2017年度 日本精神科医学会学術教育研修会報告 看護部門

期日/2017年10月26日(木)~27日(金)
会場/ホテルメトロポリタン秋田(秋田県)

平成29年度日本精神科医学会学術教育研修会 看護部門が、平成29年10月26~27日、秋田県秋田市のホテルメトロポリタン秋田において、「精神科看護の今」としたテーマの下、約200名の全国からの参加者を迎えて開催された。

開講式では、日精協秋田県支部長・後藤時子先生の開会挨拶のあと、日本精神科医学会・山崎學学会長が挨拶をされた。引き続いて、秋田県健康福祉部次長・諸冨伸夫様と秋田県医師会・小玉弘之会長から祝辞をいただいた。

講演1は、後藤時子先生の座長の下、日精協・山崎學会長の「精神科医療の将来展望」と題しての講演で、まず①精神保健福祉行政の歩みとして、精神科医療保健福祉に関する歴史をかなり詳しく述べられた。続いて、②精神保健福祉の動向(データ編)として膨大な量のスライドを説明・紹介された。なかでも、今後推定できる日本の人口減少や精神病床における入院患者数の推移と減少に関して、危機感をもって話された。また、いつも述べられている日本の精神科病院の平均在院日数の推移と国際比較に関しても、誤解のないようにと説明された。そして、この50年の変化として1963(昭和38)年と2012(平成24)年を並べて比較説明され、今後の予測される傾向について、①少子高齢化、②雇用環境の変化、③経済成長の停滞、④

家族のあり方の変容、などがあるということを説明され、それをベースに今後のことを予測して、われわれが考え行動しなくてはならないと教えていただいた。

現在、山崎会長を中心に行われている財務省主計局と厚生労働省担当者との社会保障制度に関する勉強会について、基本認識、方向性、各論(医療保険制度、介護保険制度、後期高齢者医療、医療介護連携)などを紹介・説明された。そして最後に『精神科医療の課題』と題したスライドを示されたが、残念ながら時間がおしてしまい、ほとんど説明の時間がないままスライドを見せていただくにとどまり終了となった。

講演2は、秋田回生会病院院長・松本康宏先生の座長の下、東海大学健康科学部 看護学科准教授・吉川隆博先生による「精神保健医療に関する制度・法律改正の方向性について」という題目で行われた。まずは平成26年の精神保健福祉法改正の説明から、平成28年の相模原障害者施設殺傷事件に関する検討会の話も含めて紹介・説明された。衆議院解散で廃案となってしまったが、再度国会に提出されることが予測されるとして、【1】新たな政策理念の明確化について ①精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築 ②多様な精神疾患等に対応できる医療連携体制の構築、【2】精神保健福祉法の見直しの方向性について ①医療保護入院制度 ②措置入院制度、という形で整理され、詳しく教えていただいた。

講演3は、杉山病院看護部長・川村啓子先生の座長の下、一般財団法人仁明会精神衛生研究所副所長・大塚恒子先生による、「精神科看護の課題と未来」という大きなテーマでの講演だった。【1】地域包括ケアの精神科看護の取り組み ①地域包括ケアシステムとは ②精神障害者を地域に迎える仕組みに地域包括ケアシステムを活用する ③精神障害者地域包括ケアシステムの構築のために看護職が取り組む課題、【2】行動制限を回避するためのケア ①行動制限にジレンマを抱く看護職 ②行動制限を回避するための具体的なケアについて話された。包括ケアに関しては、主に統合失調症の症状の理解として、急性期症状や慢性期症状、問題行動と捉えていることの再度の見直しについて、身体拘束などの行動制限に関しては認知症の中核症状や周辺症状、問題行動の違いやせん妄などについて整理・説明され、実際経験されたたくさんの具体的な例を紹介しながら、非常にわかりやすく説明された。また、多くの精神科病院で実際に体験するような高齢化統合失調症と認知症ケアの相違点や対策などもわかりやすく説明していただき、目からウロコ的な、今までの看護・ケアを考え直す機会となる非常に役立つお話だった。

研修会初日最後の特別講演では、横手興生病院看護部長・神原繁行先生の座長の下、「醸しの技と伝統」と題して、株式会社秋田今野商店代表取締役社長・今野宏様よりお話しいただいた。われわれ日本人だけが麹菌を使い、麹菌はわが国を代表する「国菌」とも呼ぶべき代表的な微生物であり、国内でもこの麹菌を作っている者は同社を含めて3~4人しかいないという。とくに味噌のもつ抗変異原性について触れられ、抗変異原性成分である遊離脂肪酸や脂肪酸エチルエステル、イソフラボンの生成に麹菌が大きく関与していること、味噌汁やイソフラボンの摂取が乳がん発生率を低下させること、同社がこれまでにさまざまな麹菌の開発に成功し、抗変異原性の働きの強い味噌麹菌を作ってきたことなどを紹介・説明された。

初日の研修会終了後には懇親会が盛大に開かれた。アトラクションとして、「なまはげトラディション of oga spa 恩荷(おんが)」(通称:恩荷)による「なまはげ太鼓」の演奏が行われた。なまはげ太鼓は、国指定重要無形民俗文化財である「男鹿のナマハゲ」と日本古来の「和太鼓」を融合させた秋田を代表する男鹿の郷土芸能であり、当日は勇壮な太鼓による迫力あるステージが繰り広げられた。また、会場内には美酒大国秋田ならではの美味しい日本酒が用意され、参加者のお酒もとくにすすみ、会は盛況のうちに終了した。

2日目最初のシンポジウムでは、「地域移行機能強化病棟の現在と課題」のテーマの下、菅原病院院長・菅原和彦先生を座長に3人のシンポジストが発表された。

最初に、「退院促進エンジンとしての活用報告~地域移行機能強化病棟の運営状況~」と題して、未来の風せいわ病院理事長・智田文徳先生がご講演された。同院は典型的な慢性期型病院であったが、10年ほど前から患者の退院支援・地域移行に取り組んで病院改革を行ってきたとし、その過程のなかで地域移行機能強化病棟を開設することによって、病院スタッフ全員が共通の目標を掲げ、それに向けて協働していくことでやりがいを感じ、意欲的になったことをお話しされた。

続いて「地域移行機能強化病棟の現在と課題 看護の立場から」と題して、菅原病院看護部長・高橋恵理子先生がご講演された。地域移行機能強化病棟開設に向けての準備や同病棟運営の実際の様子、同病棟算定後の長期入院患者数の推移や経営面への影響などについて話された。そして同病棟を開設後、退院が困難と思われた患者さんが地域で生活できている現実を見て、患者さんのもつ可能性を信じる看護を続けていきたいと締めくくられた。

最後に、「地域移行機能強化病棟における精神保健福祉士の関わり」と題して、横手興生病院の 精神保健福祉士・長沼光先生がご講演された。地域移行機能強化病棟における退院支援の流れや退院支援プログラムなどの紹介があり、精神保健福祉士として実際に関わった事例について話された。そして、精神保健福祉士の関わりで重要なこととして、退院に漠然とした不安を感じている患者さんとの信頼関係の構築、退院意欲の喚起、家族への十分な説明、退院後の支援体制の充実やその保証が必要であると述べられた。

本研修会最後の講演5では、「もしも死にたいといわれたら~自殺リスクの評価と対応」と題して、協和病院院長・善本正樹先生の座長の下、国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部部長・松本俊彦先生にお話しいただいた。松本先生は、まずは「死にたい」と言える社会が必要であることを強調された。自殺リスクの評価として、The SAD PERSONS scaleや自殺念慮評価の注意点、時系列アセスメントの必要性、Joinerらの【自殺の対人関係理論】における「自殺潜在能力」「所属感の減弱」「負担感の知覚」について、わかりやすく説明された。自殺リスクへの対応としては、TALK(Tell, Ask, Listen, Keep safe)の原則について触れ、「死にたい気持ち」に気づくこと自体に自殺抑止効果があるとし、自殺について話題にして、まずは患者さんの話を聞くこと、そして支援資源に確実につなぐことが必要であるとした。そして、自殺を考えている人は「助かりたい」と「助かりたくない」の両価的な気持ちで最後まで迷っており、患者さんとは「死にたい」と言える関係性をつくることが重要で、次回の診察予約をすることが大事であると述べられた。

講演終了後に閉講式が行われ、日本精神科医学会より受講生代表者への受講証書の授与、続いて後藤時子秋田県支部長への感謝状の贈呈が行われた。同医学会からの挨拶のあと、後藤時子支部長の閉講挨拶をもって2日間の全日程を終了した。

本研修会の報告を終えるにあたり、後藤時子先生をはじめとする秋田県支部の諸先生方、ならびに看護部門の皆様、事務スタッフの皆様に、このような充実した研修会を開催していただいたことに深く感謝申し上げるとともに、秋田県支部の今後ますますのご発展をお祈り申し上げたい。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会/熊谷 雅之  坂本 隆行)

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