2016年度 日本精神科医学会学術教育研修会報告 薬剤師部門

期日/2016年6月24日~25日
会場/山形国際ホテル

日本精神科医学会学術教育研修会 薬剤師部門は平成28年6月24日・25日、山形国際ホテルにて約130名の参加者があった。山形県支部長の江口拓也先生と山崎學学会長の挨拶にて開講式が行われ、その後、日精協・山崎學会長により『精神科医療の将来展望』と題した会長講演が行われた。その内容は、①精神保健福祉行政の歩み、②精神保健福祉の動向(データ編)、③認知症、④精神科医療の将来像として、112枚にも及ぶパワーポイントを使用し、豊富な見識と熱意を込められながら上記について詳細に述べられた。

講演Ⅰは、山形大学医学部精神医学講座・大谷浩一教授により『向精神薬の相互作用について』と題して行われた。まとめとしては、①精神科薬物療法では種々の理由で多剤併用が多いので、薬物相互作用の問題が多い、②向精神薬の相互作用はCYP2D6とCYP3A4を介した代謝変化によるものが多い、③各向精神薬の代謝に関与するCYP酵素とそれに影響する薬物を理解することが相互作用の予防と対策に役立つというもので、パワーポイントを使用し流暢に話を進められた。精神科薬物療法の多剤併用の理由として、①1つの精神疾患の異なる症状・状態像に対して複数の治療薬が必要、②1人の患者が複数の精神疾患に罹患、③向精神薬の副作用に対して他の薬物が必要、④精神疾患の患者が身体疾患を合併、⑤身体疾患の患者が精神疾患を合併すること、などを挙げられた。その後、各々の酵素に関して詳細に説明され、よく使用される向精神薬と他の薬物の相互作用の例を何点かと、さらに相互作用の予防の例もいくつか紹介された。大変勉強になるアカデミックな講演だった。

その後、『精神科領域における身体リスクと管理~身体合併症を考える』というテーマでシンポジウムが行われた。シンポジストと演題は、以下の通りである。

①『当院における抗菌薬適正使用の取り組み』─若宮病院 医長・日向正光先生。高齢者の入院患者増加に伴って、肺炎などの身体合併症を発症する患者が少なくない。それに伴い広域スペクトル抗菌薬の使用も増加し、耐性菌発生の増加が懸念されている。取り組みの結果、年を追うごとに広域スペクトル抗菌薬の使用頻度や総費用は著しく減少したとのことだった。

②『精神科領域における身体合併症への対応』─こだまホスピタル 薬剤部・谷藤弘淳先生。NSTとしての取り組みを紹介。薬剤師、栄養士の他に理学療法士も入り、便秘改善を目標とした取り組みを行った結果、抗精神病薬使用量が多く、かつ抗パーキンソン剤を使用している人に便秘が多いことがわかった。チームで取り組むことにより各々が専門性を発揮し、医師その他のスタッフの薬物療法の認識に変化を生じさせることができたと報告された。

③『精神科における低栄養のリスク』─山形さくら町病院 管理栄養士・阿部和子先生。適切な栄養管理がなされず、低栄養による感染防御能の低下から肺炎やMRSAなどの感染症に罹患し長期入院となる「院内飢餓」が社会問題化。積極的な栄養管理をすることにより、低栄養による疾患予防に貢献できることが確認できた。

④『精神科領域における身体合併症への対応~看護師の立場から~』─斎藤病院 看護部長・片平真悟先生。看護師は、身体面での異常を早期に発見するためのアセスメント、相互に影響しあう精神症状と身体症状の関係性や捉え方、向精神薬の副作用とその対応などがさらに求められてくるとし、精神症状が優位に現れることで身体症状を見落とす危険性があると、具体的な例を取り上げて説明された。

その後、同ホテルにて着席による懇親会が、特産のさくらんぼも振る舞われるなどにぎやかに開催され、初日は無事に終了した。

第2日目の講演Ⅱは、佐伯保養院 副院長の山内勇人先生が『精神科病院における感染対策』と題して講演された。山内先生は以前内科医として勤務されたことから、マンパワーや患者自身の自己衛生管理能力が低い精神科病院での感染症対策の大切さを痛感され、自院でインフルエンザの感染警戒レベルのフェーズを作成され、また全国レベルの『精神科領域の感染制御を考える会』を立ち上げられた。総論として、精神科の特殊性と戦略については、①感染対策では『文化』をつくることが必要であり、これには清潔と不潔の捉え方を変えること、発熱、嘔吐、下痢を感染症の初発兆候として危機意識をもつこと、「かからない。うつさない。拡げない。持ち込ませない」ための知識・意識・行動が必要であると述べられた。②感染対策の基本としては、環境整備の強化と手指衛生の遵守を挙げられ、具体的に鍵や爪の消毒などを例示された。また、③効率的な病院感染対策を展開するには工夫が必要であり、閉鎖的環境を利用した感染対策やフェーズを用いた感染対策を示された。各論としては、インフルエンザ対策や感染性胃腸炎対策のポイントを示され、実現のためのチーム医療の大切さも述べられた。

講演Ⅲは、日本病院薬剤師会精神科病院委員会委員長であり、さわ病院 薬剤部長の天正雅美先生による『今後の精神科病院薬剤部の活動について』と題した講演があった。活動の方向性を決定する要因は、医療・精神科医療の動向や患者ニーズ・社会ニーズにあり、精神科医療に関する検討会、診療報酬改定、患者・家族の要望を情報として捉えていくことが必要である。キーワードとしては「入院から外来へ、再入院・再発予防、アウトリーチ、質の高い医療の提供、チーム医療、認知症患者への関わり、機能分化、医療費削減」である。薬剤師の役割は、入院から外来までのシームレスな関わりにある。チーム医療の一員として、地域への関わりの拡大を目指していく。患者のアドヒアランスの維持のために、薬剤師外来や訪問薬剤管理指導業務が必要である。それを診療報酬上も提案できるように、実施と有効性の検証の研究にも参加してほしい。精神科薬剤師は、これから自院の地域での役割を理解し、チーム医療における立ち位置と役割を見極め、薬剤治療のアウトカムを出してその情報を発信し、精神科薬物治療の科学的根拠を確立することを目指すようにと述べられた。

昼はランチョンセミナーが行われ、『血中バイオマーカーから観る精神神経疾患』という題で、若宮病院 院長の栗田征武先生の講演があった。

2日目最後の講演Ⅳは、東邦大学薬学部医療薬学教育センター臨床薬学研究室 教授の吉尾隆先生に『精神科領域の薬剤の身体副作用について』と題してご講演いただいた。まず基礎として、抗精神病薬の副作用と相互作用、抗うつ薬の副作用と相互作用、気分安定薬の副作用と相互作用、ベンゾジアゼピン系薬の副作用と使用上の問題、および相互作用について説明された。精神疾患患者の身体的副作用では、職員はアカシジア、過鎮静、高血糖、体重増加を心配しており、身体的治療薬として血糖降下薬、高脂血症治療薬、降圧薬の使用が多い。実際、精神科病院における身体救急疾患は、不整脈、心筋梗塞、肺動脈血栓塞栓症、窒息・誤嚥性肺炎が多い。これらを考慮し、向精神薬使用の際にはQT延長や誤嚥、過鎮静による血栓症などの副作用に注意を払い、また体重増加、血糖値の上昇、脂質代謝異常、心電図異常、便秘、発汗、リチウム中毒、悪性症候群、飲食物との相互作用などに注意をするようにと述べられた。

すべての講演が終了したあと、閉講式が執り行われた。山崎会長に代わり学術研修分科会副委員長の吉田が、受講証の授与と開催支部への感謝状の授与、総評を行った。最後に開催支部を代表して山形県支部長の江口拓也先生のご挨拶があり、すべての日程が無事修了した。
(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会)

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