GUIDE 精神科医療ガイド

精神科病院入院治療の解説(標準的な治療法)

主な精神障害の入院治療と療養生活の実際について説明します。
すべての入院患者さまに共通するのが生活指導と対人関係の改善や娯楽参加、悩みや心配事の傾聴および作業療法です。

① 生活指導
・夜寝て昼間起きているという生活のリズムを整えます。
・バランスのとれた三度の食事をとっていただきます。
・定期的な入浴や手洗いを行い清潔の保持に努めます。
・歯磨き・洗顔・ひげそりなどの整容、衛生的な衣類を着用します。
・身の回りの整理整頓に努めます。
 
② 対人関係の改善・娯楽参加
・医療スタッフや他の患者さまとの対人的ふれあいの機会を作ります。
・談笑・ゲームなどへの参加を促します。
・テレビ・個人での音楽鑑賞や、カラオケなどの娯楽に参加します。
 ただし、うつ状態時に他人との交流が苦痛な場合は、ベッドで休んでいただきます。
 また、気分の高揚などの躁状態時には対人トラブル防止のため他人と距離をとることを指導します。
 
③ 悩みや心配ごとの傾聴
・看護師・精神保健福祉士・公認心理士・医師などが悩み事や心配事を傾聴し、適切な助言を行います。
 
④ 作業療法
・自己管理能力を高め、社会生活機能の回復を目的として、ご本人の希望のみならず社会での適応や生活技術向上のために、医師や作業療法士がプログラムを作成します。手工芸、絵画、陶芸、園芸、料理、音楽、ストレッチ・ヨガ、各種スポーツ、季節レクレーション、PC操作などがあります。

 統合失調症の患者さまに対して、精神療法および薬物療法、疾患教育、認知療法を行います。
 精神療法は、医師が受容的な態度で傾聴し、過度な心配や悲観的になるのを防止し、自らが病状を受け入れ、治療しながら生活できるよう助言を与え、ご本人を支持していきます。
 薬物療法は、抗精神病薬に分類される薬物を副作用に注意しながら処方します。症状によって、抗不安薬や気分安定薬や睡眠導入薬などを用います。最近では、錠剤の他、内用液、口腔内崩壊錠、舌下錠、テープ剤、持効性注射剤など様々な剤型の使用が可能となり、ご本人の意見も取り入れて処方します。薬剤師による服薬指導も行います。
疾患教育は、病気の原因や症状の特徴、治療方法、薬の効果と副作用、退院後の生活の注意点、社会的資源の紹介と活用法などについて、医師・薬剤師・看護師・公認心理士・作業療法士・精神保健福祉士などの専門スタッフが、個別であるいはグループで説明し勉強します。
 認知療法は、例として実際には存在しない声なのか実際のものかの区別方法や、それらに影響されない日常生活上での対処法、気分の落ち込みが激しいときの対処法などについて医療スタッフが解説し実際の対応を学習します。

 精神療法、薬物療法、疾患教育、認知療法などで治療します。
 医師が受容的な態度で傾聴し、過度な心配や悲観的になるのを防止し、自らが病状を受け入れ、治療しながら生活できるよう助言を与え、ご本人を支持していきます。
 薬物療法は、炭酸リチウムなどの向精神薬を副作用に注意しながら処方します。症状によって、抗不安薬や睡眠導入薬などを用います。特に炭酸リチウムは最も使用される薬物ですが、リチウム中毒や腎機能障害などの副作用に注意し、定期的に血中濃度を測定しながら使用していきます。
 疾患教育は、病気の原因や症状の特徴、治療方法、薬の効果と副作用、再発防止策、退院後の生活の注意点、社会的資源の紹介と活用法などについて、医師・薬剤師・看護師・公認心理士・作業療法士・精神保健福祉士などの専門スタッフが、個別であるいはグループで説明し勉強します。
 認知療法は、気分の落ち込みが激しいときの対処法、あるいは躁状態での対処法などについて医療スタッフが解説し実際の対応を学習します。就労準備のための作業療法プログラムを用意しているところもあります。

 軽症の場合は入院するよりも外来で治療したいと考えるのが普通だと思います。しかし、うつ病の治療は、何よりも心身の安静と休養が必要です。従って、症状の軽重よりも、常にそばでケアしてくれる人がいるか、家庭環境が心身の安静を守るのに適しているかが大切です。特に、睡眠が十分にとれない、不安や焦燥感が強い、食欲がない、死にたい気持ちがある場合では入院治療が望ましいでしょう。最近ではうつ病治療に適したストレスケア病棟を用意している病院もあります。症状が軽減すると、様々なリハビリテーションプログラムに参加します。

 不安性障害には、全般性不安障害、広場恐怖、社会恐怖、強迫性障害、身体表現性障害などがあります。これらの重症例では入院治療を要することがあります。精神療法、認知行動療法、薬物療法などで症状の改善を図ります。
 精神療法では、不安を傾聴し支持的に接し、症状への対処法について助言や提案します。認知行動療法は、パニック障害や社会恐怖などに有効とされ、偏ったものの考え方や行動によって生じている症状を、その考え方や行動を修正していくことで不安症状を軽くしていくものです。森田療法は、日本で生まれた精神療法で、不安を取り除こうとするのではなく症状を受け入れる「あるがまま」の心の姿勢を獲得することにより、「とらわれ」の機制から解放されることを目標とするものです。これらの療法は、その病気または個人によって適応、不適応がありますので担当医に相談してください。
 薬物療法は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やベンゾジアゼピン誘導体が主に用いられ、不安の軽減を図ります。入院治療を要する病状には、これらに加えて、抗精神病薬に分類される薬物が使用されることもあります。

 その方にとってはっきりと確認できるストレスによって、通常の生活が困難となるほどのなんらかの症状があり、そのストレス因子が除去されればそれらの症状が消失する病態です。ストレスを体験してから症状が出るまでの時間と症状の持続期間、ストレスの性質によって、①急性ストレス障害、②外傷後ストレス障害(PTSD)、③適応障害に分類されます。 病状によっては入院治療を必要とすることもあります。
 急性ストレス障害は、急激なストレス反応であり、セロトニン選択的取り込み阻害薬(SSRI)や抗不安薬等の薬物療法により症状を軽減しながら、傾聴と支持的精神療法を行っていくことにより改善を図っていきます。時間的経過もその治療要因の一つとなるでしょう。
 外傷後ストレス障害(PTSD)は、急性ストレス障害に比べて改善までに時間を要することがあります。薬物療法に加えて、認知行動療法や自律訓練法を組み合わせていきながら、恐怖体験が記憶に残ったこころの傷『トラウマ』を消化していくことが、治療目標となります。
 適応障害は、精神療法やカウンセリングにより症状軽減を図ります。抗不安薬などを用いることもあります。その原因となる環境や状況の調整を図り、疲弊している心的エネルギーを充電・回復させるために、一定期間の休養が必要こともあります。

 摂食障害は、神経性食欲不振症・思春期やせ症・拒食症・過食症などが含まれ、スリムをもてはやす社会・文化的要因、絶えずさらされている競争や対人関係等の社会的ストレス(心理的要因)、親子(特に母子)関係での問題(家庭環境要因)そして元来のパーソナリティ(性格要因)が関係しているとされています。また、脳内の情動制御を担っている扁桃体等の神経系が複雑に絡み合っているともされています。よって治療は、心理的要因、家庭環境要因、性格要因、生物学的要因を考慮しながら多面的に治療アプローチしていく必要性があります。
 正常な食行動を取り戻すことを目指しながら、偏った考え方を認知行動療法等にて修正していくことで、心身状態を整えていきます。重篤な身体合併症(重度の栄養不良症、低カリウム血症、心不全、糖尿病など)を併発し、時に生命的な急変を認めることがあるため入院治療が望まれます。
 神経性過食症は、発作的に繰り返される過食とその渇望、そして体重をコントロールするために自ら誘発する嘔吐、緩下剤の乱用などがあります。抑うつや不安焦燥感などの精神症状もみられます。この治療は、向精神薬による精神症状の安定化と自己誘発嘔吐、緩下剤の乱用、薬物乱用等の行動化の修正を図りながら、正常な食行動の獲得を目指します。

 認知症は、認知障害、行動精神症状、神経症状がありますが、患者さまによりそれらの症状の有無や程度は異なります。個々の患者様の症状に合わせて、治療計画と看護・介護計画を作成します。
 認知障害に対して、医師が認知機能障害の進行抑制を目的として、コリンエステラーゼ阻害薬などの薬物療法を行う場合があります。また重篤な行動精神症状に対して薬物療法を行うことがあります。さらに患者さまの気分や感情を安定させる目的として、回想法、音楽療法、作業活動療法などが医師、看護師、作業療法士、臨床心理士などによって行われます。日常の療養生活に対する指導と介助が看護師、介護福祉士などによって行われます。回想法、音楽療法、作業活動療法について説明します。
 
① 回想法
 高齢者の過去の人生の歴史に焦点をあて、過去、現在、未来へと連なる人生歴を傾聴することを通じて、その心を支えることを目的とする療法です。何か新しいことを記憶し学習するものよりも抵抗感や負担が少なく、過去に慣れ親しんだ道具や生活用品を見ることにより患者の五感や感情を刺激し、認知機能や情動を活性化する効果があると考えられています。孤独感や不安感の軽減、自尊心の向上、意欲の高まり、対人交流の促進などの効果が期待されます。
 
② 音楽療法
 音楽療法は取り組みやすく、受け入れやすいため、広くおこなわれています。身体運動機能や言語機能や情緒に対して、音楽を通して刺激を与え、機能改善を目指すリハビリテーションと位置付けられています。実際は、なじみのある曲を観賞する、歌う、発声する、体でリズムを刻む、楽器を鳴らすなどの活動を行います。
 
③ 作業(活動)療法
 認知症の進行防止あるいは生活能力の回復を目標に、その方の認知症の程度や本人の希望から作業活動の種目を選びます。園芸、音楽、絵画、書道、ゲームレクリエーション、軽運動、編み物、製菓・調理、ペット世話などがあり、作業療法士や看護者が指導します。

 これらの精神障害の治療は、背景にある身体疾患の治療が基本ですので、精神科と身体各科と連携して治療を行います。身体疾患の治療に伴い精神症状の軽快がみられますが、脳に大きな損傷が残ると、認知障害や精神病症状あるいは人格変化が残る場合があり、精神科病院での治療が継続されます。精神科病院では、生活指導、社会生活のためのリハビリテーション、薬物治療などが行われます。

 自閉スペクトラム症や注意欠如・多動性障害などが含まれます。神経発達障害の治療は、その人の特性を理解することから始まります。本来は幼少期に何らかの特徴がみられますが、学校生活を終えた後に仕事や対人関係などでうまくいかず不安や抑うつ症状で明らかになることがあります。同じ障害を持つ人でも個別性が高いため当事者と周囲の人がその人の特性を理解し、その方に応じた対策と支援の工夫が必要です。
 発達障害のなかには薬物療法が奏功するタイプもあります。その効果と副作用を説明して使用します。
 強い衝動性などの行動化や抑うつ症状を認める場合は入院治療が望まれます。

 原因として、幼少時の体験や療育環境との関連や、生物学的な神経基盤に関する研究が進められていますが十分に解明されていません。またパーソナリティ障害は他の精神疾患を合併することがあり、治療を複雑化してしまう要因ともなってしまいます。
 治療は、当事者と治療者の間で十分にコミュニケーションをとり、信頼関係に基づく治療環境を構築することが重要になります。双方で問題点を共有し、それに応じた対応を繰り返していくことが治療の基本となります。衝動性の高い状態や、うつ病などの他の精神疾患を合併している場合には、入院治療が望まれます。

 アルコール依存症治療の基本は断酒であり、身体と精神両面の治療が必要です。初期治療は、アルコール離脱症状(振戦せん妄)と肝障害などの身体合併症の治療が必要なため、入院治療の上、安全かつ保護的環境のもとでビタミン剤を含む補液などを行います。身体機能の回復の後に断酒の継続に向けた心理社会的治療を行います。多くの専門機関では、アルコール・リハビリテーション・プログラム(ARP)を用い個人・集団精神療法などが行われます。
 退院後も継続した断酒が必要不可欠なために、自助組織への参加(断酒会、AA=アルコーリックス・アノニマス)や、専門外来で抗酒剤・飲酒欲求(渇望)低減薬などの薬物療法を行います。基本は断酒・禁酒ですが、心身両面の問題が軽い場合や断酒目標の設定が困難な場合は、飲酒量低減(節酒)を行うこともあります。

 アルコールによる精神病性障害は、振戦せん妄(アルコール離脱時の手指振戦および意識障害を伴った幻覚や興奮状態)、離脱時けいれん発作、幻覚症、妄想症、うつ状態、健忘症候群(認知症)などがあります。それぞれの病状に応じた治療を行っていきます。
 アルコール精神病の治療は断酒が基本なため、急性期から心理社会的治療を行い、断酒指導、集団精神療法、自助組織への導入などを行います。併発するうつ病や双極性障害などの治療も同時に行います。
 アルコールが関係する精神障害は、本人のみならず、家族、職場、その他の社会的な問題が関係するため多面的な対策と援助が必要です。このような観点から、2013年にアルコール健康障害対策基本法が制定され、全国の都道府県、指定都市で基本計画の策定や関連施策が掲げられています。これらの活用も今後の課題です。

 てんかんに伴う精神症状が重篤な場合に精神科病院で治療が行われます。不機嫌や興奮、幻覚や妄想症状、うつ症状あるいは躁症状、他害行為などの症状が入院治療の対象になります。生活指導、社会生活のためのリハビリテーション、薬物療法などが行われます。

 睡眠障害の原因として、身体疾患、精神心理的障害など様々な基礎疾患が関与することがあります。精神心理的障害疾患による場合は精神科医により、睡眠衛生指導を行います(「睡眠指導対処12の指針」(厚生労働省研究班作成))。例として、睡眠時間は人それぞれであること、8時間にこだわらないこと、日中の眠気で困らなければ十分であること、眠くなってから床に就くこと、朝同じ時間に起床すること、目が覚めたら光をとりいれることなどです。
 それらの指導でも十分な睡眠が得られないときには薬物治療を行います。ただし、漫然処方にならないように注意深く治療を行っていきます。
不眠障害がうつ病、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症など何らかの精神疾患によるものである場合、社会生活上の強いストレス要因が推測される場合、睡眠を含む生活リズムの著しい乱れがある場合などに入院治療を進める場合があります。
 また、過眠障害、ナルコレプシー、概日リズム睡眠―覚醒障害群、ノンレム睡眠からの覚醒障害、悪夢障害、レム睡眠行動障害などについては睡眠医療認定医が、呼吸関連睡眠障害については呼吸器専門医、睡眠医療認定医などが治療を行います。