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平成22年度診療報酬改定について(要望)

日精協発第 09212 号
2010/01/06

厚生労働省
   社会・援護局 障害保健福祉部
      精神・障害保健課長  福田 祐典 殿
   保険局
      医療課長  佐藤 敏信 殿
      課長補佐  佐々木 健 殿

社団法人 日本精神科病院協会
会 長    鮫 島   健

謹啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
 
当協会業務に関しましては、日頃からご指導賜り厚くお礼申し上げます。
 
さて、ここ数年の診療報酬改定では、重点課題として救急医療が挙げられ、評価されてきました。平成22年度診療報酬改定に関しても、基本方針の重点課題に 救急医療の再建、地域連携が挙げられておりますが、精神科医療においては、急性期医療に劣らず慢性患者の入院治療もきわめて重要であることから、別紙のと おり、難治性の長期入院の必要な症例に対する手厚い診療報酬評価を要望します。

 

(別紙)

精神科医療における慢性患者の入院治療について

 
精神保健福祉資料によると、精神病床における新規入院患者数は年々増加しており、この新規入院患者の87%が入院から一年以内に退院することができ、平均 在院日数もここ10年で著しく短縮してきている。一方で、1年以上の長期入院患者が全体の23万人(65%)を占めていることも事実であり、同じ精神科医 療を担う病院が同等の力で治療しているにも関わらず、長期入院患者が新規患者同様に退院できないことは、如何に長期入院患者の退院が難しいことであるかを 示している。
 
上述の入院の短期化に関しては、「精神保健医療福祉の更なる改革に向けて」の報告書でも述べられているが、長期入院患者については、同報告書で「その動態 に近年大きな変化が見られておらず、今後どのように地域移行を進め、長期入院患者の減少を図っていくかが課題となっている」と述べられている。しかし、医 療現場の視点からすれば、このような指摘は長期入院患者の重症度そのものに対する言及がなく、病態を軽視し、地域移行だけに意識が向いていることが明らか である。
 
この長期入院患者の疾患内訳をみると61%が統合失調症の患者である。統合失調症は慢性疾患で、発病後その病勢はしばしば進行し、「治癒に向かう型」と 「残遺状態に留まる型」に大きく分れる。1年以上の入院患者は、後者の「残遺状態に留まる型」が多いと推定される。また、症状の経過は、症例によって違い があり、「急性期~沈静化期~安定期」という波を何度も繰り返す場合が多く、症状が落ち着いてきたかと思うとわずかなきっかけで悪化してしまうこともしば しば経験する。さらに長期化した患者は、「言葉、行動、感情」の統制が困難となり、病気が長引くにつれて固定化されていく。これらの状態への対応は薬物療 法のみに頼ることはできず、第一は「あの医師、看護者がいるところ」という特定の医療者と患者の信頼関係、第二が「建物や空間」、第三が「ゆっくり流れる 時間」などが重要といわれている。このような療養環境は、外来治療では得難い部分で、上述した統合失調症の患者には必須な治療である。このような疾患特異 性に加えて高齢化や脳血管疾患などの合併でADLが低下しているのが現状であり、大変手間のかかるケアを必要とする。今後は高齢化等の要因により徐々に減 少してくると予想されるが、反面、ますます地域移行という形での退院が難しくなることは明白であり、長期入院患者がすべていわゆる社会的入院であるという 偏見は間違っていることを認識して欲しい。
 
さらに、長期入院を要する患者は統合失調症ばかりでなく、頭部外傷後遺症、てんかん性精神病、発達障害等による適応障害、BPSDを伴う認知症など、さま ざまな疾患、病態を慢性期病棟では看ており、この病棟でのケアは簡単なものではない。 本来の精神科医療は、穏やかな時間や空間の中でゆったりと行うことが必要であり、他科のようなスピードを求める医療とは異質のものである。その中で、最近 の薬物療法の進歩により治療が可能なケースについては、それなりのアウトカムも示してきた。精神科医療においては急性期医療や、地域移行促進ばかりを優先 的に評価するのでなく、難治性の長期入院の必要な症例に対しては、より手厚い診療報酬評価が必要である。