2015年度 日本精神科医学会学術教育研修会報告 看護部門

期日/2015年9月17日(木)~18日(金)
会場/サンポートホール高松

平成27年度日本精神科医学会学術教育研修会看護部門は、平成27年9月17日(木)、18日(金)の両日にわたり、日本精神科病院協会香川県支部の担当で「未来に向けて進化する精神科看護を目指して」をテーマにサンポートホール高松大ホールを会場に開催され、全国各地より約250名の受講生が参加した。

香川県知事・浜田恵造様が公務の関係で、開講式に先立ち、まず祝辞を述べられ、引き続いて開講式が執り行われ、日精協香川県支部長の佐藤仁先生が開講の挨拶をされ、続いて日本精神科医学会・山崎學学会長が挨拶をされた。最後に、香川県医師会長・久米川啓様より祝辞をいただいた。

第1日目午前の講演1は、会長講演「精神科医療の将来展望」と題して、日精協・山崎學会長が講演をされた。まず最初に、スライドを提示しながら、精神保健福祉行政の歩み、精神保健福祉の動向、認知症、精神科医療の将来像等について、詳細に話をされた。その中で、認知症対策に関しては、高齢化に伴い2012年に462万人であった認知症患者(約7人に1人)が、団塊の世代が75歳以上となる2025年には約700万人(約5人に1人)となり、厚生労働省が関係各省庁と共同して新オレンジプランを策定し、精神科医療においてはBPSDや身体合併症等の適切な対応はもちろんのこと、認知症の初期・軽症から関わることが望ましいと話された。また、高齢化社会における認知症患者の地域での生活を支えるためには地域包括ケアシステムの構築が重要であり、少子化による医療従事者の確保が困難となるため、病床削減、施設化、外国人労働者の雇用等を検討していくことの必要性を説明された。

次に、講演2は「認知症医療 カギはナース~BPSD、合併症から幸福の扉へ~」と題して、尾花沢病院 院長・渋谷磯夫先生が講演された。尾花沢病院での認知症医療および看護においてのさまざまな問題の中から、渋谷先生および看護部長を中心に病棟全スタッフでユニットケアについての勉強会を重ね、ユニット的ケアを開始することにより、認知症患者および病棟スタッフの表情が豊かになり、にこやかな笑顔になっていく変化を多くのスライドで説明をされた。看護者はさまざまな処置・ケアによって認知症患者を支えるのではなく、技術を介して、慈しみ、触れ合ったり、愛し合うことが大事である。すなわち、認知症患者を理解して、思い合って関心を向けることが幸せになることであると話された。

ランチョンセミナーは、「私の考える統合失調症治療」と題して、愛媛大学大学院医学系研究科精神神経科学 教授・上野修一先生が講演をされた。

第1日目の午後は「認知症患者に対しての精神科看護、治療体制の強化を目指して」をテーマにシンポジウムが行われた。まず、大垣病院 内科課長・小栃洞真理子氏が「当院の認知症医療概略と看護」と題して、治療効果に対しての日常生活の変化や症状あるいは病態が日常生活にどのように影響を与えているかという視点を、看護における観察ポイントとして説明をされた。2席目は、赤沢病院 副看護部長・小林弘美氏が「多職種連携による日常生活訓練~年間行事を通してのQOLの維持・向上~」と題して、多職種が連携をとりながら、季節感を感じ、他患との交流を図り、記憶の想定、心身機能を高めることを目的とする認知症病棟での年間のさまざまな病棟行事をスライドで紹介された。3席目は特別養護老人ホームきやま 総看護師長・福田美枝子氏が「その人らしい暮らしを支えるユニットケア」、4席目は五色台病院 看護師長・北岡忠義氏が「なにができょん? 当院でのユニットケア化への取り組み」と題して、集団的ケアから10人程度の小グループに分けて職員を固定的に配置してケアをするユニットケアを導入することにより、家庭と同じような暮らしを感じながら個別のニーズに応じたケアが提供できる等、各々の施設での認知症医療の取り組みについて話をされた。その後、会場からの質問・意見等があり、活発な討論がなされた。

第1日目最後の講演3は、「職場のメンタルヘルス ~ストレスを知り、ストレスに上手に対処する」と題して、大石記念病院 臨床心理士・福田由利氏が講演された。①“職場のメンタルヘルス”の概念、②医療機関が抱える難しさ、③ストレスとは、④セルフケア、⑤周囲によるサポート等について紹介をされた。セルフケアとして認知行動療法の有用性を話され、周囲によるサポートとしては、職場の同僚・上司がちょっとしたメンタルヘルス不調のサインを見つけ、対応していくことが大切であると説明された。最後に、ストレスと上手につきあうための要点をまとめられて講演を終えた。

初日の研修会終了後、JRホテルクレメント高松において引き続き懇親会が開催された。懇親会には山崎会長も参加され、アトラクションでは声楽家の男女2人が歌劇・オペラの一節を歌われ、盛会のうちに終了した。

第2日目は最初に講演4として、四国こどもとおとなの医療センター 児童精神科医長・中土井芳弘先生が「児童思春期精神科入院治療の現状や取り組み」と題して講演された。児童精神科は子どもと親をみるため時間がかかり、同医療センターの初診は4カ月待ちという実態である。各医療機関でも児童精神科外来の設置を考えてほしい。そのためには児童精神科医の育成が課題である。治療場面では陽性転移と陰性転移が生じやすいが、その対応は1人で抱えず信頼できる専門家に相談するのがよい。ASDにはさまざまな精神障害の病名が付けられていることが多いが、統合失調症様症状に注意して鑑別しなければならない。虐待を受けると過敏で過覚醒になるためADHDの合併が多く、2次障害を防ぐ必要がある。さらに報酬系の脳回路からみたADHDの病態についても触れられた。児童精神科治療は、自尊感情の円滑な発達を援助することに留意しながら進める必要があると強調された。

最後の講演5は「プレッシャーを味方にする心の持ち方」と題して、長野オリンピックのスピードスケート金メダリスト、清水宏保氏が講演された。開始早々ご自分で獲得された金銀銅のメダル3個をステージからフロアに回して触らせるという快挙をなし、受講生を感激させた。プレッシャーをサプリメントと考えることや、指先の力を抜くとよい等、プレッシャーを精神的肉体的に処理する考え方を示され、ユーモアを交えた講演に引き込まれた。それにしてもスピードスケートのオリンピックチャンピオンの下肢はものすごく、「膝と間違われるんです」と内側広筋の膝蓋骨内側付着部を示されたときはびっくりした。確かに膝に見えた。さらに、スポーツで得られる「達成感」は「ありがとう」と言われたときと同じ感動であり、「我以外みな師」という言葉が座右の銘であると述べられた。途方もない努力の積み重ねの上に大変な偉業を達成された清水宏保氏の講演はパワーの中に謙虚さが際立ち、さわやかな時間を与えてくれた。

講演終了後、閉講式が行われ、日本精神科医学会より受講生代表者に受講証書の授与、続いて佐藤仁香川県支部長へ感謝状が贈呈された。同医学会からの挨拶のあと、佐藤仁香川県支
部長の心温まる閉講挨拶をもって2日間の全日程を終了した。

本研修会は、看護で得る達成感は患者さんの「笑顔」であるという理念に基づいて構成されており、それは佐藤仁支部長のミッションに通じるものであった。五色台病院、香川県支部会員病院の諸先生およびスタッフの皆様方に、非常に深い感銘を覚えた研修会を開催していただいたことに深く感謝申し上げるとともに、香川県支部の今後のご発展をお祈り申し上げます。

(日本精神科医学会 学術教育推進制度学術研修分科会)

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