EDUCATION 各種研修会

2013年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 事務部門

2013年9月26日(木)・27日(金)
ANAクラウンプラザホテル神戸(神戸市)

平成25年度の日本精神科医学会学術教育研修会事務部門は、平成25年9 月26日(木)、27日(金)の両日にわたり、日精協兵庫県支部の担当で、ANAクラウンプラザホテル神戸(神戸市)で開催された。「変革期の精神科医療 を考える」のテーマのもと、全国から320名の参加があり、盛大に行われた。


 開講式では、日精協兵庫県支部長・石井敏樹先生が開講の挨拶をされ、続いて日精協・山崎學会長が挨拶をされた。来賓として、兵庫県知事代理の兵庫県健康福祉部・太田稔明部長と矢田立郎神戸市長が祝辞を述べられた。


  第1日目の講演1は、「我々の描く精神科医療の将来ビジョン」と題して山崎學会長が講演された。はじめに、精神保健福祉行政の歩みについて、豊富な資料を もとに、精神科医療の歴史をひも解きながら詳しく説明され、現在ある問題点について歴史的に展望された。次に、精神保健福祉の動向について近年のデータを 分析された。日本に向けられた偏見を取り除くため、日本の精神科医療の実態を海外に向けて情報発信すべきと話され、これらのデータをもとに、この10月に もWHOで発表されると明かされた。さらに、精神障害者の地域移行、認知症、自死対策についても触れられた。最後に、精神科医療の将来像と日精協の描く精 神科医療の将来ビジョンについて述べられ、社会の受け皿の整備と財源の必要性についても話された。
 ランチョンセミナーでは、「人口減少社会に向かう日本の医療福祉の現状と将来予測」の演題で、国際医療福祉大学大学院・高橋泰教授が講演された。


  講演2は、「精神保健の動向」と題して厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 精神・障害保健課 課長補佐・江副聡先生が講演された。はじめに、精神 保健福祉の現状について、外来および入院の精神疾患患者数の疾病別内訳や精神病床入院患者の年次推移などについて述べられ、とくに認知症患者数では、外来 で大きな伸びを示し、病床別で精神病床に7割が入院している(平成23年)と説明された。次に、精神保健福祉施策について、地域移行・地域生活を可能とす る地域の受け皿整備、依存症者に対する必要な医療を受けられる体制の整備など、多くの取組み状況について説明された。さらに、精神保健福祉法改正概要につ いて述べられ、とくに保護者制度の廃止と医療保護入院の見直しに関連して詳しい説明がなされ、医療保護入院の具体的なケースを想定してQ&Aを作 成する計画を明かされた。最後に、今後の方向性と具体的な課題についても述べられた。


  講演3は、「医療制度改革」の演題で、神戸県立大学大学院経営学研究科・小山秀夫教授が講演された。はじめに、ご自身が関与された1983年の老人デイケ ア・訪問看護の診療報酬点数化が、リハビリテーションへの評価の意味で、老人診療報酬上の転機であると位置付けられた。その後の老人保健法改正から介護保 険制度までを説明され、継続性、地域性、包括性の大切さについて語られた。次に、2001年以降の医療制度激動期の医療供給体制と医療保険制度について説 明され、患者の選択による医療機関の競争と淘汰の可能性についても触れられた。さらに、最近の医療・介護分野の政策の流れと改革項目について説明された。 また、地域包括ケアシステムの意義について語られ、病院は地域からすると後方支援であり、精神科病院には協力する姿勢が必要であると強調された。最後に、 精神科病院には今後の長期計画と投資が必要であると提言された。


  講演4は、「病院の財務戦略」の演題で、石井公認会計士事務所・石井孝宜所長が講演された。まず、精神科病院の経営の推移を一般病院、ケアミックス病院、 療養型病院と比較し、最も利益率が落ちているのは精神科病院であること、精神科病院は自己資本比率は最も高いが、赤字には注意すべきであることなどを説明 された。次に、一般病院の経営を分析され、平成22年度診療報酬改定では、急性期、外科系、大病院群といった、診療報酬制度や新しい地域需要に適合した ケースに好影響があったと総括された。さらに、製薬会社、調剤薬局業界、医療・介護・教育関連事業の大手についても経営分析をされ、経常収益(率)の大き さと伸びを指摘された。最後に、バブル崩壊後の医療経営を総括され、一般社会と医療界は常にミスマッチであり、今後の医療界は売上デフレ→コストインフレ の可能性があり、精神科病院においても来るべき変動にきちっと備えてほしい、と厳しい話で締めくくられた。


 研修会1日目の終了後、同ホテルにおいて懇親会が開催された。灘の酒の鏡割り、バンド演奏、ビンゴゲーム(景品には神戸牛も!)などで楽しい懇親のひとときを過ごすことができた。

  2日目の講演5は、「入院制度と成年後見制度」の演題で、弁護士(神戸居留地法律事務所)で神戸学院大学法科大学院教授の大塚明先生が講演された。ご自身 の精神科医療と高齢者問題への関わりについて述べられたあと、民法による後見制度の歴史について、明治時代の後見から改正親族法(平成11年改正)による 禁治産制度の廃止、成年後見人制度の新設までを説明された。成年後見制度は、本人から権利・能力を奪うと同時に適切な後見体制を築くことによって本人を保 護する、という常に二面性をもった制度であると述べられた。また、後見人は入院契約同意はできるが医療行為の同意、手術の同意はできないこと(法務省の見 解)について、法律を改正したうえで医療決定権も後見人に認めるべき、との考え方を示された。最後に、今の成年後見制度でできていないことについて理解し て、できる限り早く法的・制度的・資源的解決方法を見つけることが重要であると締めくくられた。


  講演6は、「高齢者住宅市場の現状と今後の課題」の演題で、(株)タムラプランニング&オペレーティング・田村明孝代表取締役が講演された。ま ず、日本の高齢者住宅・施設の供給数などを示され、介護サービスを必要とする多くの高齢者が施設に入れない現状と、介護保険計画上の整備の遅れ、および施 設必要数が将来の高齢者増加に対応できていない点が報告された。平成23年4月に高齢者住まい法の改正があり、サービス付き高齢者向け住宅の供給増加につ ながったが、現状はサービス付き高齢者向け住宅のような自立者向けの施設より、要介護者の居住者施設が必要であり、看取りも行われなければ入居者が入って こなくなる時代を迎えると予測された。自ら手がけられた施設と視察された北欧の優れた施設を紹介されたあと、入居者が自らの意思で何をしたいかを決定し、 周囲がサポートする体制が整っている施設が最善の高齢者住宅であると締めくくられた。


 講演終了後に閉講式が行われ、日本精神科医学会から受講者代表への受講証書授与に引き続き、日精協兵庫県支部へ感謝状が贈呈された。最後に、学術研修分科会構成員が閉講の挨拶を行い、2日間の全日程を無事終了した。


 おわりに、本研修会の企画・運営に当たられた石井敏樹支部長ならびに兵庫県支部の諸先生方、およびスタッフの皆様方に深く感謝申し上げる。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会/炭谷 信行)