EDUCATION 各種研修会

2019年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 PSW部門

11月28日(木)・29日(金)
つくば国際会議場(茨城県)

 令和元年度日本精神科医学会学術教育研修会PSW部門は、令和元年11月28日(木)、29日(金)の両日にわたり、日精協茨城県支部のご担当により、つくば国際会議場で開催された。「令和を迎えた今、精神保健福祉士が持つべき視点は何か」としたテーマのもと、シンポジウムも取り入れ、全国から330名の参加者を得て開催された。

 開講式では、日精協茨城県支部長の高沢彰先生が開講の挨拶をされ、続いて日本精神科医学会学会長の山崎學先生が挨拶をされた。来賓として、茨城県医師会長・諸岡信裕、茨城県保健福祉部 福祉担当部長・関清一、つくば市長・五十嵐立青様より祝辞を頂戴した。

 会長講演では、「精神科医療の将来展望」と題して、日精協・山崎學会長が講演をされた。最初に、精神保健福祉行政の歩みについて、行政関連の歴史、公費政策等の変遷を詳細に説明された。精神保健福祉の動向では、最新のデータをグラフ化し、精神疾患を有する総患者数が400万人を超えることや統合失調症入院者数が減少を続けていること等を話された。精神科医療の将来像については、精神障害者の雇用率が他の障害者に比べて極端に低いことや少子高齢化による社会保障費の増加等の懸念を話された。精神科医療における社会的偏見については、日精協会員病院のベッド数が国際的な精神科病床の定義に合わせれば、他国の精神科病床数と比べても多くはないことや身体的拘束件数が介護施設に比べて精神科病院は少ないことを話された。医療観察法では、より重度な治療反応性のない精神障害者の治療が措置入院という形で民間の精神科病院に委ねられていること等を話されて講演を終えられた。

 特別講演Ⅰは、「発達障害の理解と対応―社会生活支援におけるPSWの役割―」と題して、茨城県立こころの医療センター院長・堀孝文先生が講演された。最初に発達障害の特徴を話された。続いて支援には役割分担が必要なこと、ASD、ADHD、LD等の様々な発達障害の特徴を説明され、中学生位になると本人が違いに気づいたり、社会に出てから問題が露呈する人もいること等、映画を交えて説明された。また、タイムスリップ現象は薬が効きにくいことや胎生期から老年期までの状態像の変遷を示された。次に、引きこもり、犯罪、依存症との併存、虐待、災害等のさまざまな問題や二次障害、統合失調症と認知症の鑑別について示された。更に短所は長所であることや特性を治す治療法はまだなく、特性を理解し得意なことを使っていくことやルール・マナーを身につけること、言葉や説明に関する配慮等の対応方法、医療機関の役割などを説明された。最後に個別支援と連携は、PSWの重要な役割であり、発達障害でも成長する所があること等、医療機関からお願いしたいことも話され、いばらきASD就労支援プロジェクトの説明と紹介をされて講演を終えられた。

 特別講演Ⅱでは、「認知症の理解と対応―地域包括ケアにおけるPSWの役割―」と題して、筑波大学医学医療系精神医学教授の新井哲明先生が講演された。始めに重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後までできるよう、連携を担う認知症疾患医療センターと、PSWの役割が大きいこと等を話された。続いて、認知症の実態を話され、共生と予防が柱となること、病態解明と薬の開発等の治療、介護者支援等の対策を説明された。また、認知症の分類、病態を映像を用いて説明され、ピック病の50代発症が万引き等大きな問題になっていることを話された。認知症予防では、知的活動、運動、予防に良い食事等を話され、若年性認知症の本人、家族の集いが茨城県で始まったことを報告された。最後に、PSWの役割は、情報提供、環境のアセスメント、入退院支援、社会資源に繋いでいくこと等であることを示された。
  その後に開かれた懇親会では切り絵師による、竜や七福神などの素晴らしい作品を作る芸の披露が行われた。さらに、地域の名産品が景品のビンゴゲームが開催された。参加者同士の懇親もすすみ、有意義な会であった。

 2日目は特別講演Ⅲにて「令和を迎えた今、精神保健福祉士が持つべき視点は何か~連携どうしてますか?~」と題して聖学院大学 心理福祉学部助教の小沼 聖治先生による講演が行われた。テーマとして1.精神福祉士を取り巻く環境 2.現代に求められる専門性 3.多職種連携における精神保健福祉士の役割 4.精神保健福祉士が持つべき視点とは という内容で行われた。
多様なニーズに対応するための職域の拡大、精神障害にも対応した地域包括システムの構築など、PSWを取り巻く環境は急激に変化しており、PSWとして持つべき視点の再確認が求められると述べられ、PSW育成の新カリキュラムについての説明がなされ、多職種連携教育の必要性、そこにおけるPSWのアイデンティティーなどについて語られた。次に精神科医療におけるチームアプローチが必要とされる背景として、核家族化、超高齢化社会などの現在の状況にふれられ、PSWのチームにおける役割は、退院後(将来)の生活を見据えて、ご本人の思いを尊重することの重要性を語られ、個人と環境の相互作用をふまえて、その人の思いを受容、共感、傾聴し、アセスメントすることだと述べられた。さらに、PSWとしてのアイデンティティーの確認のため、心構えの再確認や、誰のための何のためのPSWなのかを自らに問いつづけることが必要と述べられた。
 次にまず「連携すっぺ!そうすっぺ!~いばらぎ流地域支援~」というテーマで、医療法人精光会 PSW横山基樹氏、公益財団法人報恩会 石崎病院PSW 田山 香代子氏、つくば市保健福祉部社会福祉課 PSW福田 学氏、社会福祉法人創志会 つくばライフサポートセンターみどりの PSW山下瑞枝氏、医療法人直志会 アミーゴ荘 PSW小林 誠氏によるシンポジウムが行われた。
茨木県精神科病院におけるPSWの現状等について語られ、PSWが不足しているとのことであった。「石崎病院における地域移行支援と地域連携」では院内連携の重要性について話され、また事業を通しての地域連携が病院と地域がつながる起点となり、個別のケースでの連携が図りやすくなると話された。「行政の立場から見た地域連携・地域支援」では、つくば市における行政機関に所属する精神福祉士資格職の在り方、国の施策と動向について語られた。さらに地域移行支援連絡協議会の設置開催など、つくば市の取り組みについて語られた。「つくばサポートセンターみどりのにおける地域移行支援と地域支援」では退院支援を行ってきているが、退院したいという当事者の気持ちが重要と語られた。また、高齢者で仕事がしたいという要望があり、福祉を利用し就労B型に通所していただいていると話された。「アミーゴ荘における連携(障害福祉×牛)~大子庁町での活動を通じて~」では、大子町で過疎、高齢化している畜産農業へ、アミーゴ牧場で就労を積んだ利用者が、サポートしていくシステムの構築を行っている内容の紹介が行われ、地場産業と結びつくことの重要性を強調された。
閉会式では、受講証授与が日精協から行われ、日精協茨木県支部長の高沢彰先生に感謝状が贈呈された。さらに日精協からの挨拶と高沢彰支部長の閉会の挨拶で2日間の研修会は閉講となった。

日本精神科医学会学術教育研修会 PSW部門 報告 飯島 徳哲・ 青野 将知