EDUCATION 各種研修会

2013年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 看護部門

2013年7月18日(木)~19日(金)
中野サンプラザ(東京都)

平成25年度の日本精神科医学会学術教育研修会看護部門は、平成25年7 月18日(木)、19日(金)の両日にわたり、日本精神科病院協会東京支部の担当で中野サンプラザにて開催された。「看護のチーム力を高めよう-思考力・ 判断力・実践力を育成する-」のテーマのもと、全国から430名ほどの参加があり、盛大に行われた。

 開講式は日精協東京支部長・山田雄飛先生の開会の挨拶に続き、日本精神科医学会・山崎學学会長が挨拶をされた。その後、来賓として東京都知事代理で東京都福祉保健局技監の前田秀雄先生と、東京都医師会会長代理で東京都医師会副会長の尾崎治夫先生が祝辞を述べられた。

 第1日目の講演Ⅰは「我々の描く精神医療の将来ビジョン」の演題で、山 崎學会長が講演された。精神科病院の2代目である先生は、自身の子供時代の病院の記憶から、「当時の病院は木造平屋で、6~15人ぐらいの多床室が中心で あったが、患者はのびのびとゆったりとした時間が流れる病室で過ごしており、牢屋まがいの暗い鉄格子に入れられ人権を侵害されている精神障害者という偏見 は、少なくとも父の病院とはかけ離れたもので、私と病室で遊んでくれた患者さんの実像でもなかった。日本精神科病院協会の歴史は社会的偏見との戦いの歴史 でもある」と最初に述べられたうえで、医療サービス提供側であるわれわれから改革の道標(戦略)を創り、率先して実行・実践していくことの必要性等につい て講演された。講演内容はきわめて多岐にわたり、最後は駆け足となったが、山崎學会長の考えが参加者に十分伝わってくる、非常に意義深い講演であった。

 講演Ⅱは「看護のための認知行動療法(基本編)」の演題で筑波大学医学医 療系准教授の岡田佳詠先生が講演された。先生は認知行動療法の考え方から始まり、その効果、進め方、認知行動療法を行ううえで患者に求められること、セラ ピストに必要な技法等について、具体例を挙げて詳細に説明された。そして最後に認知行動療法の看護への導入の意義として、ケア技術が豊富になること、効果 の測定がしやすいこと、地域での介入場面で活用しやすいこと、多職種と協働が可能であること等により患者の回復、再発予防の促進、QOLの改善につながる ことを挙げて、講演をまとめられた。

 昼休みを利用して、東京慈恵会医科大学内科学講座糖尿病・代謝・内分泌 内科主任教授の宇都宮一典先生により「統合失調症と糖尿病-モニタリングのポイント-」のタイトルでランチョンセミナーが行われた。糖尿病に関する病態生 理や最近の知見など、限られた時間ではあったが非常に密な内容の講演であった。
  ランチョンセミナーのあと、本研修会のタイトルである「看護のチーム力を高めよう-思考力・判断力・実践力を育成する-」をテーマとしてシンポジウムが行 われた。慈雲堂内科病院院長・田邉英一先生、三恵病院看護副部長・瀬野佳代先生の座長のもと、3名のシンポジストの発表後、フロアも交えた質疑応答形式で 進められた。

 最初に鶴が丘ガーデンホスピタル看護部長の阪内英世先生が「鶴が丘ガーデ ンホスピタルにおける多職種連携」と題して講演された。多職種連携のために同病院が立ち上げた“チーム医療プロジェクト”“風土向上プロジェクト”の内容 と効果について報告され、多職種チームの中で大多数を占める看護師の役割はチームコーディネーターであり、他の職種を尊重し理解を深めていくことが必要不 可欠であると述べられた。

 続いて、大泉病院社会医療部長・山澤涼子先生が「他職種との連携-医師 として心掛けていること-」と題し、実際にご自身が現場で苦労した実体験も含めて講演された。チーム医療では、同じ目標をもって協力し合うことは大切であ るが、各々の職種がもっている“違い”をうまく生かすことも重要であり、違いをお互いが理解し、足りないところを補い合うこと、すなわち“違いを生かす” ことで真のチーム力を発揮することができると述べられた。

 最後に、たんぽぽ訪問看護統括所長・精神科訪問看護認定看護師の千葉信子 先生が「地域で生きる力を支える」と題して講演された。精神障害者を受け入れる訪問看護のパイオニアとしてこれまで活動してこられた体験に基づき、実際に 関わった事例の紹介や、社会的入院の解消といわれた高齢の長期入院患者の地域移行はある程度峠を越したものの、最近は社会人としての自律が乏しい若年患者 とその家族への支援の必要性など、支援の幅の広さ、ニーズの多様性についてお話しされた。

 シンポジストの発表後、フロアも交えてディスカッションが行われた。 発表に時間が割かれ十分な議論とまではいかなかったものの、チーム医療の中での看護師の役割、多職種との関係性や相互理解、コミュニケーションの難しさと その重要性等を改めて確認することができ、非常に有意義なシンポジウムであった。
  第1日目最後の講演Ⅲは、登山家でエベレスト女性初登頂者の田部井淳子さんが「世界の山々をめざして-思考力・判断力・実践力-」と題して講演された。田 部井さんは昭和14年、福島県三春町のお生まれで、昭和50年に女性として初めてエベレスト登頂に成功され、平成4年には女性で世界初の7大陸最高峰登頂 者ともなった方である。講演が始まった瞬間から聴衆の心をぐっとつかみ一気に引き込んでいくパワーは圧巻で、話の内容もエベレスト初登頂時の苦労話から NHK取材の裏話、東北の高校生たちと富士登山に取り組んだ際の感動的なエピソードなど、ユーモアを交えながらも生き方の本質ともいえることをお話しされ た。「思考力・判断力・実践力」を考えていくうえでとても示唆に富むお話であった。

 第1日目の研修会終了後、懇親会が催された。懇親会ではアトラクションとして、自身の家族に精神障害者をもつ吉野みずほさんの歌とマジックショーもあり、大変盛り上がった。

 第2日目の講演Ⅳは「看護のチーム力を高めるために-コーディネー ターとしての看護師-」の演題で、多摩あおば病院看護部長・坂田三允先生が講演された。保健医療福祉の消費者ニーズの多様化と複雑化に速やかに対応できる よう、チーム医療は不可欠なものであるが、そのチームが貢献できるかどうかはチームメンバー間にそれぞれの専門性を発揮できるような信頼関係や共同性、責 任性が形成されているかが重要で、医療に関わるすべての職種が対等な立場であるとの認識をもったうえで協働していくことがポイントであると述べた。チーム ワークを促進するための技術的な工夫として、まずは目標の共有ができていること、権限の委譲や責任の所在を皆で共有できていること、中心となるリーダーは 時と場所、状況で変わっていく等柔軟な対応ができることが大切であり、チームとして成立するためには、双方向のコミュニケーションが機能していることが前 提で、とくに受け取る側がちゃんとキャッチできるかが大事であるとまとめられた。

 講演Ⅴは「精神科医療の機能分化と質の向上」の演題で、東海大学健康科 学部看護学科専任准教授の天賀谷隆先生が講演された。先生は精神科医療の機能分化と質の向上等に関する検討会(平成24年6月28日)の報告書から、医療 ニーズのある病棟には看護職員の十分な配置が必要になるため、新たな病床の設置がなされるのではないかと思われること、3カ月~1年未満で退院する患者の 増加には、外来機能をより強化する必要があること、訪問看護師はアウトリーチの中核となる機能であり、長期入院患者対策としてだけではなく、急性期治療に も効果的に機能することができること等を話された。

 講演終了後には閉講式が行われ、日本精神科医学会から受講者代表への受講証書授与に続き、日精協東京支部へ感謝状が贈呈された。最後に日精協東京支部長・山田雄飛先生が閉講の挨拶をされ、2日間の全日程を無事終了した。

 終わりに、本研修会の企画・運営に当たられた山田雄飛東京支部長ならびに東京支部の諸先生方およびスタッフの皆様方に御礼申し上げます。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会/山口哲顕  平安 明)