EDUCATION 各種研修会

2019年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 栄養士部門

9月26日(木)・27日(金)
ANAクラウンプラザホテル富山(富山 )

令和元年度日本精神科医学会学術教育研修会栄養士部門は令和元年9月26日(木)、27日(金)の両日にわたり日本精神科病院協会富山県支部の担当でANAクラウンプラザホテル富山を会場に開催された。「心と身体にとどく食事~くすりの街 富山から~」をテ-マに全国各地より125名の受講生が参加した。

 第1日目午前の会長講演は「精神科医療の将来展望」と題して、山崎學会長が講演をされた。精神保健福祉行政の歩み、精神保健福祉の動向、精神科医療の将来像、精神科医療における社会的偏見などについて詳細に話をされた。
最初に明治時代から現代にかけての精神保健福祉行政の歩みについて不幸な事故や事件を経て法改正を重ね収容から治療そして地域移行に向かっているという内容を話された。   次に精神保健福祉の動向、認知症、精神科医療の将来像等について会員病院数と精神病症認可病床数の変遷、疾患別の入院患者数および在院日数の推移と国内外の比較、高齢化社会に向けての人口動態予測や介護、看取り、経済に関する推移、予測および政策に関して、諸外国との比較を交えて説明された。更に精神科医療における偏見については日本の精神科病床は本当に多いのか、精神科病院に入院すると縛られるのか、薬漬けにされるのか、医療観察法は適切なのかについて話された。最後に日本精神科病院協会は社会的な偏見を打破し、適切な精神科医療体制の構築を目指すと宣言された。

 第1日目午後の講演2は「栄養士が知って得するリハビリテーションの知識 ―ICF・嚥下機能評価・METSを中心に―」と題して、やわたメディカルセンターリハビリテーション科長池永康規先生が講演された。内容は①リハビリテーションは何をしてるの?(国際分類ICFについて)、②筋トレ以外にどんな訓練をしてるの?③栄養に関係する嚥下障害評価について、③胃ろう、経鼻経管栄養の注意点、④リハ強度に応じた栄養プラン作成(METSの利用)についてであった。ICF分類に関わるすべての要素にアプローチするのがリハである。筋トレだけがリハビリなのではなく認知機能(記憶、注意力)やコミニュケ―ション(言語訓練)のみならず退院後の福祉サービス準備や家族の介護指導、住宅改修も広義の意味でリハビリであるという内容であった。またバックグランドが異なるメンバーは喋る言語(評価)も異なるため共通言語(概念)を使い目標を統一し行動する必要があると説明された。経口摂取に必要な嚥下評価を行い経口摂取開始の判断しリハビリに伴う運動量の変化をMETSを利用し消費カロリーを計算し調整する事が重要であると結んだ。
次に、講演3は「摂食障害の心理について」と題して、追手門学院大学 心理学部教授 中村このゆ先生が当事者であるNPO法人あかりプロジェクト代表理事山口いずみ先生と共に講演された。 まず最初に中村このゆ先生より摂食障害の診断基準や分類、後発年齢などの疫学について話された。次に発症要因や社会文化的背景について話された。ありのままの自分を受け入れることが大事であると結ばれた。次いで山口いづみ先生より当事者である自分自身の発症当時やその後の心理的変化をピラミッド型の図表を提示しながら説明された。山口いづみ先生は摂食障害に悩む人への接し方について①自分自身の気持ちをメッセ―ジで伝えること、②悩んでいる人の気持ちを聞きたい、力になりたいというメッセージを恒常的に伝えること、③何かをいいたくなったときには気持ちをたずねてみる事が大切であると説明された。
第1日目最後のプログラムとしてシンポジウム「多職種で学ぶ食へのアプローチ」が行われた。オーバービュアとして石岡拓得先生(弘前愛成病院栄養科長)から、高齢患者が増えるに伴い、残存歯数や舌圧の低下、認知症患者では安全確実な摂食が困難であることがデータで示され、精神科領域での食の問題に多職種で関わることの意義がまず強調された。
シンポジストの岡浦真心子先生(らいず訪問看護ステーション精神科認定看護師・PSW)から、訪問看護先の利用者の食に関する訴えが紹介され支援の課題が示された。中村清子先生(草津病院摂食嚥下障害看護認定看護師)から、嚥下障害を呈する患者への食支援に関わる、概観・機能の評価・リスク管理について話された。亀岡浩史先生(富山リハビリテーション病院こども支援センター言語聴覚士)より、精神疾患がある場合には、摂食嚥下障害者の割合や窒息数が格段に高いことが示された。低栄養・窒息・肺炎を防止するために、食物の形態や与え方を示され、個々の患者の食生活史にヒントがあると話された。佐藤良枝先生(曽我病院作業療法士・バリデーションワーカー)からは、患者の摂食機能を心理的および身体的観点から理解し、食事介助の協同作業により行動変容が生ずる可能性について話された。

 初日の研修会終了後、同ホテルにおいて引き続き懇親会が開催された。地元の山海の食材を堪能させていただくとともに美味な地酒の試飲コーナーも好評のようだった。アトラクションとして富山県の伝統芸能である、越中おわら・こきりこ節太鼓が披露され勇壮で素朴な演技を拝見させていただいた。全国から集まった大勢の参加者同士の親睦が図られ最後に時期開催地である高知県の担当者より挨拶があり盛会のうちに終了した。

 2日目講演4として「若々しく元気長寿への秘訣-未病ケアに和漢膳-」と題して板倉啓子先生(一般社団法人和漢薬膳食医学会理事長)が講演された。和漢膳の概念、効能を腸内細菌叢や消化管機能などの観点から説明された。
最後の講演5は、「認知症患者の摂食嚥下障害への歯科的対応」を藤本篤士先生(札幌西丸山病院歯科診療部長)がお話しくださった。高齢者の嚥下障害を主なテーマとして、日頃目にすることの少ない、嚥下運動の動画や義歯の画像や具体的な食事介助のシェーマも多用されて説得力ある分かりやすいお話しだった。
講演終了後に閉講式が行われ、日本精神科医学会から受講者代表への受講証書授与に続き、日精協富山県支部へ感謝状が贈呈された。同医学会からの挨拶の後、支部長谷野亮一郎先生が閉講の挨拶をされ、2日間の全日程を無事終了した。
報告を終えるにあたり、本研修会の企画・運営に当たられた谷野富山県支部長並びに富山県支部の諸先生方および関係者の皆様方に御礼を申し上げますとともに富山県支部のますますのご発展をお祈り申し上げます。

令和元年度日本精神科医学会学術教育研修会報告 鶴岡義明 稲野 秀