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平成22年度診療報酬改定「認知療法・認知行動療法」への要望

2010/03/25

厚生労働省保健局医療課
課長 佐藤 敏信 殿

精 神 科 七 者 懇 談 会
国立精神医療施設長協議会 会長  平野  誠
精神医学講座担当者会議 会長  朝田  隆
全国自治体病院協議会 会長  邉見 公雄
日本精神科病院協会 会長  鮫島  健
日本精神神経科診療所協会 会長  三野  進
日本精神神経学会 理事長 鹿島 晴雄
日本総合病院精神医学会 理事長 黒木 宣夫

 
今回平成22年度診療報酬改定において、入院中の患者以外のうつ病等の気分障害の患者に対して「認知療法・認知行動療法」が新たに設定されました。
 
認知療法・認知行動療法は、近年の精神療法分野での目覚ましい成果であり、この治療法の適正な普及は望まれるところです。厚生労働省は内閣府自殺対策会議 において、自殺予防対策の一環として認知療法・認知行動療法を予算化したと述べており、確かに、うつ病など気分障害の治療に習熟している専門医がこの療法 を施行するのであれば有用であると考えます。
 
しかしながら、我々は下記にあげるいくつかの点において本療法の安易な拡大に大きな懸念をいだくものであります。
 
1) うつ病など気分障害の患者の診療において、その診断、重症度判定、治療法の選択などが非常に重要です。状態像の確認、精神病性障害など他の精神疾患との鑑 別診断、希死念慮、自殺の危険性の判断などには慎重な確認が必要とされ、そのためには相応の経験と精神医学の治療への習熟が要求されます。そして、これら の判断を誤ると自殺のリスクが高まることにつながります。したがって、認知療法・認知行動療法のうつ病など気分障害患者への適応には慎重な精神医学的診療 が必要です。
 
2) 認知療法・認知行動療法は、確かに優れた治療技法ですが、うつ病など気分障害患者全てに適応があるわけではなく、急性期等の病相、精神病症状の有無 によっては禁忌となることもありえます。軽症または中等度うつ病エピソードであったとしても、内因性のうつ病においては薬物療法などの身体療法は不可欠で す。このような基本的な治療方法を考慮せずに本療法が施行される可能性があることに大きな懸念をいだきます。
 
3) 大臣告知においては、「認知療法・認知行動療法に習熟した医師が、一連の治療に関する計画を作成し・・・」とあり、このことで医師の資質を担保する との考えもあります。しかし、認知療法・認知行動療法は気分障害のみならず不安障害やパーソナリティー障害などにも広く適応されており、「認知療法・認知 行動療法に習熟した医師」が必ずしも「うつ病などの気分障害の治療に精通した医師」とは言えず、うつ病患者の悪化や自殺の危険の回避という観点からも、な んらかの制約が必要と考えます。
 
以上を勘案すれば、優れた治療法である認知療法・認知行動療法であっても、精神疾患であるうつ病などの気分障害の治療に当たっては薬物療法を含む治療計画 策定や鑑別診断、環境調整、緊急対応など広義の精神療法(通院・在宅精神療法)は必要不可欠であり、通院・在宅精神療法が精神科標榜保険医療機関でしか算 定できないにもかかわらず、より専門性を有し慎重な適応を要する認知療法・認知行動療法が精神科標榜外の保険医療機関で算定できることについて、精神科七 者懇談会は深い懸念を抱いております。
 
医療課長通達などで、認知療法・認知行動療法の適応、その訓練、算定可能医療機関などについてより慎重な検討を要する旨の通達を発することを要望いたします。