2018年度 日本精神科医学会学術教育研修会報告 栄養士部門

期日/2018年10月25日(木)~26日(金)
会場/ホテルアウィーナ大阪(大阪府)

 平成30年度日本精神科医学会学術教育研修会栄養士部門は、平成30年10月25日(木)、26日(金)の両日にわたり、日精協大阪府支部のご担当により、ホテルアウィーナ大阪で開催された。「絶対させへん寝たきりに!!~健康寿命をのばすために栄養士ができること~」としたテーマのもと、ワークショップも取り入れ、全国から182名の参加者を得て開催された。

 開講式では、日精協大阪府支部長の本多義治先生が開講の挨拶をされ、続いて日本精神科医学会学会長の山崎學先生が挨拶をされた。来賓として、大阪府健康医療部長・藤井睦子様より祝辞を頂戴した。

 1日目の特別講演では、「精神科医療の将来展望」と題して、日精協・山崎學会長が講演をされた。最初に、精神保健福祉行政の歩みについて、行政関連の歴史、公費政策等の変遷を詳細に説明された。精神保健福祉の動向では、最新のデータをグラフ化し、精神疾患を有する外来患者の70%が内科で治療されている問題等を話された。認知症については、介護施設の身体的拘束件数の問題や、精神科医療が初期・軽症から関わることが望ましいこと等を説明された。精神科医療の将来像としては、介護医療院と既存病床の比較、精神科のみが退院患者の地域移行の見込みを取り上げられている問題等を説明され、選択と対策の必要性を話された。最後に精神障害者の雇用率が低く、国に是正を求めることを話されて講演を終えられた。
 ワークショップ1では「寝たきり予防のための栄養・給食管理」という演題で、社会福祉法人北斗会法人事務局 榎本ゆり子先生による講演が行われた。給食管理において、患者様、看護師の要望に時間、人的不足が原因で応えることができないことが多いなか、患者の身体機能の維持・改善に役立つ効果的な栄養管理を行うには、1.おいしく、2.安心安全で、3.患者ニーズに応じた食事を提供し、4.付加価値の高い食事の提案をしていくことが大切であると冒頭で話され、そのために、検食の重要性、精神科入院患者の高齢化に対しての嚥下調整食の導入への工夫、衛生教育の実施、食物アレルギーへの配慮の必要性を語られた。また、高付加価値な食事の提供が便秘対策、腸内細菌叢改善、低栄養の改善に役立ち、倫理委員会を通して効果を見ることから始めるとよいと話された。そして、勤務日には病棟に入るようにして、栄養士に必要なコミュニケーション能力を高めてほしいと締めくくられた。
 ワークショップ2では「便秘対策の取り組み~麻痺性イレウスの予防」という演題で、小阪病院診療部栄養管理課 堀田あゆみ先生による講演が行われた。精神科患者に多い弛緩性便秘、麻痺性イレウスの原因として、向精神薬の副作用・腸管運動の低下・下剤の乱用を挙げられ、刺激性便秘薬の投与を減らし、整腸剤、オリゴ糖の使用を推奨された。そして食事に関しては、プロバイオティクスの働きを助けるプレバイオティクスを組み合わせることの有用性を述べられた。また、大阪精神科病院協会での取り組みとして、乳化オリゴ糖による便秘改善のアルゴリズム作成・統合失調症患者の便秘に対するプロバイオティクスの有用性の統計結果を紹介された。
 ワークショップ3では「過栄養対策─外来患者を中心に─」という演題で梅花女子大学食文化学部管理栄養学科 井戸由美子先生による講演が行われた。統合失調症患者の平均寿命は一般人に比べ10~15年短く、若年患者においては肥満やメタボリック症候群が問題であるが、中高年になるにつれて低栄養や低体重にともなう健康寿命の低下が大きな問題になっていると提起された。体重増加の原因にはさまざまな症状、環境因子等が複雑に絡み合っており、その改善に栄養指導の有効性を紹介された。さらに、精神科のNSTについても説明を行われた。セルフモニタリング手帳の利用やメタラボサイトの利用によりカロリー計算して食事メニューを再検討すること等がMETs改善に効果的であったと話され、「身体的なケアを通して精神症状の改善や安定した生活を寄与するのに何ができるか考える」ことが重要と締めくくられた。
 ワークショップ4では「食形態における情報共有の取り組み」と題して、蓑面神経サナトリウム地域医療連携室 安田章子先生による講演が行われた。精神疾患患者の食行動に対して、安全な食事の提供が求められていると話され、施設により同じ名称でも異なる食事形態である現状を指摘され、誰もが同じ認識を持つ尺度が必要と述べられた。そのため、大阪精神科病院協会栄養士部会では、食形態の情報共有の取り組みとして2012年に食事形態一覧表をまとめたと話された。次に嚥下調整食の導入についてふれられ、ミキサー固形食の導入により、発熱、抗生剤の使用の低下などさまざまな効果が認められたことを説明された。以上の取り組みにより得られたこととして、スタッフ間の共通認識・共通理解、自院の食形態の見直し、病院間の情報共有の標準化を挙げられた。
 1日目の研修会終了後、同会場にて懇親会が開催された。大阪ならではの話芸を交えたマジックを楽しみ、天下の台所と呼ばれる食文化の発信地である大阪の味をいただきながら、笑顔の絶えないひとときを過ごし盛会のうちに終了した。

 2日目の最初の講演は、「精神科領域における在宅生活QOLの向上に向けて─リエゾン管理栄養士の役割─」と題して、武庫川女子大学生活環境学部教授 前田佳予子先生が講演された。医療・介護においては、患者ニーズに応じた病院・病床機能の役割分担やより効果的・効率的なサービス提供には、連携強化が大事であるとされた。また、高齢者のみの世帯が増えている現状で在宅生活の鍵となるのは栄養・食事であるとされ、在宅訪問栄養食事指導の効果と内容・プロセス・実施方法・症例を提示して、咀嚼力の維持の大切さをマスティノートで紹介し、リエゾン管理栄養士の役割を示された。
 本研修最後の講演では、「多職種連携で取り組む精神疾患患者の身体リスクケア」と題して、新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野教授 染矢俊幸先生が講演された。精神科薬物療法の歴史をわかりやすく説明された後、統合失調症の外来患者に身体管理、栄養管理が有効なこと、高齢者の咀嚼・嚥下機能の維持等に歯科医との連携が必要なこと等を示された。
 閉講式では、日本精神科医学会から受講証書の授与がなされ、日精協大阪府支部へ感謝状が贈呈された。続いて、学術研修分科会構成員の閉会の挨拶のあと、日精協大阪府副支部長 山本幸良先生が閉講の挨拶をされ、2日間の全日程を終了した。
 おわりに、本多義治支部長をはじめ本研修会の企画・運営に当たられた大阪府支部の諸先生方、およびスタッフの皆様、関係者の方々に深く感謝を申し上げるとともに、大阪府支部の今後のご発展をお祈り申し上げたい。

(日本精神科医学会学術教育推進制度学術研修分科会/飯島 徳哲 青野 将知)

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