する必要があります。また、不眠障害は糖尿病、心臓血管障害、慢性閉そく性肺疾患、関節炎、慢性疼痛性のなんらかの病気など、多くの身体疾患にも合併するため、これらの身体疾患の診断も重要になります。さらに、双極性障害(躁うつ病)、うつ病、不安性障害、アルコール依存症や薬物依存症などの精神障害でも不眠障害はよく見られるため、精神科医は注意深く診察します。
 過眠障害、ナルコレプシー、呼吸関連睡眠障害、概日リズム睡眠―覚醒障害群、ノンレム睡眠からの覚醒障害、悪夢障害、レム睡眠行動障害などが疑われる場合は、日本睡眠学会睡眠医療認定医などの専門医に紹介します。