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DPATの現状について

日本は災害大国であり、災害時における不安、抑うつ等への精神的な問題に対応する“こころのケア”活動は、平成7年阪神淡路大震災頃から行われてきました。しかし、平成23年東日本大震災では、①発災直後からの精神科医療ニーズへの対応、②統括体制の必要性、③平時の準備の必要性の3点が課題として残り、一部効果的な活動ができませんでした。これらに対応するため、平成25年に災害派遣精神医療チーム(Disaster psychiatric assistance team; DPAT)が設立されました。平成28年熊本震災では、初めて全国へのDPAT派遣要請(41都道府県、1,091隊)が行われ、従来の“こころのケア”に留まらず、被災した精神科医療機関からの患者搬送等の急性期からの医療活動が行われました。

熊本地震では、7つの精神科医療機関が甚大な被災をし、DPAT、地元医療機関、DMAT、自衛隊、日本精神科病院協会等が協力し、計595名の患者搬送を行いました。東日本大震災でも、被災した精神科医療機関から計1,218名の患者搬送が行われましたが、急性期支援が遅れたことから、搬送中の肺炎、脱水、低体温症等による死亡事例が10例以上に上りました。しかし熊本地震においては、この教訓が生かされ、搬送中の死亡・事故事例はゼロだったのです。地域においても、多くの支援者と組織的に連携したDPATの活動が評価され、災害時における精神科医療の必要性が再認識されました。これは医療業界のみならず、一般社会にも認知されることとなり、漫画「コウノドリ」(鈴ノ木ユウ/講談社)にも取り上げられました。

一方で、課題も明確になりました。第1点として、DPAT隊員の不足です。国および都道府県等での育成が急務となっています。第2点としては、精神疾患を持つ被災者の多くは、既存の災害拠点病院では対応が困難であることから、精神科医療機関独自の受け入れ体制が必要になる点です。平成30年度医療計画には、患者や支援チームを集約するための災害拠点精神科病院の設置が盛り込まれました。このように、DPATが組織化され、実績を積み重ねることで、災害時における精神科医療の役割には益々の期待が高まっています。

災害時にできることは、平時にできることの延長上にしかなく、DPATは平時の精神科医療体制と切り離すことができません。DPATの発展は、平時の精神科医療にも貢献することが期待されます。

(DPAT事務局 渡 路子)