EDUCATION 各種研修会

2018年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 薬剤師部門

2018年11月8日(木)~9日(金)
ANAクラウンプラザホテル神戸(兵庫県)

 日本精神科病院協会学術教育研修会薬剤師部門は、平成30年11月8日(木)、9日(金)の2日間にわたって神戸市のANAクラウンプラザホテルにて開催された。「精神科医療の潮流の中で、薬剤師としての立ち位置を考える」としたテーマのもと、各地より157名の参加者があった。

 開講式は、日精協兵庫県支部長 石井敏樹生先生が開会の挨拶、続いて日本精神科医学会長 山崎學先生が主催者としての挨拶をされた。さらに、来賓として、兵庫県健康福祉部部長 山本光昭様、兵庫県病院薬剤師会会長 橋田亨様から祝辞をいただいた。

 第1日目の講演①は、香良病院理事長・院長 石井敏樹先生の座長で、山崎學会長に「精神科医療の将来展望」と題してご講演いただいた。精神保健福祉行政の歩みとして、ライシャワー事件、WHOクラーク勧告等、この50年の精神科医療の出来事や変化に続き、最新の精神保健福祉のデータ分析に基づいた話題提供・問題提起がなされた。また、精神科病院に対する問題点や将来ビジョンをふまえた今後の方向性が示された。
 ランチョンセミナーは、香良病院事務長 山根恭平先生の座長で、神戸大学大学院医学研究科准教授 菱本明豊先生により「QOLを考えた統合失調症の薬物治療」と題し行われた。統合失調症についての概説に続いて、最新の知見に基づいた治療選択や評価方法について実践的な講演がなされた。
 講演②は、揖保川病院薬剤部長 岡継宜先生の座長で、南国病院薬剤師 川添哲嗣先生により「薬物治療適正化に求められる薬剤師のトータルマネージメント能力」と題して講演が行われた。少子高齢化や病床再編の流れに伴う在宅ケアの重要性について、高知県内での具体的な活動実績が紹介され、そのなかで、薬物療法にのみ関与するのではなく患者の生活そのものに寄り添うことで処方の減量に成功した事例が報告された。
 講演③は、揖保川病院理事長・院長 古橋淳夫先生の座長で、奈良県立医科大学医学部看護学科教授 飯田順三先生により「ADHDの病態と治療」と題して講演が行われた。ADHDの基礎的な説明に始まり、生物学的な病理について触れられた。さらに、治療について最新の研究成果も含めて概説され、家族への対応方法に至るまでわかりやすく説明がなされた。
 第1日目の最後の講演④は、大村病院薬局長 山崎英之先生の座長で、中外合同法律事務所弁護士 赤羽根秀宜先生により「薬剤師の法的責任~裁判例を参考に~」と題して講演が行われた。まずは責任について、刑事・行政・民事それぞれの根拠や関連性について説明されたのち、実際の判例を示しながら、詳しく説明がなされた。
 夕刻より同会場にて盛大に懇親会が催された。本研修会の開催に尽力をいただいた日精協兵庫県支部の先生方の細やかな気配りにより、すべての参加者が心地よい時間を過ごすことができた。

 第2日目の講演⑤は、魚橋病院長事務長 小谷昌宏先生の座長で、大阪医科大学精神神経医学教室 菊山裕貴先生により「新型うつ病?─うつ病か、躁うつ病か、神経発達障害か─」と題して講演が行われた。
 日頃の診療(精神科病院勤務および産業医活動等)のなかで、昔ながらのうつ病は少なく、新型うつ病?と思われるものが多い。経過や客観的事実から、軽度の双極Ⅱ型あるいは神経発達障害であるものが多い。そこで神経発達障害に関して、遺伝子学的な研究を中心に数多くの詳細なデータを基に、さまざまな精神疾患は連続性のある一連の疾患ではないかと考えられるということ、また神経発達障害者の増加は疾患概念の普及だけではなく、晩婚化による父親由来の遺伝子変異や母体内内分泌撹乱物質暴露等が要因である、と話され、いろいろと興味ある内容であった。
 続いて、最後に講演⑥として、湊川病院薬剤部主任 高田和子先生の座長で、「服薬支援と薬剤の知識」と題して昭和大学薬学部教授 倉田なおみ先生が講演された。
 精神科領域においても多くみられる運動障害を有する患者および摂食・嚥下障害を有する患者の服薬について、当事者の立場(視点)からいろいろと気づいた問題点(錠剤の大きさ・形、運動障害のある患者の服薬状況、嚥下機能のチェックや影響を与える薬剤等)をわかりやすく説明され、今後の薬剤師の調剤業務だけではなく、患者に対しての薬剤管理指導等の患者・家族に寄り添った薬剤師業務(チーム医療の一員)について説明された。
 引き続き閉講式が行われた。日精協から受講者代表への受講証書授与がなされ、さらに日精協兵庫県支部長・石井敏樹先生へ感謝状が贈呈された。続いて日精協からの挨拶のあと、日精協兵庫県支部長・石井敏樹先生が閉講の挨拶をされ、2日間の全日程を終了した。
 おわりに、本研修会の企画・運営に当たられた石井敏樹支部長ならびに兵庫県支部の諸先生、およびスタッフの皆様方に深く感謝申し上げるとともに、兵庫県支部の今後のご発展をお祈り申し上げたい。

(日本精神科医学会学術教育推進制度学術研修分科会/青木 治亮 西紋 孝一)