EDUCATION 各種研修会

2014年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 看護部門

2014年7月10日(木)~11日(金)
ホテルニューオータニ鳥取(鳥取市)

平成26年度の日本精神科医学会学術教育研修会看護部門は,7月10 日,11日の両日にわたり,「未来予想図・一歩未来へ ~日々の看護が未来をつくる~」をテーマにホテルニューオータニ鳥取(鳥取市)にて開催され,台風 8号の影響が心配されたが,全国各地より262名の参加があり盛大に行われた。
 開講式では,日精協鳥取県支部長の渡辺憲先生が開会の挨拶をされ,山崎學会長の学会長挨拶のあと,来賓として,松田佐惠子鳥取県福祉保健部長,渡辺憲鳥取県医師会副会長が祝辞を述べられた。

 1日目の最初の講演1は,「精神科医療の将来展望」と題して山崎學会長が 講演された。はじめに,精神保健福祉行政の歩みと精神保健福祉の動向について,豊富な資料をもとに歴史的な経緯を含め詳しく説明され,次に認知症について 話され,介護の将来像(地域包括ケアシステム)や今後の認知症施策の方向性を説明された。最後に精神科医療の将来像について述べられ,今後の少子高齢化, 雇用環境の変化,経済成長の停滞,家族のあり方の変容をふまえ,医療・介護の提供体制が大きく変化するため,1,205会員病院がそれぞれの地域特性を考 えて経営戦略を立てる必要があると強調された。
  講演2は,「子どもの発達障害,おとなの発達障害」と題して,松田病院(広島県)理事長・院長の松田文雄先生が講演された。最初に発達障害の概念や発達障 害者支援法について話され,成人期の発達障害を理解するためには幼少時期における発達特性を理解し,養育環境や学校生活・社会生活の影響を考える必要があ ると説明された。次に,広汎性発達障害(自閉スペクトラム症)について,歴史,症状や徴候,具体的な対応を詳しく説明され,新しく発刊されたDSM‐5の 診断基準にも言及された。また注意欠如・多動性障害(注意欠如・多動症)についても,DSM‐5の考え方を含め,症状,鑑別診断,薬物療法,環境調整など を詳しく説明された。最後に発達障害と発達の特性を理解し関わることの重要性について話され,講演を終わられた。
 ランチョンセミナーは,「精神科領域における身体合併症看護 ~Metsのリスクとモニタリングの重要性~」のテーマで,齋藤病院理事・看護部長の片平真悟先生の講演が行われた。

 午後は,米子病院看護部長・祖田富美子先生が座長をされ,「倫理的視点 から日々の精神科看護実践を考える」をテーマとして,最初にシンポジウムが行われた。まず,鳥取大学医学部保健学科講師・高間さとみ先生が「看護教育にお ける倫理的感性への感受性」と題して,権利と安全のバランスの大切さなどについて話された。次に養和病院看護係長・浜田暁先生が,「暴力と向き合うための 看護師の倫理観」と題して,患者様から暴力を振るわれ陰性感情を抱いてしまったことをどう克服したかなど,ご自分の体験をふまえて話された。三席目は渡辺 病院副主任看護師・押本道朗先生が「日常の看護の倫理的問題を考える」と題して,倫理的問題として患者や第三者の声を聴くことや,臨床における倫理的問題 について事例を挙げて説明されていた。最後は米子病院副看護師長・小松原美由紀先生の「胃瘻に対する家族の思いをどう支えていくか~看護師の役割を考え る」と題しての発表で,経管栄養・胃瘻の看護と家族への対応について話された。4名の発表後の討論では,フロアからさまざまな質問や意見が出て,活発な議 論がなされた。
 講演3では,ハーブ研究家にし て英会話学校経営者でもあるベニシア・スタンリー・スミス先生の講演がもたれた。「毎日を美しく生きる~楽しく人生の踏み石を渡ろう~」と題して,充実し たご自分の半生をひもときながら,ストレスを溜めないスローライフ・自給自足生活を推奨され,聴衆各自の私的および職業生活の励みとなる示唆を与えられ た。
 研修会1日目の終了後,同ホテル「鳳凰の 間」において懇親会が催された。平井伸治鳥取県知事の歓迎挨拶から始まり,県支部長・渡辺憲先生ご自身によるチェロと渡辺病院職員・岡氏のピアノでイング ランド民謡などを協奏された。鳥取県の地元食材をふんだんに使った料理を堪能しつつ,郷土芸能として有名な,しゃんしゃん傘踊りと貝殻節歌唱を楽しみ,和 やかに初日の疲れをいやした。

 2日目の最初の講演4は,「精神科看護機能の転換 ~これからの精神科看 護の方向性について~」と題して,獨協医科大学看護学部精神看護学教授の天賀谷隆先生が講演された。まず,精神科医療の現状について話され,今後の入院患 者の構成が変化していくと指摘された。次に保護者制度の概要について述べられ,さらに今年4月の精神保健福祉法の改正,診療報酬の改定について,そのポイ ントを詳しく説明された。最後にこれからの精神科看護の方向性について話され,医療ニーズのある病棟への看護職員の再配置の問題や,訪問看護(アウトリー チ)の重要性について説明された。精神科看護師によるケアホームの設置についても触れられ,看護師は患者の病態の把握や治療効果の予測ができるため,看護 師の関与が患者の精神症状を安定させ,地域における日常生活を可能にすることができると話された。
  研修会最後の講演は,「社会適応支援に活かす認知行動療法~基本的な理論と発想~」の演題で,鳥取生協病院心療科臨床心理士・谷口敏淳先生が講演された。 臨床心理士としての業務内容・自分自身の活動内容の説明,地域連携を含めて社会適応支援に取り組んでいると話され,認知行動療法(CBT)の事例を挙げ, わかりやすく説明されていた。また,CBTは問題行動への対処として具体的かつ一貫性のある支援であること,CBTを安全に施行できるように,身近に理解 することが大切だと述べられた。

 閉講式では,修了証授与,感謝状贈呈等の諸手続きを済ませたのち県支部長が閉講を宣し,すべての日程を終了した。
 本研修会の運営に多大な労を執られた鳥取県支部会員病院の関係者各位に深く感謝申し上げるとともに,鳥取県支部の今後のご発展をお祈り申し上げる。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会)