EDUCATION 各種研修会

2013年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 薬剤師部門

平成25年9月19日(木)・20日(金)
ホテルクレメント徳島(徳島市)

平成25年度の日本精神科医学会学術教育研修会薬剤師部門は、9月19日、20日の両日にわたり、「こころの健康を守る医療人をめざして」をテーマにホテルクレメント徳島(徳島市)にて開催され、全国各地より170名の参加があり盛大に行われた。


 開講式では、徳島県支部長・櫻木章司先生が開講の挨拶をされ、日精協・山崎學会長の会長挨拶のあと、来賓として、飯泉嘉門徳島県知事、川島周徳島県医師会会長、水口和生徳島県病院薬剤師会会長が祝辞を述べられた。


  1日目の特別講演は、「我々の描く精神科医療の将来ビジョン」と題して山崎學会長が講演された。はじめに、精神保健福祉行政の歩みと精神保健福祉の動向に ついて、豊富な資料をもとに歴史的な経緯を含め詳しく説明され、次に精神障害者の地域移行について話され、障害者制度改革や新たな地域精神保健医療福祉体 制の構築、精神保健福祉法の改正等を説明された。また、認知症、自死対策についても触れられ、最後に、精神科医療の将来像および日精協の描く精神医療の将 来ビジョンを説明され、社会の受け皿づくりが先で病床削減は後であるというチェックアンドバランスの重要性を指摘され、精神科医療の改革には財源問題の解 決が必須であると強調された。


  ランチョンセミナーは、「アルツハイマー型認知症の薬物療法」(講師:徳島大学病院神経内科臨床 教授・和泉唯信先生)、「身体合併症から考えた薬剤選 択」(講師:医療法人新生会いしい記念病院内科・長嶺敬彦先生)、「双極性障害の最近の話題」(講師:徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部精神医 学分野 講師・伊賀淳一先生)の3つの会場に分かれて行われた。


  午後の最初は、「精神科地域医療における薬剤師業務と新しい薬剤師像の提示」と題して瀬野川病院薬剤課の桑原秀徳先生の講演が行われた。はじめに、現在薬 剤師が行っている調剤や医薬品情報の提供業務は、今後のIT技術の進化によりコンピュータに取って代わられると予測されるため、将来精神科薬剤師にとって 危機的な状況になると問題提起された。次に、瀬野川病院で行われている地域で生活する精神障害者に対する多職種で連携しながらの訪問薬剤管理指導について 説明され、一人一人に合わせたケアこそが何物にも代え難いオンリーワンの付加価値を生み、変化に対応できる薬剤師業務になるのではないかと指摘された。最 後に、新しい世代の薬剤師はITをうまく使いこなし、情報発信するとともに、ITでは代替できない地域医療における薬剤師業務に進出することが重要である と締めくくられ、臨床の現場で働く薬剤師の方々には実践的で大変参考になる内容であった。


  講演Ⅲは、「災害医療とユーザーメイド~ひとつなぎの秘宝~」と題して、ゆうあいホスピタル薬剤科長の木村敦先生が講演された。まず、3年前の東日本大震 災の津波で薬剤を流された被災者が、服用薬剤をうまく伝えることができず、薬剤の識別が困難なケースが多くみられたことから、薬剤識別業務の重要性を述べ られ、次に先生が考案された市販のアプリケーションソフトを用いた薬剤識別システムについて話された。これは色や形の薬剤情報に基づく検索を可能にするシ ステムであり、災害時だけでなく通常の持参薬管理等にも応用でき、ITを使った業務の効率化が図れる優れたシステムであった。また、SNS(ソーシャル ネットワーキングサービス)を用いて情報の収集、発信がスムーズにできるように発展してきており、災害時に有効なツールになると強調された。桑原・木村両 先生の講演中もSNSを使って出席者がツイッターで意見を投稿できるシステムを使用され、非常に斬新な内容の講演であった。


  初日最後の講演Ⅳは、地元徳島市でひろこ漢方内科クリニックをご開業の高橋浩子先生により、「浪花節だよ人生は~気のめぐりをよくする漢方薬~」と題し て、初学者向けに漢方薬処方の基本的な考え方を説明していただいた。足りないものは補い、余分なものは出す。巡るべきものは巡らせる-から始められた。 「気」が滞った状態に用いられる、香蘇散・半夏厚朴湯・抑肝散・加味逍遥散などを例に挙げて、「構成生薬から個々の方剤の性質を想像するとわかりやすい。 東洋医学的な診察法である脈診・舌診・腹診も大事だが、それにとらわれすぎず、西洋医学と漢方の長所短所を理解すべきである」とまとめられた。


 懇親会は徳島県産食材をふんだんに使ったバイキング形式だった。アトラクションはセミプロの踊り手とお囃子からなる「娯茶平連」による阿波踊りで、会食者も参加して会場内を踊り歩き、大いに盛り上がった。次回開催地の岩手県からの挨拶のあと、なごやかに散会した。


  2日目の講演Ⅴは、徳島市内で城西ビオスクリニックをご開業の植村桂次先生より、「認知症の医学的理解~基本的知識とケアを中心として~」と題して、認知 症の定義から始まり、疫学・患者の暮らす場所など現状認識、老化によるもの忘れとの違い・病型分類・(中核/周辺)症状・中核症状とBPSDに対する薬物 療法・鑑別診断・家族や介護者の対応方針などについて、ご自身の具体的な臨床経験を交え、わかりやすく説明していただいた。とかく等閑視されがちな、患者 の主観的精神世界(その悲しみや恐怖、困惑など)について共感的な洞察が重要だとくり返されていたのが印象的だった。


  最後の講演は、徳島大学病院・病院情報センター 副部長の島井健一郎先生による「医療におけるナレッジマネージメント~データ・情報・知識の管理・活 用~」だった。まずナレッジマネージメントの定義、構成素材について話された。そしてそれを実現する場合に、そのフレームワークとして SEC(Socialization-Externalization-Combination-Internalization)モデルについてご説明 された。さらに各論として、医療における電子化・情報化の実際、EA(Enterprise Architecture)、SOA(Service-Oriented Architecture)など、重要ないくつかの概念についてのご説明があった。


 閉講式では、代表者1名に受講証を授与し、学会長挨拶(代読)、徳島県支部長・櫻木章司先生の閉講挨拶にて全日程を無事終了した。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会/稲野 秀  棚橋 裕)