EDUCATION 各種研修会

2014年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 薬剤師部門

2014年 9月18・19日
いわて県民情報交流センター アイーナ (盛岡市)

 平成26年度の日本精神科医学会学術教育研修会薬剤師部門は,平成26 年9月18~19日(木~金)の両日にわたり,日精協岩手県支部のご担当により,「いわて県民情報交流センター アイーナ」(盛岡市)で開催された。「温 故知新 ~精神科病院薬剤師の専門性と発展を求めて~」としたテーマのもと,全国から97名の参加があり盛大に行われた。
  開講式では,日精協岩手県支部長・伴 亨先生の開会挨拶に引き続いて,日本精神科医学会学会長・山崎 學先生が挨拶をされ,来賓挨拶として岩手県保健福祉 部参事兼障がい保健福祉課総括課長・鈴木 豊様と,一般社団法人岩手県薬剤師会会長・畑澤博巳様より祝辞をいただいた。

 第1日目の会長講演では,『精神科医療の将来展望』との演題で,日精協・ 山崎 學会長がご講演された(座長:伴 亨先生)。精神保健福祉行政の歩みや精神保健福祉の動向,認知症,平成26年度診療報酬改定,精神科医療の将来像 について多岐にわたる内容を,豊富な資料や統計データを引用してわかりやすくお話しいただいた。その中で,これからの精神科医療は高齢社会における認知症 患者の精神科医療モデルを確立することが重要であるとした。また,会員病院はそれぞれの地域特性を考えて経営戦略を立てる必要があるとし,少子化による医 療従事者の確保の困難には病床削減や施設化,外国人労働者の雇用などの対応が必要になってくると述べられた。
  引き続いての招待講演は,岩手医科大学薬理学講座教授・平 英一先生の座長で,弘前大学名誉教授・北東北てんかんセンター長 兼子 直先生による『これだ けは知っておきたい抗てんかん薬の知識』と題しての講演が行われた。てんかん治療における分類診断の重要性とその難しさについての指摘に始まり,個々の分 類に応じた薬物療法の提示がなされた。続いて,それぞれの薬物における副作用や催奇形性・相互作用について,最新の知見を交えてわかりやすく説明がなされ た。
 昼食時には,未来の風せいわ病院院長・田嶋宣行先生を座長に,東邦大学薬学部教授・吉尾 隆先生による『統合失調症における薬物治療の適正化』と題されたランチョンセミナーが催された。
  午後からの講演Ⅰでは,『院内感染対策における薬剤師の役割』と題して,岩手医科大学薬学部臨床薬剤学講座教授・同附属病院薬剤部長の工藤賢三先生(座 長:宮古山口病院院長・及川 暁先生)が講演された。院内感染対策の現状や課題,院内感染リスクにおける精神科病院の特殊性,標準予防策や感染経路別予防 策などの感染対策の基本について触れたあと,岩手医科大学附属病院が2005年から導入した感染経路別ゾーニングシステムについての紹介があった。同病院 では,実施すべき予防策を指標色制定(color coding)により視覚的に周知させることにより,医療用手袋の使用量の増加やMRSA発生届出件数の減少など,感染制御指標の改善が得られたとのこと であった。
 講演Ⅱは,玉山岡本病院理事長・院長 坂本文明先生の座長 で2席の講演が行われた。まず,岩手医科大学神経精神科学講座助教・工藤 薫先生により『大量服薬による自殺企図の実際とその対策について』と題して,岩 手医科大学での取り組みや統計が提示された。2席目は青南病院薬剤部黒沢雅広先生による『精神科病院薬剤師の“これまで”そして“これから”』について, 岩手県内の精神科病院における薬剤師および薬剤業務の現状と展望について発表がなされた。
  第1日目最後の講演Ⅲは,『日本酒と日本文化酒は百薬の長』と題して岩手県酒造組合会長・菊の司酒造株式会社代表取締役社長 平井 滋先生(座長:盛岡観 山荘病院理事長・院長 小泉幸子先生)による講演が行われた。日本酒の歴史や製造工程(醸造),種類や特徴について触れたあと,日本の文化や伝統行事にお いて日本酒が重要な意味をもってきたことの紹介があった。また,都道府県民によってアルデヒド脱水素酵素2遺伝子によるアルコール代謝能に違いがあること や,適正飲酒についても触れられていた。
 夕刻 より近隣ホテルに会場を移して盛大に懇親会が催された。盛岡に居を構えるトランぺッター,箱石ひろと&イエローラビッツによるジャズ演奏やわんこそば大会 が行われ,会場は盛り上がり,日精協岩手県支部の先生方やスタッフの細やかな気配りにより,すべての参加者が心地よい時間を過ごすことができた。

 第2日目の講演Ⅳは,都南病院理事長・鹿野亮一 郎先生の座長で『海外メンタルヘルス事情』と題して,外務省メンタルヘルス・コンサルタント 鈴木 満先生が講演をされた。海外に在留する邦人の統計に始 まり,メンタルヘルスにおける精神科医療過疎状態の問題が指摘された。また,その対策としてそれぞれの地域での文化や多様性への適応が肝要であるとの報告 があった。くわえて,この状態が岩手県の現状に酷似しており,同様に対策が必要であるとの指摘も含まれていた。
  続いて最後に教育講演として,『黒と白のヘレボロス~西欧古来の精神疾患治療薬について~』と題して,岩手医科大学神経精神科学講座教授・同附属病院院 長・酒井明夫先生(座長:伴 亨先生)が講演された。ヘレボロス・ニゲルはキンポウゲ科ヘレボロス属の常緑多年草で,古代ギリシャ時代から19世紀まで狂 気治療薬として使用されてきたことを紹介された。ヘレボロスの役割は「狂気は医学で治せるものである」という希望を絶やさないために特効薬として存在しな ければならなかったとし,19世紀から20世紀にかけてもっと効果的で科学的な治療薬が現れ出ようとした時にその役目を終えた,と結んでおられた。
 最後の閉講式では,受講証授与,開催支部への感謝状授与と総評をさせていただき,日精協岩手県支部長の伴 亨先生のご挨拶にて閉講式は締めくくられた。
 本研修会の報告を終えるにあたり,伴 亨支部長をはじめ,企画運営された岩手県支部会員の先生方や事務局,関係者の方々に深く感謝を申し上げるとともに,岩手県支部の今後のご発展をお祈り申し上げたい。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会)