EDUCATION 各種研修会

2011年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 PSW部門

2011年11月17日(木)~18日(金)
城山観光ホテル(鹿児島県)

平成23年度学術教育研修会PSW部門は、「多様化する精神科ソーシャル ワーク実践の視点」というテーマのもと、11月17日(木)、18日(金)の2日 間、日精協鹿児島県支部の担当で、城山観光ホテルにて開催され、全国より231名の参加があり盛大に行われた。開講式での鹿児島県支部長・横山桂先生と日 本精神科病院協会会長・山崎學先生の挨拶があり、その後研修会が行われた。
 
まず会長講演として、山崎學会長が「精神科医療の将来の展望」と題して講演された。精神保健福祉の動向として、外来患者数が増加し、入院は統合失調症が 減って、気分障害、認知症が増加している。高年齢化がみられ、長期入院患者は減少し、入院期間は短期化傾向にある。国は平成16年から退院促進を進めてき たが、障害年金のみでは在宅生活が困難であり、財政的な基盤の強化がなければ、地域移行は難しい。平成24年4月から多職種チームによる「精神障害者アウ トリーチ推進事業」が始まる予定である。少子高齢化に伴い、社会保障給付費は年々増加していき、今後社会保障改革が大きな課題であると述べられた。
 
講演Ⅰは、緑ヶ丘保養園院長・渕野勝弘先生が、「高齢精神障害者の現状と課題」との題で講演された。日本の平均寿命は、女性86.05歳、男性79.29 歳となった。他国は日本の高齢者対策を見本にして対策を考えている。推計では、平成29年以降、60歳以上の統合失調症入院患者は減る。平成35年ごろに は統合失調症よりも認知症入院患者が多くなる。今年日本で使用可能な抗認知症薬が、アリセプト以外に3種類増えた。平成20年に認知症疾患医療センター事 業が実施され、現在全国に118センターがある。機能として、①早期診断と鑑別診断機能、②救急医療体制と身体合併症への対応機能、③専門医療相談と専門 医療研修機能がある。今後、認知症高齢者の支援体制の整備が必要となってくると述べられた。
 
講演Ⅱは、のぞえ総合心療病院理事長の堀川公平先生が「精神科急性期医療と地域連携~地域に認知されるということ~」と題して講演された。これまでさまざ まな要因から地域との距離があった精神科病院であるが、今後は社会復帰の場でもある地域と、連携を図っていかなければならない。社会的入院に対してどう取 り組んでいくかは、精神科病院の重要な課題である。まず、病院そのものが社会復帰をする必要がある。今後は、多職種とのチーム医療をさらに発展させていく ことが重要で、治療病棟の機能分化を実施し、各治療段階で必要とされる医療を提供することが早期社会復帰に結びつく。さらに退院患者に対するサポート体制 も重要で、必要とされるニーズを示唆していくなど、代弁的役割も担っていく必要があると述べられた。
 
講演Ⅲは、「精神保健福祉士の今後の課題~地域で暮らすこと・生きることの支えとして~」と題した、日本精神保健福祉士協会常任理事で聖学院大学人間福祉 学部准教授・田村綾子先生の講演だった。まずは、PSWの使命は、社会的入院への取り組みである。PSWの配置数の多い精神科病院ほど、在院日数は短くな る傾向がある。法で「精神障害者の社会復帰に関する相談援助業務に従事する者として精神保健福祉士の資格を定める」とした資格の成り立ちを忘れてはならな いと強調された。また先生自身の「体験からいま思うこと」を話され、最後に、「私が大切にしている思いと姿勢」として、①人の変化と回復の可能性を信じ続 ける、②共にあり、伴走する、③所属機関をも俯瞰するソーシャルな視点、④ないものは創り出す発想、工夫の粘り、⑤言葉を大切に吟味する、⑥援助に必要な 専門技術の研鑽に努める、⑦仲間との出会い、語り合いを大切にすることを述べられた。
 
初日の最後に「自由討論」に入り、3人の講師(渕野勝弘先生、堀川公平先生、田村綾子先生)を囲んでの質疑応答が3グループに分かれて、1時間ほど分科会形式で行われた。
 
懇親会は、立食形式で多くの方が参加して和やかな雰囲気のなかで行われ、奄美大島の民謡や踊りが披露された。
 
2日目は、柏崎厚生病院の精神保健福祉士・西川弘美先生が、「ケアマネジメントにおけるPSWの役割~高齢者支援の立場から~」と題して講演された。認知 症地域支援推進員として活躍されていることより、厚労省の「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム」の議論にふれられた。また関わった事例 を紹介され、そのなかでのPSWの役割について、①本人の思いを尊重し、人権を擁護すること、②医療機関(主治医)と連携し、状態を確認相談して支援にい かすこと、③カンファレンスを有効活用し、関係者がチームのなかで、機能的に動くことができるように働きかけることが大切であると述べられた。
 
また、ケアマネジメントにおける役割について、①その人の人生を大切にし、意志を尊重すること、②疾患を理解し、医療・介護・地域との連携を行うこと、③ケアチームのなかで「つなぐ」役を積極的に行い、黒子として存在感を持つこと、であると述べられた。
 
最後に、平成16年10月の中越大震災と平成19年7月の中越沖地震の経験から、普段のつながりがいざというときに力となる、日常の積み重ねが大切だとまとめられた。ケア会議や関係者によるカンファレンスの大切さを強調されたのが印象に残った。
 
最後は、「日本精神科病院協会鹿児島県支部会員病院によるケース提示を中心にしたディスカッション」と題して、鹿児島国際大学福祉社会学部教授・野田隆峰 先生の司会のもと3人のケース発表者と堀川公平先生、田村綾子先生、西川弘美先生をスーパーバイザーとしたシンポジウムが行われた。1例目は、谷山病院の 急性期入院治療症例、2例目は、児玉病院の慢性期統合失調症の退院支援(地域支援)、3例目は、松下病院による認知症支援活動についての発表であった。そ れぞれに、しっかりとした発表であり、スーパーバイザーの先生方からも貴重なご意見、アドバイスがあり、有意義で充実した研修会であった。
 
講演終了後、閉講式を行い、山崎學会長による受講証書授与、中江孝行副支部長の挨拶があり、すべてのプログラムを終えた。
 
今回の研修会を企画運営してくださった横山桂鹿児島県支部長始め、日精協鹿児島県支部の諸先生方や関係者の皆様に深く感謝を申し上げるとともに、鹿児島県支部の今後のご発展をお祈り申し上げる。

(学術教育推進機構・学術研修委員会 / 吉田 建世、熊谷 雅之)