2017年度 日本精神科医学会学術教育研修会報告 栄養士部門

期日/2017年6月29日(木)~30日(金)
会場/神宮会館(三重県伊勢市)

 平成29年度の日本精神科医学会学術教育研修会 栄養士部門は、平成29年6月29日(木)、30日(金)の両日にわたり、三重県伊勢市の神宮会館で開催された。「精神科医療における栄養管理」~人に寄り添う精神科栄養士をめざして~というテーマの下、伊勢神宮内宮まで徒歩5分の会場に、全国から181名の参加者があった。
 開講式では、日精協三重県支部長の齋藤純一先生の開講挨拶と日本精神科医学会学会長の山崎學先生の学会長挨拶のあと、来賓として鈴木英敬三重県知事、鈴木健一伊勢市長、青木重孝三重県医師会長の挨拶があった。

 第1日目の講演1では、「精神科医療の将来展望」の演題で、山崎學日精協会長(座長・齋藤純一先生/三重県支部長)が講演された。講演前半は「精神保健福祉行政の歩み」のテーマで、明治初めからの精神科医療の歴史、内外の精神保健福祉に関する政策および具体的な法律の変遷などについてわかりやすく説明され、歴史的展望からクラーク勧告後の政策のあり方や医療観察法などについて意見を述べられた。講演後半では「精神保健福祉の動向(データ編)」のテーマで、数々の最新データのスライドにより、精神疾患総患者数の増加と入院患者数の減少(日精協会員病院の全病床中1割が空床)、平均在院日数の推移と国際比較(同じ基準で比較した場合、日本とOECDで大きな差はない)、高齢者人口および要介護度別認定者数の増加、社会保障給付費の急激な増加と財源への懸念などについて詳しく説明された。最後に、病床のダウンサイジングなどの精神科医療の課題についてまとめられた。
 講演2では国立精神・神経医療研究センター神経研究所の功刀浩先生が「統合失調症や躁うつ病に対する栄養学的アプローチ」(座長・棚橋裕先生/久居病院)と題して講演された。精神疾患の治療には「食生活などの生活習慣改善」も取り入れることが重要と認識されるようになっており、うつ病や認知症において、総カロリー、メタボリックシンドロームとの関連やn-3系脂肪酸不足、ビタミン、ミネラルの不足などが言われているが、統合失調症においても食事や運動など生活習慣との関連が非常に重要であることがわかってきたことなどを話された。最後に緑茶に含まれるテアニンの脳機能への効果として、リラックス効果や睡眠改善効果、さらに統合失調症において症状軽減作用もあることなどを教えていただいた。
 講演3では、「精神障がい者の食と看護職のかかわり」(座長・竹内恵美子先生/上野病院)と題して、四日市看護医療大学教授・萩典子先生が講演された。萩先生は看護師と看護実習指導者などの経験をもとに看護の視点から話された。患者・看護師の基本的信頼関係が精神科ではとくに必要であることを指摘され、長期入院になりがちな精神科入院患者への食事にはいろいろな観点からの工夫がいることを示された。さらに精神症状および薬物の影響への考慮について、事例を交えて話された。精神科入院患者にとって、食事は安心と安全、楽しみ、生きている実感を与え、生きる力を引き出すものであり、看護部は遠くから、あるいは近くから声かけし、食事介助をしていく必要があると述べられた。最後に「栄養士の提供している食事が身体だけでなく心の栄養にもなっている」と述べ、参加者を激励された。
 第1日目の最後は、松阪厚生病院 副院長の川口茂先生、同院管理栄養士の水井文子先生を座長に「精神科医療における栄養管理」とのテーマでシンポジウムが行われた。最初に川本ほづみ先生(松阪厚生病院 医師)が、精神科の日常診療において患者の体重管理・栄養管理がしばしば問題となるが、外来での栄養指導が必要と話された。次に山口知代先生(上野病院 看護師)から、栄養管理における看護の目標として「自然治癒力を高める」ことが大切であること等を述べられた。次に伊藤直美先生(総合心療センターひなが 薬剤師)が、食事・栄養面から気をつける必要のある誤嚥性肺炎やメタボリックシンドローム、薬剤と食事の相互作用等について述べられた。続いて下田淑子先生(熊野病院 管理栄養士)が、精神科では入院に伴う環境変化等で食行動に影響が出てくるので、栄養管理を行ううえで個別対応が必要であると指摘された。最後に小林丈志朗先生(総合心療センターひなが 管理栄養士)が、精神科における過栄養、低栄養対策として、管理栄養士が協働してリハビリプログラム「健やか習慣」を行っていると紹介された。シンポジストの発表後、全員に登壇していただき、フロアも交えて質疑応答が行われた。フロアからは途切れることなく積極的な質疑があり、あっという間に時間がきてしまった。全般的に見ると入院患者の方が外来にくらべてBMIが低い傾向があり、原因は明確ではないものの各病院で工夫していることなどが話し合われた。
 1日目の研修会終了後、同会場にて懇親会が行われた。伊勢神宮は「神嘗祭」に代表されるように、日本の食文化の中心と言っていい場所である。伊勢海老や鮑など食材の素晴らしさはもとより、アトラクションとして皇學館大学雅楽部の学生らによる雅楽が奏でられ、まさに伊勢ならではのおもてなしを堪能した。

 2日目の講演4は、「伊勢神宮と日本の食文化」と題して、伊勢神宮崇敬会奉賛課長の小針孝裕先生(座長・棚橋稔先生/久居病院 事務長)が講演された。小針先生は最初に皇大神宮(内宮)と豊受大神宮(外宮)の由緒についてお話しされ、続いて1年間の主な恒例祭、式年遷宮、神嘗祭などについて、日本の食文化の話を織り交ぜながら説明された。神話の世界になるが、穂が地上にもたらされたのがご飯のルーツであり、外宮では朝、夕二度の大御饌祭(天照大神にお食事を奉る神事)が現在まで1500年間途切れることなく続けられているとお話しされた。米は蒸す、赤飯は炊くなどの昔からの技法と、強飯、干飯などの保存食の話、魚、野菜、果物などを含め自給自足を守ってきたこと、唯一の調味料である塩の製法の話など、参加者には興味深いものであった。先生は「先人の知恵が現在まで引き継がれている」と締めくくられた。
 講演5は「認知症の診断と治療〜診療の現場から〜」と題して小山田温泉記念病院 神経内科部長の森恵子先生(座長・藤田康平先生/総合心療センターひなが 理事長・院長)が講演された。認知症患者数は2025年には700万人に達すると予想されており、アルツハイマー型認知症など代表的な認知症の特徴的な症状を示され、各々の違いを知ることで対応が変わるため、タイプ別に診断することが大事であると話された。また、早期発見し機能をできるだけ長く保つこと、認知症予防のため、糖尿病・高血圧症などの生活習慣病を予防すること、人との積極的な関わり、好奇心をもつことなどで積極的に予防し、健康寿命を延ばしていけるようにしていくことが大切であるとお話しされた。
 講演終了後に閉講式が行われ、日本精神科医学会から受講者代表への受講証書授与に引き続き、日精協三重県支部に感謝状が贈呈された。さらに学術研修分科会構成員が閉会の挨拶をし、最後に三重県支部・藤田康平先生が閉講の挨拶をされ、2日間の全日程を無事終了した。
 おわりに、本研修会の企画・運営に当たられた齋藤純一支部長ならびに三重県支部の諸先生方、およびスタッフの皆様方に深く感謝申し上げる。

(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会)

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