EDUCATION 各種研修会

2013年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 PSW部門

2013年10月17日(木)~18日(金)
ウェスティン都ホテル京都(京都市)

平成25年度日本精神科医学会学術教育研修会PSW部門は、平成25年 10月17日(木)、18日(金)の2日間、日精協京都府支部の担当により、ウェスティン都ホテル京都(京都市)にて開催された。「PSWの専門性と特殊 性~当事者の自己実現を目指すソーシャルワーク実践~」としたテーマのもと、全国から230名の参加を得て盛大に行われた。

 開講式では、日精協京都府支部長・南部知幸先生の開会の挨拶に引き続き、日精協・山崎學会長が挨拶をされた。
  第1日目の会長講演では、「我々の描く精神医療の将来ビジョン」と題して山崎學会長(座長:日精協京都府支部長・南部知幸先生)が講演された。はじめに、 「精神保健福祉行政の歩み」と「精神福祉の動向」について詳しく説明された。さらに、その中から浮かび上がる今後の課題や、平成26年度より一部改正され る精神保健及び精神障害者福祉に関する法律や、医療法等の改正案の全体像についても述べられた。さらに「認知症」「精神科医療の将来像」「日精協の描く精 神医療の将来ビジョン」と多岐にわたる内容を語られ、とくに日精協が将来ビジョンを策定する意義について話され、平成26年度の診療報酬改定に向けて、日 精協からの要望を説明し、また海外に日本の精神医療に関する正しい情報を伝えることが必要であると強調された。

 ランチョンセミナーでは、「薬物依存の動向と治療について」と題して京 都府立洛南病院 副院長・川畑俊貴先生(座長:宇治おうばく病院 理事長・院長・三木秀樹先生)より、昨今増加している脱法ドラッグ患者の増加について話 をされた。脱法ドラッグ患者の意識や実態、脱法ドラッグの有害性や使用者の傾向が述べられ、これまでの薬物依存(とくに覚せい剤)によるものとの違いを詳 細に説明された。今後、精神障害として増加する傾向にあるであろうとの見解と、脱法ドラッグ患者への対応方法についてポイントを指摘していただいた。

 午後の講演Ⅰでは、「統合失調症における回復とPSWの役割~当事者研究 の実践・経験から~」と題して、北海道医療大学看護福祉学部 教授・向谷地生良先生(座長:川越病院 精神保健福祉士・西村睦美先生)が講演された。向谷 地先生が当事者と現実を共有しながら生きる方法を模索されてきた「当事者研究」の紹介をもとに、ソーシャルワーカーとしての相談援助にどのように活かすか について述べられた。『浦河べてるの家』での当事者間で自身を理解してもらう様子が説明され、互いに理解することで互いに助け合い、日常生活の中で私たち 「生活者」の「仲間」になってくれることが治療の目指すものとして紹介された。また、ワーカーとクライエントの関係性にも触れられ、援助関係、とくに支援 者の態度がクライエントの成長を促すという視点を述べられ、傾聴だけではなく、対話という姿勢の大切さを語られた。

 講演Ⅱでは、「うつ病治療におけるPSWの役割」と題して、不知火病院  リハビリテーションセンター センター長・前田沙織先生(座長:阪南病院 リハビリテーション部 部長・平則男先生)が講演された。昨今の気分障害者数 の推移や、うつ病有病率やうつ病の病態の変化等について、詳細な統計をもとに説明された。インテーク面接でのポイントが述べられ、クライエントが生きてい くための支援をするために、社会背景や環境からクライエントの置かれている立場を理解する必要性が述べられた。その後、不知火病院におけるPSWの取り組 みが紹介され、ストレスケア病棟での取り組みとして、基本的なチーム医療体制と、クリニカルパスを用いながらもさまざまなニーズに合った体制づくりを心が けていることが理解できた。その中でのPSWの役割は多岐にわたっていたが、情報の集約やマネジメントや連携が重要な役割として語られ、そのためにはさま ざまなニーズに応え、変化に柔軟に対応できるスキルが求められるとまとめられていた。

 講演Ⅲでは、「認知症の生活支援とPSWの役割」と題して、特別養護老人 ホーム・サンライフたきの里 施設長・岩尾貢先生(座長:いわくら病院 精神保健福祉士・保田美幸先生)が講演された。まず、認知症の理解について 「BPSD」「徘徊」「問題行動」等の言葉に関して、わかった気になっていないかという問いかけから始まり、先生の実践から、認知症の支援は食事・排泄・ 入浴のケアだけでなく生活支援をしていくことが大切で、そのためには了解可能な人であると捉えること、関わりの質やかけた時間を大切にすること、その人が できてしたくなることに注目すること等が必要だと話された。また、PSWとして当事者と関わるなかで、さまざまなことに関心をもち、資源を活用し、チャレ ンジをし続け、当事者との協働を考えながら生活支援をしてもらいたいと締めくくられた。

 第1日目の最後は、向谷地先生、前田先生、岩尾先生の3人の講師を囲ん での自由討論が行われた。各会場で事前に回収された質問用紙をもとに進行され、それぞれの講演に基づいた議題や実務レベルでの悩みなどさまざまな問題がと り上げられ、各先生方からアドバイスをいただいた。

 研修会終了後には懇親会が行われ、アトラクションで地元京都の舞妓の演舞や京都のクイズなどで盛り上がり、京都の味を楽しみながら親睦を深めることができた。

 第2日目の講演Ⅳでは「精神保健福祉法の改正とPSWの役割」と題し て、NPO法人じりつ 代表理事・岩上洋一先生(座長:もみじヶ丘病院 精神保健福祉士・大槻秀憲先生)が講演された。障害者福祉施策のこれまでの経緯と 障害者総合支援法の施行に関わる主な検討課題について、厚生労働省の資料を中心に説明された。その後、精神保健医療福祉の変遷から改革ビジョンの移り変わ りに触れ、平成26年度に一部改正される精神保健及び精神障害者福祉に関する法律について説明された。その中でも、改正に伴い、とくにPSWの対応が想定 される事項を挙げられ、現状で想定される入院から退院までの流れを述べられた。本人中心の地域生活支援を見すえて、PSWとして資質向上に努めなければな らないと述べられた。

 最後のプログラムとして「京都における多様な地域移行支援のあり方につ いて」をテーマにシンポジウムが行われた。シンポジストとして宇治おうばく病院 精神保健福祉士・田中諭子先生、一般財団法人長岡記念財団 自立訓練事業 所アスロード 精神保健福祉士・西垣侑里子先生、ワークショップほのぼの屋(障害者地域生活支援センター ほのぼの屋)施設長・西澤心先生、アドバイザー を岩上洋一先生(座長:龍谷大学社会学部地域福祉学科 教授・荒田寛先生)として行われた。田中先生からは病院内で構成されているアウトリーチチーム「ゆ るり」の活動、西垣先生からは地域移行におけるアスロードの役割、西澤先生からは「ほのぼの屋」の活動について、各シンポジストから日々の活動内容や取り 組み、事例が紹介され、その後テーマに沿った意見交換がされた。地域で暮らしを支える力としてのネットワークの必要性や、暮らしだけを支えるのではなく、 生きざまを含めた視点が語られた。また、本人を中心とした支援とは、多岐にわたる支援者がそれぞれ当事者について連携し、共有をしていることであるとの意 見が挙がった。

 講演終了後、直ちに閉講式が行われた。日精協から受講者代表への受講証書授与に引き続き、日精協京都府支部へ感謝状が贈呈された。続いて、日精協京都府支部副支部長・福居義久先生が閉講の挨拶をされ、2日間の全日程を無事終了した。

 おわりに、本研修会の企画、運営に当たられた南部知幸京都府支部長ならびに京都府支部の諸先生方、およびスタッフの皆様方のお心配り、ご努力に深く感謝申し上げるとともに、京都府支部の今後のご発展をお祈り申し上げる。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会 / 安藤 琢弥  西紋 孝一)