EDUCATION 各種研修会

2019年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 事務部門

11月21日(木)・22日(金)
JRホテルクレメント徳島(徳島)

令和元年11月21日~22日、日本精神科医学会学術教育研修会事務部門が徳島県支部の担当によりJRホテルクレメント徳島にて、全国から270名近くの参加を得て開催された。

開会式の後、「精神科医療の将来展望」という演題で会長山崎学先生の講演が行われた。①精神保健福祉行政の歩み、②精神保健福祉の動向、③精神科医療の将来像、④精神科医療における社会的偏見(日本の精神病床は本当に多いのか?精神科病院に入院すると縛られるのか?精神科病院に入院すると薬漬けにされるのか?医療観察法は適切なのか?)という項目で講演された。事務部門研修会ということもあったからか、最後に次回診療報酬改定に向けてアンダーテーブルで話をしているという最新の内容をもお話しされた。

 昼食をはさんで、講演2として、「働き改革における労務管理の課題と対策」という演題で、つちはし社会保険労務士事務所代表の土橋秀美先生の講演が行われた。まず、平成29年3月28日の働き方改革実現会議決定の『働き方改革実行計画』について説明された。①働く人に視線に立った働き方改革の意義、②同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善、③賃金引き上げと労働生産性向上、④時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正、⑤柔軟な働き方がしやすい環境整備、⑥女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備、⑦病気の治療と仕事の両立、⑧子育て・介護等と仕事の両立、障碍者の就労、⑨雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職・再就職支援、⑩誰にでもチャンスのある教育環境の整備、⑪高齢者の就業促進、⑫外国人人材の受け入れ、⑬10年先の未来を見据えたロードマップ、などの項目について説明を加える形で、考えられる対策なども教えてくださった。そして、講演のまとめとして、①働き方改革は少子高齢化の日本社会を1億総活躍で国民みんなが支えるための改革、②年次有給休暇の5日間取得義務で休み改革、③労働時間の上限規制の基本は職員の健康管理、④特別条項発動時に実施が求められる健康確保措置、⑤改正労働安全衛生法による労働時間把握義務付けで医師や管理職の時間管理も義務化、⑥努力義務となる勤務間インターバル制度は睡眠時間確保のため、⑦2020年から始まる同一労働同一賃金には今から対応を検討することが必要と結ばれた。

 講演3は、「精神科病院におけるおもてなしの心・接遇について」という演題で、徳島文理大学短期大学部講師の川道映里先生の講演が行われた。まず、本日いちばん伝えたいことは、『3つの「こ」』とお話しされた。それは、「ことば」と「こうどう」と「こころ」で、中心・メインは、「こころ」ですと。接遇とは、相手の立場に立って物事を考えることで、あなたの「こころ」を「ことば」や「こうどう」で表すことで、接遇=心のこもったおもてなし→ホスピタリティで、患者とは「横の関係」ですと強調された。また、非言語コミュニケーションが大事で、雰囲気が温かく感じられてはじめて、言葉は意味を持ちますと言われた。患者との信頼関係(ラポール)を築くためのスキルとして①傾聴すること、②患者の話の中にある「内容」の理解+話の背後にある「感情」に気づくこと、③相手に合わせた、相手にわかる言葉づかい・言葉選びを意識すること、などを挙げられた。また、マナーあるコミュニケーションが大事として、①クッション言葉を活用しましょう、②ハンバーガー話法、③命令形は疑問形に変換しましょう、④あとよし言葉を活用しましょう、と話された。そしてもう一つ、否定的表現よりも肯定的表現を用いることが大切ですと、ところどころに具体的な例をはさみながら教えてくださった。

 講演4は、「地域包括ケアシステムにおける精神科病院の役割」という演題で、医療法人桜樹会 桜木病院理事長・櫻木章司先生の講演が行われた。医療計画では、糖尿病患者などを超え精神障害者数が増えたため平成25年度の第6次医療法改正において4疾病から5疾病へと変更され、精神疾患が国が取り組むべき重要な疾患とされたと言う。そして第7次医療法改正では統合失調症の身体合併症治療やクロザピンの使用について検討されていると話された。精神障害者の地域移行に係るこれまでの取り組みについては、平成16年に改革ビジョンが発表され、平成21年にあり方に関する検討会、平成26年に具体的方策に係る検討会と話し合いが進み、平成29年に「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会報告書」が作成された。そして現在は精神障害者にも対応した地域包括ケアの実施についてより具体的なことが検討されていると教えて下さった。蜂谷英彦氏が唱えていたように精神障害においては疾病と傷害が併存しているため医療と福祉の融合が必要で、精神障害者が必要な医療にアクセスするための体制整備や精神障害者を地域で支える医療の強化が必要であると締めくくられた。

 翌日に行われた講演5は、「医療事故の現状と対策」という演題で、日本精神科病院協会医療安全委員会顧問弁護士である木ノ元直樹先生の講演が行われた。まず、医療事故、医療紛争、医療裁判の違いについて話された。次に医師の過失と責任について説明され、医療裁判は医療の結果ではなく医療水準に基づいて審議されていくと伝えられた。そして、精神科病院で起こりやすい三大事故《自殺事故、患者間傷害、不慮の事故(転倒・誤嚥等)》について詳しく説明され、特に自殺事故について、ひも類などを取り除くことを忘れる患者管理不足や看護師の観察不足が裁判で敗訴の原因となることが多いと教えて下さった。三大事故以外では、薬物療法の添付文書に従っているかどうか、身体拘束の必要性や観察の方法や頻度、身体合併症が起こったときの転送義務が問われることが多いと示された。

 最後の演題6は、「大災害から学ぶ ー精神科病院における実践的な危機管理ー」という演題で、社会医療法人北斗会さわ病院・緑川大介医師の講演が行われた。2018年9月、さわ病院が台風21号に直撃され、停電や断水、建物の一部損壊の被災を受けた経験から会員病院への注意を促された。まず30年以内に70~80%の確率で南海トラフ地震が起こり、その時は、M9.1、14万km2、32万3000人が死亡あるいは行方不明になると予想されているという。南海トラフ地震に影響されるとされる市町村には149,846床の会員病床があり(平成28年4月1日時点)各病院がそれぞれ災害対策をするべきだと話された。各病院で災害対策委員会を設置して、地域の防災計画を参考とし、ライフラインや医薬品・食料品の確保について評価し、設備・備品とBCP(Business Continuity Plan)に従った災害に対応する機能整備が必要と力説された。精神科病院では被害が落ち着くまでの籠城が基本と話され、特に南海トラフ地震では完全に水が引くのに5日間かかると予想されており、それに対応できる準備が必要と訴えられた。まずは、EMIS (Emergency Medical Information System)のWebサイトを見て、それに添ってBCP作成をすると良いだろうと話された。

 以上、充実した内容の事務部門の研修会であった。担当して下さった徳島県支部の皆様にお礼を申し上げたい。

(日精協学術教育研修会 事務部門 報告 駒橋 徹 熊谷 雅之)