EDUCATION 各種研修会

2011年度
日本精神科医学会学術教育研修会報告 看護部門

2011年11月24日(木)~25日(金)
東京ベイ幕張ホール(千葉市)
日本精神科病院協会学術教育研修会看護部門は、平成23年11月24日(木)、25日(金)の2日間にわたって千葉市の東京ベイ幕張ホールにて開催された。各地より330名の参加者があった。

 
開講式では、日本精神科病院協会千葉県支部長・木村章先生が開講および歓迎の挨拶をされ、日本精神科病院協会会長・山崎學先生の会長挨拶の後、来賓として千葉県健康福祉部長・井上肇様が祝辞を述べられた。
 
第1日目の講演Ⅰは、千葉県支部長・木村章先生の座長で山崎學会長による「精神科医療の将来の展望」と題して講演された。最新の精神保健福祉のデータ分析 に基づき多岐にわたる話題提供・問題提起があった。また、精神医療改革について動き出していること、自殺対策、高齢化社会における社会保障などについても ふれられ、いま、私たちに期待されていることや抱えている問題点について、その方向性が示された。受講者からも質問があり、第1席目から今回の研修におけ る熱意が伝わってきた。
 
講演Ⅱは、近大姫路大学看護学部看護学科准教授・村瀬智子先生の座長で千葉大学大学院看護学研究科教授・岩崎弥生先生による「日本および世界の精神科医 療・看護」と題して講演が行われた。諸外国における精神科医療について紹介があり、地域が担う役割の重要性を話された。一方で脱施設化による問題点も指摘 された。そのなかで「リカバリー」の概念・定義・評価と進め方について、その手法としてイギリスでのタイダルモデルをわかりやすく説明された。
 
ランチョンセミナーは、千葉大学教授・伊豫雅臣先生による「新しい抗うつ薬と抗精神病薬の特徴と使い方」、下総精神医療センター医療観察法病棟・山本欣司 看護師長による「医療観察法における看護」、ひだクリニック・木村尚美副院長による「夢や希望に沿った精神科看護の展開」、訪問看護ステーション旭こころ とくらしのケアーセンター・齋藤クニヨ施設長による「精神科訪問看護のアウトリーチサービスと課題の検討」の四座が行われ、どのセミナーも盛況であった。
 
午後のシンポジウムに先立って「つなごう未来へ 精神科看護の魅力-心・技・仲間-」のコンセプトについて座長の村瀬智子先生より説明があり、東海大学健 康科学部看護学科准教授・天賀谷隆先生、浅井病院看護師長・千葉章弘様、旭中央病院精神科外来師長・安藤京子様、木更津病院看護師長・三宅薫様の4名をシ ンポジストとしてシンポジウムが行われた。それぞれの分野における取り組みと成果・直面化している問題点が紹介され、活発な討議が行われた。
 
第1日目の最後の講演Ⅲでは佐々木病院理事長・佐々木一先生の座長で日本精神科病院協会名誉会長・仙波恒雄先生による「地域精神医療-銚子地区でのこころ み-」と題して講演が行われた。銚子市立病院が閉鎖されたのち、市内での精神医療の維持に奔走し銚子こころのクリニックを開院するまでのドキュメントを紹 介された。数々の困難な状況を1人の精神科医としての情熱と希望とで乗り越えたエピソードについて、ユーモアを交えて話された。
 
夕刻より同会場にて盛大に懇親会が催された。本研修会の開催に尽力をいただいた日精協千葉県支部の先生方の細やかな気配りにより、すべての参加者が心地よい時間を過ごすことができた。
 
第2日目の講演Ⅳは、千葉大学大学院看護学研究科助教・小宮浩美先生の座長で「病院と地域をつなぐ看護-アウトリーチチームにおける看護の役割-」と題し て、聖路加看護大学教授・萱間真美先生が講演をされた。平成23年7月に厚生労働省は、都道府県が作成する地域保健医療計画で「がん、糖尿病、心疾患、脳 血管疾患」の4大疾病に精神疾患を加えて5大疾病とした。そのなかでも精神疾患の患者数は年々増加傾向にある。アウトリーチによるケアとは、支援を必要と するところへ「出かけていく」ことから始まり、在宅の精神疾患患者の生活を医療を含む多職種チームが訪問で支えることである。精神科医療機関、訪問看護ス テーションにおける精神科訪問看護の実施割合は増加しており、現在精神科病院の8割、訪問看護ステーションの約半数が実施している。精神科訪問看護の効果 は大きく、訪問看護開始前後2年間の精神科総入院日数は279.3日から73.9日へと1/4近くに減少したとのことである。
 
アウトリーチの実施に当たっては、支援者側の一方的な計画によって行うのではなく、対象者や家族等との間において信頼関係を構築していくことが大切である。また、実際の支援事例(未治療型、治療中断型)を示しながらアウトリーチケアの技術について説明された。
 
最後に、アウトリーチチームの看護の役割として、看護および他職種の専門性、強みを知り、相互の立場を尊重することが大切であり、アウトリーチケアは、社会からも注目され、期待されている活動であるとまとめられた。
 
続いて、最後の講演Ⅴは、総武病院参与・小林美治先生の座長で本研修会のメインテーマでもある「精神科看護の魅力」と題して、特例社団法人日本精神科看護 技術協会会長・末安民生先生が講演された。先生は、日精看会長として、3月11日に発生した東日本大震災に対して、被災施設、会員の現地調査、被災会員の 支援のための募金、会員施設向け支援物質の募集と直接配送、宮城県の病院への看護ボランティアの派遣、福島県いわき市のこころのケアチームと連携して看護 ボランティアの派遣等を指示・調整された。また、300名を超える会員の方々が、被災地の支援に行かれているようである。今回の震災で一般の多くのボラン ティアが全国から駆けつけ、被災者の支援をしようという想いは、被災者への同情心と多くのものを失った被災者の痛みへの共同感覚からくるもので、この感覚 が重要である。この感覚を紡ぎ合わせれば、被災者の痛んだこころを包むネットを作り上げることができ、精神科看護の知恵と工夫をいかすことができると考え られていると述べられた。また、今回の震災を通じて、現場でさまざまな形で活動・活躍をされている精神科看護師について紹介され、精神科看護の魅力につい て話をされた。
 
講演終了後、ただちに閉講式が行われた。日精協より受講者代表への受講証書授与、千葉県支部へ感謝状が読み上げられた。最後に日精協千葉県支部長・木村章先生より閉講の挨拶があり、2日間の全日程が終了した。
 
本研修会の報告を終えるに当たり、木村章支部長を始め企画運営された千葉県支部会員病院の先生方および関係者の方々に対し、深く感謝申し上げるとともに、千葉県支部の今後の発展をお祈り申し上げる。

(学術教育推進機構 学術研修委員会 / 青木 治亮、西紋 孝一)