EDUCATION 各種研修会

2019年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 薬剤師部門

9月28日(土)・29日(日)
ソニックシティ(埼玉)

日本精神科病院協会学術教育研修会薬剤師部門は2019年9月28日(土)・29日(日)の二日間にわたって「精神科チーム医療での薬剤師のかかわり~どの職種とチームを組めるか~」をメインテーマとして、さいたま市のソニックシティにて開催され、250名の参加者があった。
開講式は、日精協埼玉県支部長 菅野隆先生、続いて日本精神科医学会長 山崎學先生が主催者としての挨拶をされた。来賓として、埼玉県薬剤師会会長 鯉渕肇様、埼玉県病院薬剤師会会長 北澤貴樹様から祝辞を頂いた。
 第1日目の会長講演は、山崎學会長による『精神科医療の将来展望』と題して講演いただいた。①精神保健福祉行政の歩み、②精神保健福祉の動向、③精神科医療の将来像、④精神科医療における社会的偏見について、詳細に説明をされた。
午後からは2つの研修会場(小ホール、市民ホール)に分かれ、充実した研修会となった。

<小ホール会場>
 ランチョンセミナー1は、昭和大学医学部精神医学講座教授 岩波明先生による『成人期ADHDの診断と治療』と題してセミナーが行われた。
 講演①は、杏林大学医学部精神神経科学教室教授 渡邊衡一郎先生による『Shared Decision Making(SDM) これまで、そしてこれから』と題して講演が行われた。SDMが成立するには、当事者の参加意思、治療者の意思、そしてDecision Aid(意思決定ガイド)が必要であり、うつ病及び統合失調症に対してのSDMの効果を説明された。
講演②は、こどもの心のケアハウス嵐山学園園長 早川洋先生による『こどもの発達障害-薬物療法を巡っての諸問題-』と題して講演が行われた。まず、発達障害児への薬物療法の総論、次にADHD、自閉症スペクトラム及び二次的障害の薬物療法について説明をされ、それらを巡る諸問題について話をされた。
 第1日目の最後の講演③は、東邦大学薬学部教授 吉尾隆先生による『向精神薬の適正使用と適正な減薬・減量』と題して講演が行われた。診療報酬上でも薬物療法の適正化は薬剤師の重要な役割であり、向精神薬の減量に際して、知っておくべき症状評価尺度、減量方法と離脱症状の対処法について説明された。

<市民ホール会場>
ランチョンセミナー2では、協和病院 薬剤科 村田篤信先生が「薬剤師業務に『統合失調症薬物治療ガイド』を活用するためには何が必要か?」の演題で講演された。
 講演④では、埼玉精神神経センター センター長 丸木雄一先生が「認知症ケアネットワークの重要性」の演題で講演された。認知症の早期発見・早期治療のために、ご自身が実践された、かかりつけ医、地域包括支援センター、ケアマネジャー、行政との連携とネットワーク作りについて報告された。
 講演⑤では、Office夢風舎 フリーランスナース&ソーシャルワーカー 土屋徹先生が「ご家族との関わり~家族心理教育の視点から~」の演題で講演された。家族の困っていること、求めていることを例示され、家族と関わるコツについて述べられた。
 続いて「地域生活を支える」のテーマでシンポジウム①が行われた。最初に西熊谷病院 薬局 長浜恭史先生が「精神科における地域包括ケアを考える~薬剤師の視点から~」と題して、病院薬剤師の外来患者に対する支援活動を紹介された。次にグッドファーマシー株式会社 あおぞら薬局 成井繁先生が「精神科地域連携における薬局薬剤師の活動」と題して、独自の連携用紙による取り組みについて紹介された。続いて埼玉精神神経センター 薬剤部 櫻井徹先生と精神科デイケア 前原佑紀先生が「入院から退院に向けた薬剤師と精神科デイケアの関わり」の演題でそれぞれ発表された。櫻井先生は薬剤師の他職種と協働の患者支援、とくに精神科デイケアとの関わりについて紹介され、前原先生はSST服薬自己管理モジュールについて詳しく紹介された。
 夕刻よりソニックシティ国際会議場にて盛大に懇親会が催された。アトラクションでは武蔵一宮氷川神社 遠藤権禰宜(ごんねぎ)率いる雅楽奏者の方々に、笙(しょう)、龍笛(りゅうてき)、篳篥(ひちりき)の演奏をバックに、書道家小川啓華さんによる「精心」という書のパフォーマンスが披露された。

<小ホール会場>
第2日目の講演⑥は、埼玉医科大学病院神経精神科・心療内科教授 松尾幸治先生による『見える気分障害―気分障害の画像診断―』と題して講演が行われた。気分障害の鑑別診断補助検査として唯一保険適応として認められた光トポグラフィー検査(NIRS)について、MRIの研究と併せて、気分障害の見える化がどこまで進んでいるか自験例を交えて説明された。
講演⑦は、筑波大学医学医療系精神科准教授 根本清貴先生による『統合失調症の薬物療法』と題して講演が行われた。「統合失調症治療ガイドライン」は非常に有用であるが、その効果を検証した研究が未だなく、現在行っている取り組み(EGUID)について紹介された。
ランチョンセミナー3は、獨協医科大学精神神経医学講座准教授 古都規雄先生による『薬物動態から見た貼付剤の特性』と題して講演が行われた。
 最後の講演⑧は、日本医科大学千葉北総病院メンタルヘルス科部長・病院教授 木村真人先生による『高齢者うつ病の病態と治療~血管性うつ病や認知症との関連を含めて~』と題して講演が行われた。高齢者うつ病の中の脳卒中後うつ病(PSD)に対しては総合的医療が必要であり、医療連携パスを用いた地域ネットワークの構築が大切であると説明された。

<市民ホール会場>
第2日目の講演⑨で西熊谷病院 副院長 渡邊貴文先生が「修正型電気けいれん療法」の演題で講演された。修正型電気けいれん療法(modified electroconvulsive therapy; mECT)について、ECTの歴史、修正型の意味、mECTの適応と利点を教示され、治療実績、mECT へのスティグマとその対応について話された。
 続いて「治療抵抗性統合失調症」のテーマでシンポジウム②が行われた。はじめに順天堂越谷病院 薬剤科 大久保由衣先生が「クロザピンの導入について」と題して、クロザピン導入までの対応、投与開始後の状況と問題点、中止症例、特殊な対処例などの興味深い話をされた。次に順天堂大学越谷病院 メンタルクリニック 准教授 前嶋仁先生が「クロザピンの使用経験について」と題して、クロザピンの有効性について文献的に評価され、本邦でクロザピンが標準的な治療法といい難い現状について考察され、使用経験をまとめられた。
ランチョンセミナー4で埼玉県立精神医療センター副病院長 成瀬暢也先生が「人はどうして依存するのか~気分障害との関連を踏まえて~」の演題で講演された。
最後に講演⑩で浅井病院 薬剤部 部長 松田公子先生が「精神科チーム医療の中の薬剤師」の演題で講演された。クロザリル適正使用委員会や誤嚥窒息事故防止委員会などにおける多職種協働の取り組みなどについて述べられ、薬剤師のあるべき姿を熱く語られた。
引き続き閉講式が行われ、日精協から受講者代表への受講証書授与、さらに日精協埼玉県支部へ感謝状が贈呈された。続いて日精協からの挨拶、日精協埼玉県副支部長 林文明先生が閉講の挨拶をされ、2日間の全日程を終了した。
 おわりに、本研修会の企画・運営に当たられた埼玉県支部の諸先生およびスタッフの皆様方に深く感謝申し上げるとともに本研修会開催に当たりご尽力いただいた故福島泰輔先生(公益財団法人西熊谷病院)に謹んでご冥福をお祈りいたします。

日本精神科病院協会 学術教育研修会報告書 炭谷信行 西紋孝一