EDUCATION 各種研修会

2018年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 看護部門

2018年5月31日(木)~6月1日(金)
ホテルインターコンチネンタル東京ベイ(東京都)

 平成30年度の日本精神科医学会学術教育研修会看護部門は、平成30年5月31日(木)、6月1日(金)の両日にわたり、日本精神科医学会学術教育推進制度学術研修分科会の担当で、「精神科看護の専門的技術を高め伝承する〜臨床で実践する看護教育」をテーマにホテルインターコンチネンタル東京ベイで開催され、日本全国から172名の受講生が参加した。

 開講式では、日本精神科病院協会常務理事の松原六郎先生が開講の挨拶をされ、続いてすぐ講演に移った。

 第1日目の講演1は、「精神科医療の将来展望」の演題で、山崎學日精協会長が講演された。はじめに精神保健福祉行政の歩みについて、豊富な資料をもとに、内外の精神科医療の歴史、精神保健福祉に関する政策および具体的な法律の変遷などについてわかりやすく説明され、歴史的展望から過去の政策の在り方について意見を述べられ、日本の精神医療に対する偏見を取り除くため、海外に向けた情報発信が必要であると語られた。次に精神保健福祉の動向について、統計資料を分析され、精神科病院の入院患者数の減少などについて指摘された。さらに認知症について、患者の増加と適切な治療的対応の必要性、精神科病院以外での身体拘束への懸念などを挙げられた。最後に精神科医療の将来像について、この50年の変化の分析と今回の診療報酬改定をふまえて示された。

 ランチョンセミナーでは、あさひの丘病院看護師長 丸屋めぐみ先生が「リカバリーを見据えた薬剤選択のポイント~看護師の立場から~」の演題で講演された。

 講演2は、「看護管理者が知っておくべき平成30年度診療報酬改定のポイント」の演題で、たなか病院副院長 松本善郎先生が講演された。平成30年度診療報酬改定について、豊富な資料をもとに詳細に解説された。とくに訪問看護、認知症治療病棟、医薬品の適正使用の推進、措置入院患者への精神医療の評価等に関連して時間を割かれ、適宜疑義解釈の文面を挿入されるなど、わかりやすく説明された。今回の改定の背景や実務上の注意点についても解説があり、最後に適時調査に関連する話題を取り上げて講演を終えられた。

 講演3は、「ストレングスモデルとセルフケアモデル─当事者と対話しよう─」と題して、聖路加国際大学大学院看護学研究科教授 萱間真美先生が講演された。先生はご自身の経験をふまえて、看護師は当事者に対して急性期を中心に問題解決モデルで関わってきたが、福祉領域ではストレングスモデルを基本として支援を考えると指摘された。当事者の自信を高めるためには、問題解決モデルでは適しておらず、多職種と共同するうえでも、退院支援に向けてストレングスモデルに転換していく必要があると強調された。リカバリー(回復)、ジョイニング、レジリエンス、マッピングシートの活用について具体例を挙げて説明され、当事者が「目標に向かっている」と感じられる計画とケアの必要性について語られた。「当事者のリカバリーの旅に伴走したい」との言葉で講演を締めくくられた。

 次に「先輩からのメッセージ『看る力』」のテーマでシンポジウムが行われた。座長は長谷川病院看護部長 田巻宏之先生で、3名のシンポジストが講演された。最初に日本精神科看護協会業務執行理事 仲野栄先生が、精神科看護の定義のなかから「精神科看護者は患者・看護者関係を基盤に対象の個別性を尊重し、自律性の回復に向けて支援しなければならない」を引用し、強調された。治療環境、看護師の能力、ストレングスの視点などについて具体的に説明され、看護師は自身が治療環境であることを自覚するよう促された。次に東京足立病院看護部長 森はなこ先生が、東京足立病院の教育体制、看護職員のレディネスの違い、現場教育の実際を説明され、看る力を養うための方策、看る力を教わる・教えるための方策について述べられた。最後に駒沢女子大学看護学部 畠山卓也先生が講演された。看護師養成課程の変遷を示し、もはや大卒看護師は珍しくない(2017年度、34.25%)と指摘され、先生が見てきた学生と精神科病院への就職の実際について語られ、若いスタッフをどう確保し育てるかについて話された。続いて座長が看護師として患者さんを看ていくときのスタンスについて質問したが、各シンポジストからの経験に裏付けられた回答は十分先輩からのメッセージになっていると思われた。

 研修会1日目の終了後、同ホテルにおいて懇親会が開催された。豪華景品を目指してのじゃんけんゲームなどを通して、参加者は交流を深めることができた。

 第2日目の講演4は「アンガーマネジメントの理解〜自分の感情と上手に付き合おう〜」と題して横浜市立大学 医学部 看護学科 講師 田辺有理子先生が講演された。「この1週間で自分が一番怒ったことは何か?」「その怒りに点数を付けてみよう」などの問いかけに、受講者同士でグループとなりディスカッションするなど実践的な内容であった。「怒り方に注意しよう」「怒る基準をつくろう」など日々の業務に活かすことのできる提示があった。最後に「何を言いたいのかを明確にする」「気持ちを言葉にする」「具体的に提案する」「相手と対等な関係で話す」など、上手な怒り方の提案をされ講演を終えた。

 研修会最後の講演は「終末期医療(看取り)の倫理の基礎。DNARの倫理」をテーマに日本臨床倫理学会 総務担当理事 箕岡真子先生が講演された。Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)やPhysician Orders for Life-sustaining Treatment(POLST)に関し歴史的流れや問題点について過去の判例などを挙げ説明された。アルツハイマー病の父親を看取る症例を提示され、具体的かつ実践的な内容であった。そのなかでケースを整理するため [1]医学的事項 [2]患者の意向 [3]QOL [4]周囲の状況で構成される「4分割表」を作ることを提案された。添付資料には、日本臨床倫理学会が提唱する生命を脅かす疾患に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書(DNAR指示を含むPOLST)の作成指針やガイダンス、書式が具体的に示された。

 引き続き閉講式が行われた。日本精神科医学会から受講者代表への受講証書授与がなされ、さらに学術研修分科会構成員が閉講の挨拶をし、2日間の全日程を終了した。

(日本精神科医学会学術教育推進制度 学術研修分科会/鶴岡 義明  炭谷 信行)