EDUCATION 各種研修会

2017年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 事務部門

2017年9月14日(木)~15日(金)
ホテル金沢(石川県)

平成29年度の日本精神科医学会学術教育研修会 事務部門は、9月14日(木)・15日(金)の両日にわたり、日本精神科病院協会石川県支部の担当で『変化を乗り越える精神科病院の運営とは』というテ−マにて、全国各地から307名の受講生が参加し、ホテル金沢(金沢市)において開催された。

開講式では日精協石川県支部長・青木達之先生が開講の挨拶を、続いて日本精神科医学会・山崎學学会長が主催者としての挨拶をされた。さらに来賓の石川県医師会 副会長・上田博様から祝辞をいただいた。

第1日目の講演1は、「精神科医療の将来展望」を日精協・山崎会長が講演された(座長:青和病院 理事長・院長 青木達之先生)。初めに海外とわが国の精神科医療の歴史を振り返り、精神科許可病床数と入院患者数の変遷や疾病ごとの内訳(外来・入院)、諸外国との対比、平均在院日数を示された。わが国の精神病床利用率の全国平均は約90%であり、徐々に減少しつつある。また、入院における認知症性疾患患者の割合がほぼ一定していることが意外であった。次いで、社会保障給付費の推移と社会保障費財源のデータから、社会保障費支出の増大に対応するためになんらかの改革が必要であると話された。最後に精神科医療の課題として、①地域移行、②高齢精神障害の増加、とくに認知症問題、③うつ病患者の増加、④とくに若年世代の自死について、⑤遅れている発達障害対策、とくに大人の発達障害と過剰診断問題、⑥児童精神科医の不足、⑦総合病院精神科病床の減少、⑧臨床研修医制度から始まった医局崩壊と指導医不足、⑨相模原障害者施設殺傷事件の検証と精神保健福祉法および医療観察法の抜本的見直し、⑩専門医制度、⑪精神保健指定医不正申請問題、とまとめられた。

ランチョンセミナーでは「神経伝達物質と栄養」を魚谷千草先生(医王ヶ丘病院 精神科医師)よりお話しいただいた(座長:十全病院 理事長・岡 敬先生)。主な内容は、種々の栄養素が精神機能に与える影響と、最後は砂糖の中毒性および耐糖能異常についてであった。

講演2は、「患者が求める精神科医療」を山口育子先生(認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML 理事長)が講演された(座長:粟津神経サナトリウム 理事長・秋山典子先生)。患者から寄せられる相談の内容(医療システム、医療費、病についての苦悩など)を中心にコミュニケーションの齟齬があることを言われ、相談総数の約2割が精神疾患関係であるとのこと。現在、患者は豊富な情報を得ることができるが、それを正しく取捨選択するのは難しいこと、そして患者と医療者が感情的にこじれないためには適切な言葉遣いに注意し、慣れを戒め、感性を働かせて患者の心に寄り添う姿勢が求められるとまとめられた。

講演3は、「精神科医療の“これから”を考える」とのタイトルで、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 医療経済学分野 教授・川渕孝一先生が講演された(座長:桜ヶ丘病院 院長・岩﨑真三先生)。まず、わが国の精神医療の沿革を概説されたのち、精神医療改革の必要性、診療報酬体系の見直し(地域移行支援、精神科専門療法と薬物療法、急性期治療など)を検証された。さらに、「そもそもわが国の精神科診療報酬体系は妥当か?」との命題についての検討を紹介された。結論として、①一般病棟・療養病棟ともケースミックスが原価(投入時間)を反映している、②現行の診療報酬は原価およびケースミックスを反映しておらず、一定の歪みが生じているとされた。最後に、企業活動へのメンタルヘルスの重要性を強調されていた。

講演4は、「私の襲名」を地元の美術家・陶芸家である十一代大樋長左衛門先生がお話しされた(座長:医王ヶ丘病院 理事長・岡 宏先生)。ご自分の生い立ちから説き起こし、現在に至る創作活動や日本文化に関するあれこれを情緒豊かな映像を交えて紹介していただいた。聴衆には金沢の良い思い出になっただろうと思う。

第1日目の研修終了後より、同会場にて盛大に懇親会が開催された。本研修会の開催に尽力をいただいた日精協石川県支部の先生方の細やかなおもてなしにより、参加者は相互の懇親を深め、心地よいひとときを過ごすことができた。

第2日目の講演5は、ときわ病院 院長・炭谷信行先生の座長で「地域精神科医療の新たな構築〜動向に与える二つの視点〜」と題して、髙島医業経営・情報事務所 代表・髙島道雄先生が講演をされた。精神保健福祉法と医療計画の2つの視点から、今後の精神病床の機能分化の方向性と循環的医療提供の必要性、重度かつ慢性期の治療機能の重要性、新たな取り組みとして地域の医療機関、公的機関との関わり方を、経済的な側面も含めて具体的な構築方法を示された。

研修会最後の講演6は、岡部病院 理事長・前田義樹先生の座長で「病院職員による患者トラブルへの対応とリスク管理」と題して、虎の門病院 事務部次長・北澤 将先生が講演をされた。トラブルはクレームとはレベルが違い、大きな問題に発展する可能性が大きいことを話され、トラブルの社会的背景、頻発している案件とその経緯、さまざまな要求の問題点について、事例を交えて具体的な対応方法を示された。また、終わりにトラブル解決は医学的見解の統一と病院が一丸となって取り組むことの重要性を話された。

講演終了後は、定刻通り閉講式が行われた。日本精神科医学会より受講者代表への受講証書授与、石川県支部への感謝状が読み上げられた。最後に日精協石川県支部長の青木達之先生より閉講の挨拶があり、2日間の全日程が終了した。

本研修会の報告を終えるにあたり、青木達之支部長をはじめ、本研修会を企画・運営された石川県支部会員の先生方および事務局、関係者の方々に深く感謝を申し上げますとともに、石川県支部のますますのご発展を祈念申し上げます。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会/飯島 徳哲  稲野  秀)