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「精神科薬物療法に関する研修会」開催報告

 平成26年度診療報酬改定より適切な向精神薬の使用の推進の観点から、向精神薬の多剤処方に対する適正化の規定が導入され、抗不安薬・睡眠剤については2剤、抗うつ薬・抗精神病薬については3剤までとし、4剤以上を処方する場合は減算される、いわゆる向精神薬多剤処方に対する減算規定が導入されました。また、平成28年度診療報酬改定では向精神薬全ての種類が3種以上処方した場合、減算へと更に厳格化されました。さらに30年度改定においては、抗不安薬と睡眠薬についての規定が追加され、不安若しくは不眠の症状を有する患者に対して1年以上継続してベンゾジアゼピン受容体作動薬の投薬を行った場合についても減算規定が設けられました。この際、ベンゾジアゼピンの処方の多くが精神科以外の医師からの処方であったことや、薬物依存症を治療の対象としている精神科にこのような規定を課すことは精神科医療に混乱を招くとして一定の条件、すなわち、精神科の診療に係る経験を十分に有する医師で「精神科薬物療法に関する適切な研修を修了している」等を満たした場合に限り、この減算規定の除外が受けられることになりました。

 日精協が行う本研修会は、厚生労働省が指定する「精神科薬物療法に関する適切な研修会」であり、今年度は東京会場9月30日、北海道会場10月27日、福岡会場11月20日、大阪会場12月4日の計4回開催し、500名ほどの方に受講いただきました。

 受講資格は、①精神科での臨床経験を5年以上有し、②適切な保険医療機関において3年以上の精神科の診療経験を有する医師であること。③精神疾患に関する専門的な知識と、ICD-10に規定するF0からF9までの全てについて主治医として治療した経験を有すること。④精神保健指定医であることとなっています。さらに、適切な保険医療機関での3年の臨床経験を保証するため、申込者が精神科診療に従事した「適切な保険医療機関」の要件を満たした保険医療機関の管理者による推薦状の添付も必要になります。

 講師の先生は前回もたいへん好評でありました杏林大学名誉教授で、はるの・こころみクリニック院長の田島治先生にお願いしました。内容は、気分障害の薬物療法で治療が終わらない人が増加しているが、これは治療介入による長期化、遷延化などゴールなき治療の増加が問題であること。特に軽快しても薬剤を減量や中止をすると容易に再燃する症例が増加しているなど、現在の精神科医療において多剤・長期になりやすい状況があることを示されました。そのうえで、今回の診療報酬減算に至った理由としてユーザーからの批判があったこと、その対策としての学会における治療ガイドラインの作成、そして行政による規制という結果に至ったという説明がありました。一方、平成24年の日精協調査ではF2に対して単剤処方率48.1%、2剤30.4%、3剤以上12.9% (処方なし8.6%)と多くはないことも示されました。しかし、それでも諸外国に比べてまだ多い状況があり、そのうえで、なぜ、多剤がいけないかについては、薬理学的に、そして画像を交えて、説明があり、心の病には薬物療法だけでなく、精神療法などの人薬を用いて希望を持たせることが必要と括られました。

(常務理事 平川 淳一)