EDUCATION 各種研修会

2014年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 事務部門

2014年7月24日(木),25日(金)
ホテルメトロポリタン高崎

平成26年度の日本精神科医学会学術教育研修会事務部門は,日精協群馬県 支部の担当で,「精神科医療の明日を展く」という研修テーマのもと,平成26年7月24日(木),25日(金)の2日間にわたりホテルメトロポリタン高崎 にて開催され,全国から228名の受講生が参加した。開講式では日精協群馬県支部長・武田滋利先生が開会の挨拶をされ,引き続いて日精協・山崎學会長が挨 拶をされた。来賓挨拶として群馬県知事や高崎市長よりお言葉をいただいた。

 第1日目の講演1は,『精神科医療の将来展望』と題して,公益社団法人日本精神科病院協会 会長・山崎學先生が講演された(座長:三枚橋病院 理事長・檀原暢先生)。
  精神保健福祉行政の歩みとして,ライシャワー事件,WHOクラーク勧告など,この50年の精神科医療の出来事や変化,今後の精神科病院に対する問題点,対 策など,スライドを提示されながら詳しく講演された。また,日精協のモデル事業として,外務省技能研修制度を用いたベトナム人の看護師資格取得への取り組 みについても紹介され,将来の精神科病院の人員確保に対する日精協の新たな取り組みについても説明された。
  講演2は,『平成26年度診療報酬改定の留意点』と題して,たなか病院副院長・松本善郎先生(座長:厩橋病院 院長・天谷太郎先生)が講演された。最初は 診療報酬と調剤報酬の妥結率についての説明,次に疑義解釈として通院精神療法,向精神薬の多剤投与の説明,日精協Q&Aでも示された精神科デイケ ア等,精神科医訪問看護指導料の留意点,疑義解釈で精神療養病棟入院料の施設基準についても詳しく説明をいただいた。その他多くの今年度の診療報酬改定項 目を,松本先生が監修された診療報酬改定ガイドやスライドを用いながら詳しく講演をいただいた。
  講演3は『これからの精神科医療~精神保健福祉法からみた今後の動向~』と題して,桜木病院理事長・院長の櫻木章司先生(座長:群馬病院 院長・濱田秀伯 先生)にご講演をいただいた。まずは精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律の概要を示し,精神科医療指針案,精神科医療の機能分化 と質の向上等に関する検討会での意見,精神障害者アウトリーチ推進事業の説明をされた。改正の主なポイントとして,保護者制度廃止,医療保護入院の要件の 見直し,市町村長同意の見直し,医療保護入院者の退院促進措置,精神科病院の管理者の責務,精神医療審査会の見直しなどをスライドをもとに説明され,日精 協の医療政策とした今後の長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策の方向性を示された。
  講演4は『成功する事業承継』と題して,有限責任監査法人トーマツの公認会計士・安井浩倫先生(座長:上毛病院 理事長・服部真弓先生)にご講演いただい た。出資持分ありの医療法人社団においては,払戻請求権と残余財産請求権の行使が可能で,払戻し時の時価による払戻しが認められているが,医療法人では剰 余金分配が禁止されているので純資産額が増加し,時価換算すると払戻額が多額になる傾向があり,医療法人経営を圧迫する状況に陥る可能性がある。対策とし て払戻額を,出資額を限度とするように定款変更をしても,払戻しをせずに済んだ金額が贈与とみなされ課税対象となることがあり,注意が必要である。出資持 分の対策として「持分なし」へ移行する場合,主に「社会医療法人」「特定医療法人」「持分なしの一般医療法人」を選択することになるが,それらのメリッ ト・デメリットについても例を挙げ,わかりやすく解説された。
 1日目の講演終了後は,同会場にて懇親会が催された。アトラクションとしてご当地アイドルの「あかぎ団」が出演し,元気よく群馬の見所の紹介やビンゴで盛り上げてくれた。

 2日目の最初は,講演5『最大の経営資源「人」の育て方』と題して, コーチ智玄代表・三好眞一先生(座長:中之条病院 院長・関谷務先生)にご講演いただいた。「人」を育てるとはどういうことかを考えるうえで,まず人が育 つ環境をつくることが大事で,その必要条件を知り,適切な環境をつくることが要となってくることをお話しされた。コーチングは,離職率,チーム医療,医療 安全,患者満足,従業員満足などいろいろなアプローチが可能で,「離職率」という切り口で見た場合,「離職率」の高い組織に共通するものとして,①忙しす ぎる(と感じる,と口にしている),②上司のイライラが波及(明るく振る舞うことがはばかられる),③モデルとする先輩がいない(キャリアアップが見えな い),といったことが挙げられ,コーチングを導入し,いかに気づきを得るか,組織にとって最も大事な人材育成について,非常に示唆に富む講演であった。
  講演6は『精神科病院の「3年先の戦略」と「今できる改善」』と題して,(株)日本経営 次長・江畑直樹先生,主任・太田祐樹先生(座長:西毛病院 理事 長・院長 武田滋利先生)にご講演いただいた。精神科病院に求められる変化を,まずは政策的な変化と地域的な変化の2つの視点から分析し,それをもとに今 から取り組むべき改善活動として,①病床規模の検討,②地域連携活動の推進,③徹底したコスト管理,という切り口で具体的に示された。今後の経営戦略のパ ターンを「病院のダウンサイジングを行う場合」と「病院の規模を維持する場合」に分け,「病院の規模を維持する場合」をさらに,①新規患者の確保が見込め る病院,②新規患者の確保が見込みにくい病院,③財務体質が不安定であることから病院規模を維持しなければならない病院に分けて解説され,今後どのような ことを意識して取り組んでいくべきかなど,現実的で,ある意味生々しいが非常に示唆に富む内容の講演であった。

 すべての講演が終了後,同会場にて閉講式がとり行われた。
  日本精神科病院協会会長(学術研修分科会構成員 安藤代理)より代表者に受講証の授与を行ったあと,開催支部である群馬県支部に対して感謝状を贈呈した。 本部より山崎会長代理で学術研修分科会構成員 平安が挨拶を行い,最後に群馬県支部長の武田滋利先生が閉講の挨拶を行い,予定の日程を終了した。
 これからの精神科病院の方向性を考えていくうえで示唆に富む講演が盛りだくさんで,非常に有意義な研修会であった。改めて群馬県支部の皆様に感謝を申し上げます。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会)