2016年度 日本精神科医学会学術教育研修会報告 看護部門

期日/2016年9月8日(木)~9日(金)
会場/ニューオータニイン札幌

平成28年度日本精神科医学会学術教育研修会看護部門は、平成28年9月8日(木)、9日(金)の両日にわたり、日本精神科病院協会北海道支部の担当で「精神科医療を支える看護の価値創造」をテーマにニューオータニイン札幌を会場に開催され、全国各地より301名の受講生が参加した。

開講式では、北海道支部長の佐藤亮蔵先生が開会の挨拶をされ、続いて日本精神科医学会・山崎學学会長が挨拶をされた。最後に、北海道知事の代理として、北海道保健福祉部技監・山本長史様より祝辞をいただいた。また、ご来賓として、札幌市長の代理で札幌市保健福祉局精神保健担当部長・鎌田隼輔様が参加された。

第1日目午前の講演1は、日精協北海道支部長・佐藤亮蔵先生の座長で、「精神科医療の将来展望」と題して山崎學会長が講演された。日本および世界の精神科医療とそれに携わる行政の歴史を顧みて、現在の精神科医療の矛盾点をどう克服するべきかを温故知新の観点から詳しく説明された。2018年には第7次医療計画と第7期介護保険事業計画の同時改正があり、高齢化が進むなか、社会保障制度に要する費用を準備するために、防衛費や教育費という国として立つための基本となる費用が減るかもしれず、国民全体が社会保障について真剣に考える時期であると強調された。

講演2では、「家族支援の現状と課題~メリデン版家族支援プログラム導入を目指して~」と題して、京都ノートルダム女子大学生活福祉文化学部生活福祉文化学科准教授/人間文化研究科生活福祉文化専攻准教授・佐藤純先生(座長:五稜会病院理事長・中島公博先生)がご講演された。この家族支援の方法は訪問によって届けられる行動療法的家族療法(訪問型家族支援)で、ヨーロッパやアメリカでは標準になっており、世界各国に広がりつつある。講演当日は、5人のデモンストレーター(おおえメンタルクリニックゆう・酒井一浩様、日本福祉大学看護学部看護学科教授・長江美代子様、愛知県健康福祉部障害福祉課こころの健康推進室・大野美子様、公立大学法人宮城大学看護学部看護学科講師・小松容子様、五稜会病院看護部長・吉野賀寿美様)によってそれぞれ父や母、妹、患者、ファミリーワーカーが演じられ、再発の危険サインとその対処法について共有していく様子が披露された。そして、最後に佐藤純先生は「この機会を通じて、わが国においても本人とともに家族を支援していくことを考えていきたい」と締めくくられた。

午後は最初にシンポジウムが行われた。三愛病院理事長・院長の千葉泰二先生と石金病院理事長・院長の石金朋人先生のお2人が座長を務められ、「ストップTne暴力事故 ─暴言・暴力と職員─」をテーマに4人のシンポジストが発表された。はじめに「院内暴力の現状と対策から考える精神科医療の飛躍」と題して、石金病院看護主任・松谷大先生が講演され、暴力対応技法の研修を受けたCVPPPトレーナーによる院内研修の効果を説明された。次に「院内暴力・暴言に対する法的対応」と題して、佐々木総合法律事務所の弁護士/医師・福田友洋先生が講演された。院長は施設管理権をもっているため、暴行や暴言があった場合は施設から退去してもらうことを院内規則に定め、院内に掲示しておく等クレーマー対策を具体的に教えていただいた。次に「包括的暴力防止プログラム(CVPPP)に関する報告」と題して、国立病院機構肥前精神医療センター副看護師長・松尾康志先生が講演された。CVPPPトレーナーの数が多いほど職場の安全度が増すことがわかっているので、トレーナー研修を全都道府県で実施したいと述べられた。最後に「精神科医療安全士(仮称)に求められるもの~精神科病院における暴力行為の統計から~」と題して島病院副院長/日精協看護・コメディカル委員会委員 鮫島隆晃先生が講演された。安全な精神科医療を行うために高水準な暴力リスク対策を担うエキスパートとして期待される、精神科医療安全士という資格制度について説明された。

初日最後の特別講演では、「伝えるのは命 つなぐのは命」と題して、旭川市旭山動物園園長・板東元様(司会:札幌グリーン病院理事長・院長 橋本博介先生)よりお話しいただいた。動物たちには多様な生き方があり、動物たちのすごさやかけがえのなさを感じてもらうこと、たくさんの命に囲まれている居心地のよさを感じてもらうことが目標であるとし、〈生き物そのものが素晴らしい〉ということを皆に伝えたいと話された。また、繁殖させるのが難しいオランウータン(ジャックとリアン)のペアリングを例にして〈命をつなぐ〉ということの大変さ、そして誕生の数だけ死があり、命を終わらせてくれる仕組みの中で命が溢れてくるのが自然であるとして、〈命を伝える〉ということの大切さを話され、相手を思いやることを教えてくれるご講演であった。

初日の研修会終了後には懇親会が盛大に開かれた。アトラクションとして、地元札幌和太鼓倶楽部の迫力ある太鼓演奏と、札幌を中心に全国で活躍し、全国芸王グランプリ2007 日本チャンピオンである大道芸人KUROのマジカルジャグリングショーが行われ、楽しいひとときを過ごすことができた。また、懇親会終わりには多くの受講者が旭山動物園園長・板東様を取り囲んで一緒に記念撮影を撮る一幕も見られ、会は盛況のうちに終了した。

2日目最初の講演3は、林下病院院長・林下忠行先生の座長で「人として尊重するということ─人間尊重の倫理─」と題して、北海道医療大学名誉教授・石垣靖子先生が講演された。検査データが示す病気そのものではなく、その病気をもった“人”として患者さんを理解し寄り添う、すなわち人間尊重の倫理を看護師は身につけなければならないと述べられた。病をもった人の幸せとは何かを考えさせられる講演であった。

続いて本研修会最後の講演では、「優しさを伝えるケア技術:ユマニチュード」と題して、独立行政法人国立病院機構東京医療センター総合内科医長・本田美和子先生(座長:さっぽろ香雪病院理事長・院長 森一也先生)にお話しいただいた。周囲環境からのストレスが認知症のBPSDの増悪の契機になることから、ストレスを感じさせないケアの重要性が老年医学において認識され始めているとした。ユマニチュードは、「あなたは大切な存在である」という言語および非言語によるメッセージを、ケアを受ける人が理解できる形で届けるための技法であり、「見る」「話す」「触れる」「立位援助(寝たきりにさせない)」の4要素のうち、同時に2つ以上を使ってケアをするという。講演では、拒食を呈している認知症患者に対して、ユマニチュードの導入によって食事を摂るようになった症例がビデオで紹介された。

講演終了後、閉講式が行われ、日本精神科医学会より受講生代表者に受講証書の授与、続いて佐藤亮蔵北海道支部長へ感謝状が贈呈された。同医学会からの挨拶のあと、佐藤亮蔵支部長の心温まる閉講挨拶をもって2日間の全日程を終了した。

佐藤亮蔵先生をはじめとする北海道支部の諸先生方、ならびに看護部門の皆様、事務スタッフの皆様に、このような充実した研修会を開催していただいたことに深く感謝申し上げるとともに、北海道支部の今後ますますのご発展をお祈り申し上げる。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会)

このページの先頭へ