EDUCATION 各種研修会

2015年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 事務部門

2015年11月12日(木)~13日(金)
ホテルアソシア静岡

平成27年度の日本精神科医学会学術教育研修会事務部門は、平成27年11月12日(木)、13日(金)の両日にわたり、日本精神科病院協会静岡県支部の担当でホテルアソシア静岡にて開催された。「これからを生き抜くための精神科病院経営」のテーマのもと、全国から302名の参加があり、盛大に行われた。
開講式は、日精協静岡県支部長・溝口明範先生の開会の挨拶に続き、日本精神科医学会・山崎學学会長が挨拶をされた。その後、来賓として静岡県知事代理の高橋良武静岡県健康福祉部障害者支援局長と、静岡市の田辺信宏市長が祝辞を述べられた。
第1日目の講演1は「精神科医療の将来展望」の演題で日精協・山崎學会長が講演された。会長は1.精神保健福祉行政の歩み、2.精神保健福祉の動向、3.認知症、4.精神科医療の将来像の順で講演を進められた。精神科医療の歴史から始まり、データに基づく最近の精神科医療の流れ、今後の認知症対策等について説明されたあと、今後の精神科医療の課題として、1.精神障害者の地域移行、2.高齢精神障害の増加、3.うつ病患者の増加、4.減らない自死者数、5.遅れている発達障害者対策、6.児童精神科医の不足、7.総合病院精神科病床の減少、等13項目を挙げられて講演を終えられた。会長が用意されたスライドは126枚にも及び、最後は駆け足となったが、山崎學会長の考えが参加者に十分伝わってくる非常に意義深い講演であった。

ランチョンセミナーは、「職員のメンタルヘルス対策とうつ病の治療~ストレスチェック開始時期を踏まえて~」のテーマで、あいせい紀年病院理事長・森隆夫先生の講演が行われた。

講演2は「急げ病院改革! 激動の時代の組織マネジメントとは」の演題で、社会福祉法人恩賜財団済生会神奈川県支部支部長・正木義博先生が講演された。正木先生は、最初に済生会熊本病院改革の事例を挙げ、当初は病院の方針、事業計画が不明確で、職員へ将来のビジョンや構想が伝わらず皆のベクトルがばらばらであったが、「日本一の急性期病院を目指して」というビジョンを策定し、バランスト・スコアカード(BSC)の手法を取り入れ、組織が一丸となり取り組むことで経営革新がなされたことについて話された。次に済生会横浜市東部病院の病院改革について述べられ、ここでもビジョン、戦略、戦術が大切であり、精神科病院においても生き残りをかけてどんな難局にも対応できる組織への変革が必要であると強調された。最後に、これからは事務職員が活躍する時代であり、経営に積極的に携わり病院を変革していくことが重要であると述べられ、講演を終えられた。事務職員対象の講演であったが、病院の理事長、院長が聞いても大変参考になる内容であった。
講演3は「人口減少社会に向かう日本の医療介護の現状と将来予測」の演題で、国際医療福祉大学大学院教授・高橋泰先生が講演された。最初に日本全体の人口の推移について話され、2005年頃がわが国の人口のピークで、これから今世紀末まで0~64歳人口は毎年100万人ずつ減少し、75歳以上の後期高齢者は2030年まで毎年50万人増加、2030~2050年は横ばい、2050年以降は毎年25万人ずつ減少し、今世紀末には総人口が5,000万人台になることが予想されると指摘された。日本全体では高齢化と人口減少という人口推移に対応して取り組むべき対策を考えることが必要であるが、一方、地域により人口推移に差があるため、「地域差」に対応した医療提供体制を構築していくことが重要であり、精神科においても地域における医療資源と人口動態に応じた精神科医療の提供体制の整備が今後ますます重要になると強調され、講演を終えられた。今後人口減少の問題は、日本の医療体制を大きく変える要因であり、それをふまえた対策が必要であることが実感された。
講演4は「医療事故調査制度における注意点」の演題で、医師で弁護士でもある浜松医科大学医学部医療法学教授の大磯義一郎先生が講演された。先生は、本制度が手術や投薬等いわゆる積極的な医療行為に起因したものだけが対象になること等、本制度の概要について説明されたあと、実際の事例を挙げられて事故発生時の対応の良し悪しについて述べられた。そして、医療安全とは犯人捜しや精神論ではなく、患者と若い医療従事者を守ることであると強調され、講演をまとめられた。医療の現場を熟知している大磯先生ならではの講演は、非常に勉強になるとともに、勇気を与えられた思いがした。

第1日目の研修会終了後、懇親会が催された。懇親会ではビンゴゲームに加え、静岡名物の静岡おでん、富士宮焼きそば、安倍川もちがテーブルに並ぶ等し、大変盛り上がった。

2日目の講演5は「効果的な採用活動と定着への取り組み」の演題で、南東北グループ人材開発部部長(一般社団法人「看護職の採用と定着を考える会」代表理事)・諸橋泰夫先生が講演された。まず、南東北グループの概要について説明され、神奈川県に新しく開設した新百合ヶ丘総合病院の事例を挙げ、職員の採用は広報活動であり、情報発信が大切で、看護学生・看護職の視点・立場に立った採用活動が必要であると話され、そのための効果的なパンフレット・動画作成、就職説明会、学校訪問のやり方等を具体的に説明された。最後に、これからの職員の「採用と定着」は過去の概念からの脱却と新しい視点で考えることが大切であると述べられ、講演を締めくくられた。精神科病院での看護職の「採用と定着」は重要な課題であり、非常に実践的で参考になる内容の講演であった。
講演6は「1日60分で花園に行けた~出来ない理由探しから出来る理由探しへ~」の演題で、静岡聖光学院中・高等学校副校長で同学院・中高ラグビー部総監督の星野明宏先生が講演された。星野先生はラグビー17歳以下日本代表の監督も務められているが、これまでの教育者としての経験からスタッフ、選手のプロデュースにおいては、1.「出来る子」「出来るようになるだろう子」よりも「やろうとしている子」を上位におき、2.セルフプロデュースを常に意識させ、3.スタッフのゴールを設定することが重要であること、成長を続けるためには、目標設定→計画・作戦を考える→行動・実践する→反省・修正する→新しい目標設定をする、のサイクルが必要であること等を述べられた。ラグビー日本代表がワールドカップで大活躍した直後でもあり、日本代表のエディ・ジョーンズヘッドコーチのこと等も講演に含まれ、あっという間の1時間15分であったとともに、われわれにとっても人事や運営面において大変参考になる内容であった。

講演終了後には閉講式が行われ、日本精神科医学会から受講者代表への受講証書授与に続き、日精協静岡県支部へ感謝状が贈呈された。最後に日精協静岡県支部長・溝口明範先生が閉講の挨拶をされ、2日間の全日程を無事終了した。
終わりに、本研修会の企画・運営に当たられた溝口明範静岡県支部長ならびに静岡県支部の諸先生方およびスタッフの皆様方に御礼申し上げます。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度・学術研修分科会)