EDUCATION 各種研修会

2016年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 作業療法士部門

2016年7月14日(木)~15日(金)
岐阜都ホテル

平成28年度の日本精神科医学会学術教育研修会作業療法士部門は、平成28年7月14日(木)、15日(金)の両日にわたり、日本精神科病院協会岐阜県支部の担当で岐阜都ホテルにて開催された。「ReNew ~精神科の作業療法士よ、今こそ地域へ~ 明日から活かせる作業療法の実践」のテーマのもと、全国から120名の参加があり、盛大に行われた。

開講式は、日精協岐阜県支部長・田口真源先生の開会の挨拶に続き、日本精神科医学会・山崎學学会長が挨拶をされた。その後、来賓として岐阜県知事代理の森岡久尚岐阜県健康福祉部次長が祝辞を述べられた。

第1日目の講演Ⅰは「精神科医療の将来展望」の演題で、日精協・山崎學会長が講演された。会長は、1.精神保健福祉行政の歩み、2.精神保健福祉の動向、3.認知症、4.精神科医療の将来像の順で講演を進められた。精神科医療の歴史から始まり、最近のデータに基づく精神保健福祉の動向、これからの認知症対策、少子高齢化・人口減少問題等について説明されたあと、今後の精神科医療の課題として、1.精神障害者の地域移行、2.高齢精神障害者の増加、3.うつ病患者の増加、4.減らない自死者数、5.遅れている発達障害者対策、6.児童精神科医の不足、7.総合病院精神科病床の減少、8.臨床研修医制度から始まった医局崩壊、指導医不足等を挙げられて講演を終えられた。多くのスライドを駆使してわかりやすく説明され、山崎學会長の考えが参加者に十分伝わり、非常に意義深い講演であった。

講演Ⅱは「認知症予防のための社会参加支援の地域介入」の演題で、星城大学大学院健康支援学研究科研究科長・竹田徳則先生が講演された。竹田先生は、最初に健康を考える視点について話され、心身の健康に与える心理社会的因子の重要性について述べられた。次に、健康長寿・介護予防にはハイリスク戦略に加え地域全体の人を対象としたポピュレーション戦略が重要で、認知症の発症を予防することが要介護状態の発生を減少させることにつながると説明された。そのため認知症予防に向けた社会参加支援が必要で、人と人とのつながりのもてる通いの場(サロン等)を住民主導で展開することが大切であり、認知症にならずに安心・安全に住み続けられる地域・まちづくりの推進は心理社会的側面を重視する作業療法士の出番であると強調され、講演を締めくくられた。

昼食後の講演Ⅲは「若年性認知症の人が地域で暮らすために ~作業療法士だからできる相談・就労・QOLの支援~」の演題で、東京都若年性認知症総合支援センター理事長・駒井由起子先生が講演された。最初に若年性認知症支援に関する経過や東京都若年性認知症支援モデル事業について説明され、作業療法士は目の前の対象者だけでなく、対象を広げ、地域作業療法の実践という視点をもつことが重要であると述べられた。次に若年性認知症の特徴とリハビリテーションについて話され、進行性の病気であるが前向きに生きる気持ちをもつことが重要であり、閉じこもらず外に出て身体機能を活用し、社会とのつながりをもち続けることが大切であると述べられた。その後、全国初の相談支援窓口である東京都若年性認知症総合支援センターの活動について説明され、相談支援のポイントとよくある相談事例の紹介をされた。最後に、目の前の対象者のアセスメントからサポートが始まり、ニーズに合う社会資源をつくることが重要であると述べられ、講演を終えられた。これからは作業療法士も地域に出て活躍する時代であり、地域の暮らしを支える視点をもつことが必要であると実感した。

研修1日目最後の講演Ⅳは「発達障害のある成人への作業療法士の関わり」の演題で、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科准教授の岩永竜一郎先生に昨年の研修会に引き続いてご講演をいただいた。岩永先生は、昨今、自閉スペクトラム症(ASD)の診断を受ける者が増加している理由やその意義について話され、注意欠如・多動症(ADHD)の特徴をディズニーやドラえもんのキャラクターに例えられてわかりやすく説明された。その治療として、作業療法士は環境づくりと作業課題づくりが重要であると述べられた。発達障害の患者が年々増加しており、精神障害者の中にもベースとして発達障害をもった人が多くなっていること、診断的に統合失調症等の精神疾患の症状と類似している点があることなどを説明された。次にASDへの対応については、視覚的な支援や具体的な説明が大切である等、重要なポイントをわかりやすく説明された。最後に発達障害者の就労支援やその課題について述べられ、講演を終えられた。

第1日目の研修会終了後、懇親会が同ホテル2階ボールルームで催された。懇親会では季節の天然鮎がテーブルに並べられ、ハワイアンダンスのアトラクションもあり、岐阜県支部の病院スタッフの協力の下、和やかな雰囲気の中で全国から集まった大勢の病院作業療法士同士の懇親が図られた。

第2日目最初の講演Ⅴは「統合失調症の理解と対応」の演題で、昨年の研修会に引き続き、京都大学名誉教授/「ひとと作業・生活」研究会主宰・山根寛先生が講演された。わかりやすいスライドを用いながら、統合失調症の病態やわが国の精神保健の変遷と作業療法、統合失調症への対応について説明された。昨今、精神科病院における入院患者さんにも変化があり、精神科作業療法士にとって、現在の精神科病院に必要となる作業療法士として仕事を改革していくことの重要性を説かれ、非常に示唆に富んだ内容の講演であった。

研修会最後となる講演Ⅵは「うつ病の復職支援(リワークプログラム)と作業療法」の演題で、医療法人栄仁会 京都駅前メンタルクリニック バックアップセンター・きょうとの松田匡弘先生が講演された。最初に気分障害(うつ病・双極性障害)の現状について話され、うつ病の復職支援(リワークプログラム)について説明された。次に、先生の所属しておられる京都駅前メンタルクリニック バックアップセンター・きょうとの紹介をされ、対象者、利用目的、プログラムの内容、職場や家族との関わり等を詳しく説明された。最後にうつ病の復職支援(リワークプログラム)における作業療法士の役割や事例への介入について述べられ、2008年に発足した「うつ病リワーク研究会」について説明され、講演を結ばれた。

講演終了後に閉講式が行われ、日本精神科医学会から受講者代表への受講証書授与に続き、日精協岐阜県支部へ感謝状が贈呈された。最後に日精協岐阜県支部長・田口真源先生が閉講の挨拶をされ、2日間の全日程を無事終了した。

おわりに、本研修会の企画・運営に当たられた田口真源岐阜県支部長ならびに岐阜県支部の諸先生方、およびスタッフの皆様方に御礼申し上げます。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会)