EDUCATION 各種研修会

2012年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 薬剤師部門

2012年7月12日(木)~13日(金)
ホテルニューグランド(横浜市)

平成24年度の日精協学術教育研修会薬剤師部門は、7月12日、13日の両日にわたって「精神科薬剤師のスキルアップ in Yokohama」をテーマにホテルニューグランド(横浜市)にて開催され、全国各地より170名の参加のもと、盛大に行われた。
 
 開講式では、日精協神奈川県支部長・畑俊治先生が開講の挨拶をされ、日精協山崎學会長の挨拶のあと、来賓として、神奈川県知事代理の神奈川県参事監兼保 健医療部長・中沢明紀様、神奈川県医師会会長・大久保吉修様、神奈川県精神科病院協会会長・竹内知夫先生、神奈川県病院薬剤師会会長・加賀谷肇先生が祝辞 を述べられた。
 
 1日目の最初は、「うつの治療に関して、薬剤師の先生方に知っていただきたいこと、お願いしたいこと」と題して、杏林大学医学部精神神経科学教室准教授・渡邊衡一郎先生の講演が行われた(座長:武田病院院長・武田龍太郎)。
 
 はじめに抗うつ薬開発の流れや、その効果・適応と作用機序について述べられ、抗うつ薬治療に必要な継続期間と実際の治療継続率について話された。うつ病 患者における服薬アドヒアランスは、半年で半数が不良になる現状があり、効果不足や副作用が主な原因ではあるが、薬物療法に関する説明不足も大きな要因の 1つであると指摘された。
 
 次にMANGA Studyにおける有効性と許容性両面の評価から抗うつ薬に差があることを示され、副作用面では、眠気、胃腸障害、性機能障害、アクティベーション症候群 等が注目されており、薬剤師は各抗うつ薬のプロフィールを功罪両面から熟知し、患者に適切な情報を提供することが大切であると述べられた。続いて、抗うつ 薬が奏功しなかった場合には、改めて双極性障害を含めた諸因子を見つめ直し、変薬か増強・併用療法かを慎重に判断していく必要があると説明された。最後 に、軽症のうつ病の治療では、心理療法や自己回復力を刺激するサポートや運動が推奨されており、薬物療法以外の治療法も含め、患者の嗜好を反映した治療方 針を決定することが重要であると締めくくられ、臨床の現場で働く薬剤師の方々には実践的で大変参考になる内容であった。
 
 3つのランチョンセミナーのあと、午後の講演が開始された。
 
 最初に、曽我病院院長・長谷川剛先生の座長で、順天堂大学医学部教授・井関栄三先生が「認知症の理解と診断・治療」と題されて講演された。認知症の定義 に始まり、アルツハイマー型認知症を中心にマイネルト核の変化によるアセチルコリンの減少等の病態と症状を説明し、その器質的変化に基づいた抗認知症薬の 作用機序を説明された。レビー小体型認知症は交感神経が障害される全身病であり、さらに心筋も障害され、その診断ではレム睡眠行動障害および視覚認知障害 が重要であると述べられた。
 
 続いて、相州病院薬剤課長・渡辺政秀先生の座長で、昭和大学薬学部准教授・倉田なおみ先生の講演が行われた。「薬剤師のソコヂカラ-服薬指導から服薬支 援へ-」と題し、患者が薬を飲み込み終わるまで関わるのが服薬支援であるとして、X線ビデオで嚥下の経過を示しながら、誤嚥が生じる状況をわかりやすく説 明された。また、薬剤の破砕は苦味に加えて舌がしびれることが多いため、できるだけ避けるべきであり、破砕に代わるものとして簡易懸濁法について詳しく解 説された。最後に、薬剤師は人の命を守る仕事であると強調された。
 
 1日目最後の講演は、丹沢病院薬剤部長・川口三都子先生の座長で、「被災地における薬剤師の業務」と題し、(有)マクロけやき薬局石巻店・山内茂樹先生 と横浜新緑総合病院薬剤部長・藤本康嗣先生のお2人が講演された。山内先生は昨年の東日本大震災津波の際に女川町立病院で仕事中、津波に襲われた。それま で日常的に行っていた薬剤業務方法がまったく通用しない状況になったこと、水は貴重なためアルコールでの清拭を行ったこと、福島原発事故によるヨウ化カリ ウム丸の確保が必要だったこと、95%が院外処方箋であるにもかかわらず、周辺の薬局は津波で流されてしまい、院内にも薬の在庫がなかったこと、高齢の患 者に多い一包化処方も、お薬手帳消失のため、その内容を知るのが困難だったこと等を述べ、それでも行わなければならない薬剤業務の苦闘を発表された。継続 して支援を続けてくれた神奈川県病院薬剤師会にお礼を述べて、藤本先生に引き継がれた。
 
 藤本先生は、神奈川県病院薬剤師会の支援活動について述べられた。そこにあるものを使い、工夫してやりくりしなければならないこと、プリンターを見つけ て薬袋印刷の構築をしたこと、支援薬剤は届いたが、膨大な品目数の後発医薬品および複数の剤型による混乱が生じたことは今後の検討課題であると述べられ た。
 
 懇親会は、夕方6時より、ホテルニューグランドの「ペリー来航の間」で行われた。当ホテルが発祥であるスパゲティナポリタンのほか、さまざまな料理やデ ザートがふんだんに用意され、鈴木カルテットのディキシーランドジャズは、その上品な美しい音色で和やかなひとときに花を添えた。
 
 2日目の最初は、畑俊治支部長の座長で、特別講演として「精神科医療の将来の展望」と題し、山崎學会長が講演された。はじめに精神保健福祉行政の歩みと その動向について豊富な資料をもとに詳しく説明され、次に精神障害者の地域移行について話され、障害者制度改革や新たな地域精神保健医療福祉体制の構築、 アウトリーチ推進事業等を説明された。また、認知症、自殺対策、医療観察法についても触れられ、最後に精神科医療の将来像および日精協の示す精神医療の将 来ビジョンを説明されたうえで、介護精神型老人保健施設創設の必要性を指摘された。
 
 研修会最後の講演は、大和病院院長・石井一彦先生の座長で「精神科における医療裁判の動向」というテーマで、木ノ元総合法律事務所弁護士・木ノ元直樹先 生により行われた。木ノ元先生は、医事紛争は不可避的であるが、もたらされるリスクは医療崩壊を助長し、真に医療を必要とする国民からそれを奪うため、紛 争予防と紛争解決が重要であると述べられた。次いで、医療過誤のなかの医薬品過誤など、薬剤師に関わる医療事故を実際の判例を挙げながら説明され、今後は 薬剤師も刑事責任を問われる可能性が高くなるため、危機管理を徹底する必要があると強調されて講演を終えられた。
 
 閉講式では、山崎學会長が受講生代表に受講証書を授与し、日精協神奈川県支部へ感謝状の贈呈を行った。最後に日精協神奈川県支部長・畑俊治先生が閉講の挨拶をされ、無事に研修会は終了した。
 
 今回の学術教育研修会を企画、運営していただいた畑俊治支部長ならびに神奈川県支部の諸先生方およびスタッフの方々に心から深く感謝申し上げるとともに、神奈川県支部の今後のご発展をお祈り申し上げる。

(日本精神科医学会 学術教育推進制度・学術研修分科会 / 棚橋 裕 伴  亨)