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精神障害者福祉の抜本的見直しに関する要望

日精協発第09173号

2009/10/22

(別記)殿 ※巻末表記

 

社団法人日本精神科病院協会
会長 鮫島 健

時下、益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
 民主党を主体とする鳩山新政権がスタートし、長妻厚生労働大臣は障害者自立支援法廃止の方針を改めて明確にしました。障害者福祉制度に係る抜本的な改革に向けて、近々にも検討作業が開始されると推察します。
 社団法人日本精神科病院協会は精神保健福祉法に基づき、人権に配慮し早期退院に向けた精神医療の質的向上および社会復帰促進・地域ケアに積極的に取り組 んできております。障害者自立支援法に関しては、立遅れている精神障害者福祉がさらに後退してはならないとの視点から容認しつつも、障害者福祉の理念と制 度のあり方について今日まで以下の通り、抜本的な見直しを求めて参りました。
新政権に対しても、私どもは大きな期待をもって、精神障害者福祉の確立を要望いたしますので、よろしくご配慮いただければ幸いです。

[精神障害者福祉充実のための抜本的見直しの要点]
 
①障害者の生活自立・一般就労に向けて支援することは重要である。だが、24時間のケアを必要とする重度の生活障害をもつ人たちが、地域で安寧に生活でき るように支援することも、同様に重要である。障害者自立支援法では後者の位置付けが極めて不十分であり、サービス類型は実質的に整備されていない。
②障害者がサービスを自己選択・自己決定する仕組みが必ずしも保障されていない。障害程度(区分)により利用できないサービス、利用期間が限定され中断せざるを得ないサービス等があり、これらは、自己決定権の制限である。
③「三障害共通」の枠組みのもと、障害特性に配慮したサービス提供が困難となっている。医療が医療保険という共通の枠組みで提供されていても、内科、外科 など各専門性が担保されているのと同様に、ケアマネジメント、相談支援事業などでは身体・知的・精神の各専門性を担保した運用をする必要がある。
④障害者の所得保障制度の抜本的改善のないまま利用料の定率負担制を導入することは、サービス利用による地域生活への移行や社会参加を促進する理念にそぐわない。また、施設入所者とそれ以外の居住サービス利用者との間に、補助支給の格差があるのも納得できない。

具体的な要望事項

Ⅰ.サービス体系のあり方の見直し
 
<視 点>
 「精神障害者福祉の立遅れ」が指摘されながらも、「三障害共通の枠組み」の名のもと、抜本的な“立遅れ対策”が提供されていない。 精神障害者の社会参加に向けては、就労を含む経済的・社会的自立は重要な目標ではある。だが、精神障害を受容し、様々な支援を受けつつ地域で安寧な生活を 送ることも、それに勝るとも劣らない社会参加である。
 経済的・社会的自立へのステップアップを基準とする「成果」主義の導入は、障害者福祉サービス体系の構築に馴染まない。とりわけ障害福祉においては、人 としての「使用価値(能力)」が「存在価値」よりも上位の概念とされることがあってはならない。支援者と相談してサービスを安心して自己決定できる環境 を、障害者福祉制度は提供すべきである。
 
<要 望>
○ 精神障害者には、知的・身体障害者の更生施設・療護施設のように障害者支援施設への移行対象となるような生活施設(入所施設)がこれまで整備されて来な かった。このことから、一般就労が困難であり、重い生活障害により多くの生活支援を必要とする精神障害者は、長期の入院生活を余儀なくされてきた。
 「居住の場」の整備については、4~5人単位のグループホームやケアホームなど比較的軽度な障害者対策にとどまることなく、一般就労が困難であり、重い生活障害のある人たちも地域生活に移行できるよう、24時間支援態勢の整った生活施設を整備されたい。
○ 福祉ホームB型や生活訓練施設など既存の社会復帰施設は、グループホーム・ケアホームや生活施設への移行の選択肢のほか、既存の施設類型としても存続できる選択肢として確保されたい。
○ 各種事業で様々な成果報酬加算や減算が設定されているが、一般企業等に導入された「成果」主義が社内の人間関係を損ね、また、格差社会を生み出したという評価もあるように、障害者間、事業者間の軋轢を生じることが予測される。
 また、障害程度区分や利用期間設定によるサービス利用の制限によって自己決定権の制限を生じてはならず、新しい障害者福祉制度ではこれらの抜本的見直しを図られたい。
 
Ⅱ.ケアマネジメント体制の確立
 
<視 点>
 現行では、ケアマネジメントの制度化(障害者の地域生活の支援にケアマネジメント技法を導入)に失敗している。新障害者福祉制度では、アセスメント、意 向調査、ケア計画、モニタリングなど、障害者の地域における支援技法としてのケアマネジメントをしっかりと制度的に取り入れることが必要である。
 また、ケアマネジメントは、相談支援事業とともに、知的・身体・精神等の障害特性に基づく各専門職種の専門性を尊重し配慮した制度にすることが重要である。
 
<要 望>
○ 精神障害者が安心・安定した地域生活を送るには、医療と福祉の総合的サービスの利用が不可欠であり、精神疾患について理解し、身近にいて利用者の状態に精 通する精神保健福祉士、看護職などの専門職が携わることが最も望ましい。その意味では、病院(施設)・各事業所のこれら各専門職がケアマネジメントを担う ことのできる仕組みを構築されたい。
 
Ⅲ.相談支援事業のあり方の見直し
 
<視 点>
 入院患者の地域生活への移行および地域生活への定着化を支援し、また、回復途上にあって地域生活を送る精神障害者などに係わる相談支援は、必要な時に適 宜実施され、かつ、専門性に裏打ちされ適切に行なわれることが不可欠である。従って、入院中から関わり、退院後も相互の信頼関係がつくられている病院や地 域の事業者らの専門スタッフを核とする相談支援体制の構築が必要である。
 
<要 望>
○ 相談支援専門員、精神保健福祉士、看護師などを配置する「地域連携室」を精神科病院が独立した事業として設置し、以下の事業を実施する場合には、相談支援事業所として指定できるよう配慮されたい。
① 病棟での退院へのとり組みと連携し、退院生活訓練の同行支援や地域生活のためのケア計画を作成
② 地域の福祉サービス等の利用に向けて、「利用計画書」の作成やサービス事業者との連結など、ケアマネジメントの実施
③ 退院後の一定期間の、アウトリーチ型の相談支援
 
○ 現行の相談支援事業者は人口20~30万人に1ケ所程度整備し、そのエリアにある「地域連携室」等身近な相談支援事業のバックアップの役割をもち、行政と の調整などのパイプ役を果たす。また、24時間対応の相談支援あるいは情報センターの機能を担う。さらに、行政と協力して、職員研修など専門職の資質向上 に努める役割をもつ等、当該エリアで相談支援サービスの基幹的役割を担うものとされたい。
 
Ⅳ.利用者負担の軽減化、「障害者特別給付費」制度の対象拡大、精神障害者の交通費優遇措置および抜本的所得保障制度の確立
 
<視 点>
 精神障害者が病院から地域生活へと移行するためには、地域生活が経済的に成り立つことが先ずもって必要である。具体的な経済支援対策および抜本的な所得保障制度の改善が必要である。
 
<要 望>
○ 精神障害者は福祉サービス費とともに自立支援医療費の自己負担もあり負担感が強い。障害福祉サービスについては応能負担とし、負担額の算定は「世帯単位」 から「個人単位」によるものとされたい。また、自立支援医療に係る利用者負担については通院医療の継続を担保する視点からこれを廃止されたい。
○ 精神障害者の交通費優遇措置は、身体・知的障害者のそれに比べて著しく遅れている。例えば、国土交通省の定めた「一般乗合旅客自動車運送事業標準運送約 款」には精神障害者が運賃割引届出対象者から外れており、実際に身体・知的障害者に比較して割引事業者は3分1程度でしかない。多額な交通費によって、日 中活動サービスの利用や通院医療が制限されないように配慮されたい。
○ 在宅、居住サービス利用者には、施設入所利用者の「補足給付」に相当する経済的援助(特定障害者特別給付費)がない。障害基礎年金2級のみの人の場合、自 立支援医療費や医療保険の自己負担、住居費や食費・光熱水費によって、手元に残るお金が3千円程度でしかなく、地域移行は推進できない。障害基礎年金2級 のみの人でもアパートやグループホーム等での地域生活が可能となるよう、特定障害者特別給付費制度の対象にされたい。
○ 障害者の所得の確保に係る施策については、利用者負担の軽減、就労支援などの検討に止まらず、並行して、障害基礎年金の引上げによる抜本的な改革を実施されたい。

以 上

厚生労働大臣     長妻 昭
厚生労働副大臣    細川律夫
厚生労働副大臣    長浜博行
厚生労働大臣政務官  山井和則
厚生労働大臣政務官  足立信也
厚生労働省社会・援護局
障害保健福祉部長   木倉敬之
精神・障害保健課長  福田祐典