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「令和5年度 認知症に関する研修会(第30回)」報告

 令和5年11月16日(木)~11月17日(金)に川崎日航ホテルにて開催されました。

 平成12年、わが国に介護保険制度が創設される以前より日本精神科病院協会は高齢社会を考え、増加するであろう認知症について取り組んで参りました。現在では各種学会や介護関連による研修会が盛んに行われていますが、日本の認知症診療・研究の第一人者の先生方による研修会は、当協会の大きな特徴であります。生物学的・心理社会的アプローチを含む総合的観点から、我々精神科医の果たすべき役割について分かり易く解説していただきました。また、認知症臨床においては医学のみならず、家族やケアマネジャー等との連携は欠かすことはできません。介護保険制度の研修もプログラムに入れています。

 令和5年6月、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が成立しました。「国民の責務」が定められ、正しい知識及び認知症の人に関する正しい理解を深めることが示されています。さらに認知症の予防のところでは、希望する者が科学的知見に基づく予防に取り組むことができるようにするための施策が記されています。

 令和5年9月25日、アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が日本で初めて承認されました。「認知症治療の新時代」と騒がれていますが、手放しで喜べるものではありません。薬の対象者は「軽度認知障害」、「アルツハイマー病発症早期」の人に限られています。事前にアミロイドPETや脳脊髄液検査を行い、使用できるかを判断します。軽度認知障害(MCI)の人は約500万人いると言われていますが、薬の適応者は5,000人くらいではないかと考えられています。どのくらいの人が事前検査を希望されるか不明ですが、薬の適応の無い早期の認知症の人が増加することになり、長い年月認知症の進行に対し不安を生じることになります。海外の文献ではショックにより自殺をする人が増加したという報告もあります。治療を受けるにあたっては医療者、特に精神科医のきめ細かな説明、副作用の出現、薬の限界についても丁寧に話し十分に理解をしていただく必要があります。それが出来るのは我々精神科医師だと思っています。著名な先生方による総合的観点からの認知症研修は大変に有益なものでありました。「認知症臨床専門医」の要件の一つにはなっていますが、何度でも受けているリピーターの多い研修会であります。今年受講できなかった先生方は、ぜひ来年に受講することをおすすめ致します。

(常務理事 渕野 勝弘)
 
令和5年度 認知症に関する研修会(第30回)プログラム
  講義内容 講師
第一日目 11月16日(木)
講義①
(90分)
「認知症総論 −精神医学的観点から−」 新井 平伊 先生
アルツクリニック東京 院長
講義②
(60分)
「認知症(者)に対する医療・介護地域連携」 武田 滋利 先生
西毛病院 理事長
講義③
(90分)
「認知症の予防と最近の動向について」 朝田 隆 先生
筑波大学 名誉教授
講義④
(90分)
「認知症の早期・鑑別画像診断」 羽生 春夫 先生
総合東京病院 認知症疾患研究センター長
第二日目 11月17日(金)
講義⑤
(90分)
「認知症の症候学」 池田 学 先生
大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室 教授
講義⑥
(90分)
「若年性認知症」 數井 裕光 先生
⾼知大学医学部神経精神科学教室 教授
講義⑦
(90分)
「認知症の神経⼼理学」 三村 將 先生
慶應義塾大学予防医療センター 特任教授
講義⑧
(90分)
「認知症の薬物療法」 ⼯藤 喬 先生
大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター
大阪大学大学院 医学系研究科精神健康医学 教授