2015年度 日本精神科医学会学術教育研修会報告 薬剤師部門

期日/2015年7月17日(金)~18日(土)
会場/宇都宮ホテルニューイタヤ

日本精神科医学会学術教育研修会・薬剤師部門は、平成27年7月17日(金)・18日(土)の2日間、全国から180名の参加者を得て栃木県の宇都宮ホテルニューイタヤにて開催された。開講式は、日精協栃木県支部長・室井尚武先生による開講の挨拶、続いて日本精神科医学会・山崎學学会長が主催者としての挨拶をされた。また、来賓として栃木県保健福祉部長の近藤真寿様から祝辞をいただいた。

第1日目の最初は会長講演で、日精協・山崎學会長により『精神科医療の将来の展望』と題し、ご講演いただいた。①精神保健福祉行政の歩みについては、これまでの歴史を詳しく説明され、民間病院である日精協会員病院の病床数が現在の29万床になった経緯を話された。②精神保健福祉の動向は、最新のデータ分析に基づき、精神疾患の変遷、高齢化の問題、統計の違いによるWHOの誤解などを話された。③認知症では、2025年には5人に1人が認知症になること、BPSDには精神科病院における適切な対応が必要なこと、④精神科医療の将来像では、現在会員病院の病床利用率が91%に低下しており、医療機関として地域包括ケアシステム構築に参加すべきこと、また国の施策からくる調剤薬局の問題や介護保険での営利企業の問題を取り上げ、さらに国民皆保険の堅持が必要であることを話された。

講演Ⅰは、日本病院薬剤師会副会長・国際医療福祉大学特任教授の土屋文人先生による『医療安全・改正薬剤師法等改正について』と題しての講演が行われた。まず、過去の医薬品関連事故等を例示し、持参薬の情報管理などの対応を示されて、薬剤師が医療安全・チーム医療で果たす役割は、「安全・安心かつ良質で適正な薬物療法の確保」であることを述べられた。また、精神科領域の専門性は重要だが、他科の薬物療法にも医師に的確な提案ができる「ジェネラリストとしての薬剤師」を目指してほしいとも言われた。『改正薬剤師法』については、指導義務が課せられ、記録を残すことが求められているが、指導義務を自分たちの職務権限として、薬物療法の安全確保にいかに活用できるかが薬剤師に求められていると述べられた。

引き続いて、岡山県精神保健福祉センター所長の野口正行先生を座長に「チーム医療~精神科薬剤師が求めていること、求められていること」と題したシンポジウムが行われた。

まず、森病院薬剤師の萩原薫季先生が『入院から外来そして地域へ-薬剤師の取り組み-』と題して講演され、チーム医療としてリカバリーを意識した取り組みを、自院での活動を紹介しながらお話しいただいた。病棟では心理教育に薬剤師として関わるのみならず、CP換算値で高用量の場合、減量計画案を作成して主治医に提言し、減量後もチームとして薬剤師も一緒に経過を見ていく等、積極的な取り組みを紹介された。

続いて精神保健福祉士の立場から、室井病院リハビリテーション課副主任の笹沼あゆみ先生にお話しいただいた。自院のチーム医療について紹介されたあと、PSWが相談室から飛び出し直接現場で患者さんや多職種連携の取り組みを行ってきた経験から、薬剤師も現場での関わりや連携が必要と指摘し、とくに患者にとって関心のある副作用の情報提供を、薬剤師が直接患者の元へ出向いて行うことの意義や期待を述べられた。

次に看護師の立場から、柏崎厚生病院病棟師長の澤石恵子先生にお話しいただいた。外来から入院、入院中、入院から退院と、治療の段階で薬剤師に現場が求める具体的な関わりを提示された。薬剤師から発信するように声を出してもらい、ステーションに薬剤師の姿があり、患者さんの中にも姿があることで薬剤師の視点が治療に活かされるのではないかとまとめられた。

最後に、座長の野口先生に精神科医の立場からお話しいただいた。公的機関として複雑困難事例が主な対象で、リカバリーの理念に基づいた地域生活支援を多職種協働で行っている現状を事例を通して報告され、多職種チームとして薬剤師に求められることを述べられた。

各シンポジストが発表されたのち、フロアからの質疑応答など活発に盛り上がり、あっという間に時間が来てしまったが、薬剤師のチーム医療における役割の大きさは、とくにその専門性を活かしたものが期待されていると確認できた。

1日目の研修終了後、同ホテルにて懇親会が催された。宇都宮といえば餃子である。懇親会の席上も美味しい餃子を堪能しながら懇親を深めることができた。また、アトラクションとして自治医科大学軽音楽部の学生によるジャズコンボステージが懇親会に華を添えていた。

第2日目の講演Ⅱは、桶狭間病院藤田こころケアセンター薬剤部の宇野準二先生による『精神科クリニカルパスの運用と実践』と題しての講演が行われた。宇野先生は自院で使っている急性期統合失調症クリニカルパスを紹介され、精神症状評価尺度で病態像を確認しながらSDMの治療技法を取り入れていること、また職業別にしていることで、各職種の治療の進行具合が時間軸で見られることを挙げられた。多職種のカンファランスに薬剤師が参加し情報共有を行っていて、評価尺度により患者の治療による変化を的確に示し、薬物療法における意思決定の共有に貢献していることを話され、クリニカルパスにおける薬剤師の役割は、スタッフへの新しい気づきの提供だけでなく、患者自身が治療に参加しているとの目覚めにつながるような活動が求められると述べられた。

講演Ⅲは、社会福祉法人浦河べてるの家理事・北海道医療大学教授の向谷地生良先生と、浦河べてるの家メンバースタッフの亀井英俊さんと秋山里子さんによる『自分の苦労を取り戻す~当事者研究が開く世界~』と題しての講演があった。まず向谷地先生が、ベてるの家が始まった経緯を述べられ、秋山さんがベてるの家の概要を紹介された。「現在、当事者が『自分を助けるプログラム』として、ミーティング、SST、当事者研究を行っている。とくに『当事者研究』は、自分の体験や生きづらさや日常生活の出来事から『研究テーマ』を見つけ、その背景にある前向きな意味や可能性、パターン等を見極め、自分らしいユニークな発想で、その人に合った自分の助け方や理解を創造していく研究活動である。データを集め、話し合い、工夫し、自分でやってみる。結果を共有することで人間関係の苦労が増えるが、それをチャンスとして、現実の課題として実践していく。病気つながりが研究つながりに変わっていき、人とのつながりができる」と述べられた。続いて、亀井さんと秋山さんが自分自身の体験を紹介され、ベてるの家で苦労を取り戻しながら楽しく生活している様子を述べられた。

昼はランチョンセミナーが行われ、『こころとからだに効く漢方処方』のテーマで、自治医科大学看護学部准教授の北田志郎先生にご講演いただいた。

2日目の最後の講演Ⅳは、東邦大学薬学部医療薬学教育センター臨床薬学研修室教授の吉尾隆先生に『精神科薬物治療における薬剤師の役割』と題してご講演いただいた。まず、日本の薬物療法認定薬剤師、専門薬剤師の現状について紹介され、その中で精神科専門薬剤師はがん専門薬剤師、感染症専門薬剤師に次いでできたもので、薬物治療維持のために必要なモニターを行い、多職種協働で治療を維持し、医師の処方計画を支援するのみならず、将来的には医師の診断と患者情報をもとに処方設計を行うものであると述べられた。専門薬剤師のハードルは高いが、今後6年制に続く大学院教育で専門職の養成プログラムを連動させることなどを検討すべきと述べられ、薬剤師の職能将来像と社会貢献について触れられた。また、実際の処方例を提示し、統合失調症や気分障害の処方上の留意点や問題点など、エビデンスデータを挙げながら説明された。

予定されたすべての講演の終了後、閉講式が執り行われた。山崎会長から受講証の授与と開催支部への感謝状の授与を行ったのち、開催支部を代表して栃木県支部長の室井尚武先生のご挨拶があり、すべての日程を無事修了した。

(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会)

このページの先頭へ