EDUCATION 各種研修会

2019年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 作業療法士部門

9月19日(木)・20日(金)
アートホテル弘前シティ(青森)

令和元年度の日本精神科医学会学術教育研修会作業療法士部門は、令和元年9月19日(木)・20日(金)の2日間にわたって、青森県弘前市のアートホテル弘前シティにて『広がる精神科作業療法士の活躍の場』というテーマで開催され、全国から85名の受講生が参加した。

開講式では、日本精神科病院協会青森県支部長の田崎博一先生が開会の挨拶をされ、続いて日本精神科医学会 山崎 學学会長が挨拶をされた。来賓として、青森県知事 三村申吾様(代読:青森県健康福祉部障害福祉課長 工藤康成様)、弘前市長 櫻田 宏様、一般社団法人青森県作業療法士会 会長 原長也様より祝辞を頂いた。

はじめに会長講演として、「精神科医療の将来展望」と題して、日精協 山崎 學会長がご講演された。最初に精神保健福祉行政の歩みとして、過去の歴史的背景から現在に至る精神科医療の歴史を述べられた。またこれまでの精神保健福祉の動向や、それに基づく我が国の精神科医療の将来像を話され、少子高齢化社会における精神科医療の大切さを述べられた。日本での精神科医療への偏見のある中、ローマ法王に会われて激励されたことやこれからの精神科医療での作業療法士の役割を話された。

講演Ⅰでは、「発達障害の理解」と題して、弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座 准教授 斉藤まなぶ先生がご講演された。発達障害における基礎的な理解に加え、二次障害、支援内容、幼児期の研究からの新知見などについて話された。その中で、二次障害の発生には時間による熟成が関係しており、早期発見・早期介入をすることが重要で、予防が可能であると述べられた。また、支援はインクルーシブにシフトしつつあり、集団の中で集団の力をいかに使って支援していくかが問われていると述べられた。最後に、子どもの地域生活を理解し支援ができる作業療法士として、療育の場での活躍を期待していると話された。

講演Ⅱでは、京都府立洛南病院リハビリテーションセンター長の岩根達郎先生により「精神科医療職としてのDPATの理解」と題してご講演いただいた。先の東日本大震災で精神科医を中心とする「こころのケアチーム」が派遣されたが、孤立した精神科病院があったり、情報不足、受診困難など様々な課題が見つかった。その課題を整理して、新たに国及び自治体が整備する形での「DPAT」となった。DPATは医師、看護師、業務調整員で構成され、業務調整員はマネージャーみたいな役割を担い、様々な職種の人が登録されており、私たち作業療法士も参加している。ここ数年各地で、地震や、洪水の被害が増加し、実際に出動する機会も増えているため、是非作業療法士もDPATに参加してほしいとの要望を述べられた。

講演Ⅲでは、「認知機能障害と個別作業療法」と題して、信州大学医学部保健学科作業療法学専攻 教授 小林正義先生がご講演された。統合失調症に対する個別作業療法の効果を検証した一連の研究を紹介し、個別作業療法を行った群は集団作業療法のみの群と比べて、言語性記憶やワーキングメモリ、言語流暢性、注意などの認知機能や内発的動機付けが有意に改善し再入院が少なかったと述べられた。そして、一人当たりの医療費が平均30万低くなり治療的な費用対効果が高かったとし、 現在の精神科作業療法の旧態依然とした算定基準が個別対応を阻む要因になっていると嘆かれた。

初日の研修会終了後には懇親会が開かれた。弘前やまぶき会によるちびっこ手踊りや、撫牛子登山囃子保存会による笛や鉦、太鼓での演奏が披露され、参加者のお酒もとくにすすみ、会は盛況のうちに終了した。

第2日目の講演Ⅳは文化講演で、「津軽弁とコミュニケーション」と題して、方言研究科・弘前川柳社の渋谷伯龍先生がご講演された。弘前では、地元では96%の人が方言を使い、全国1位であり、方言主流社会である。それに対し仙台の人は共通語中心社会にあるという。津軽弁は、昔の大和ことばが残って転化したものが多い。例えば自分の事を「わ」、二人称を「な」と言うことなどがそうである。講演の中で、実際使われている津軽弁を数多く紹介され、何の意味か当てさせるクイズをして、正解者には津軽弁の葉書を贈呈するなどされて、始終なごやかな時間を過ごすことができた。最後には「1日を大事に生きる。よく笑う。」と言われ、笑顔の大切さを話された。

講演Ⅴでは、「地域における作業療法士の役割について」と題して、 東北文化学園大学 医療福祉学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 教授 香山明美先生がご講演された。 2018年5月に日本作業療法士協会の作業療法の定義が改訂されたことを紹介し、作業療法士の役割は医療領域だけではなく、人々の健康と幸福を促進するために、対象者の生活をより身近なところで支援できる知識と技術が求められていると話された。その中で地域包括ケアシステムや訪問看護など、さらには災害支援における役割についても触れ、作業療法士は病院から出て地域で活躍していってほしいと述べられた。

講演終了後、閉講式が行われ、日本精神科医学会より受講生代表者への受講証書の授与、続いて青森県支部への感謝状の贈呈が行われた。同医学会からの挨拶の後、田崎博一支部長の閉講挨拶をもって二日間の全日程を終了した。

本研修会の報告を終えるにあたり、田崎博一先生を始めとする青森県支部の諸先生方並びに関係者の皆様に、このような充実した研修会を開催していただいたことに深く感謝申し上げるとともに、青森県支部の今後の益々のご発展をお祈り申し上げたい。

(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会 吉田建世 坂本隆行)