協会誌巻頭言 会長 山崎 學
Japan as No.1
2012/01
新年明けましておめでとうございます。昨年はご支援いただきありがとうございました。今年も執行部一同、精神科医療の改革と発展に邁進する所存であります。旧年にましてご支援、ご協力をお願いいたします。
昨年は3月28日にWHOを訪問し、精神保健関係者に日本の精神科医療の歴史、現状、将来展望について講演した後に、意見交換をいたしました。10月10日にはWHOで行われたメンタルヘルスギャップフォーラムに参加し、日本の精神科医療のなかで日本精神科病院協会が果たしている役割について話し、11月3日には台湾の高雄で行われたWPA地域ミーティング「アジアにおける精神保健−現状と課題−」で講演をさせていただきました。
数年前より、欧米を中心に精神科医療の現状を視察し、関係者と話し合ってわかったことは、海外では日本の精神科医療の現状が正しく理解されていないということでした。35万床の精神科病床数だけが強調され、しかも精神科病院における患者の処遇は、脱施設化前の欧米の精神科病院、つまり大規模入院施設で刑務所もどきの処遇がいまも行われているといった偏見に満ちたものでした。この偏見を助長したのは、日本の精神科医療について歪曲化して発言をしている確信犯的原理主義者、外国カブレの学者、精神科病院を非難することで生活の糧を得ているといった人たちです。しかし、一方でわれわれも英語圏の精神科医療関係者に対して、日本における精神科医療についての情報発信を怠ってきたことを反省しなくてはいけないと思っています。
欧米の脱施設化は、精神科医療に対する国の財政的困窮の結果といった側面と、イタリアに見られるような政治運動の一環として行われたという両面性を持っています。イタリアにおける脱施設化は30年かけて完了しましたが、現在、総合病院で15床程度の病室では十分な急性期対応ができず、入院を拒否されたり、デポ剤による過鎮静にして在宅で看させられるために、家族の負担は増大しています。また、同じイタリアでも財政的に豊かな北部はそれなりの医療が提供されていますが、南部の精神科医療は悲惨な状態にあります。また、病床削減を行ったアメリカ、イギリス、カナダ、イタリアでは精神科病床を増やす必要に迫られ、精神科病床の増床を始めています。
こうした世界の精神科医療の現場を理解しないで、馬鹿のひとつ覚えのように「地域移行」「平均在院日数の短縮」「入院抑制」を推進すれば、過鎮静にして在宅で看るといった欧米型の精神科医療に追い込まれ、患者にとっても家族にとっても好ましい結果にならないのは明らかです。見学したロンドンの精神科病院の男子トイレで見た、薬の副作用で立っていられないで、額をトイレの壁に押し付けてよだれを垂らしながら用足しをしている患者さんの姿がいまも脳裏に焼き付いています。
欧米の失敗の轍を踏まないように、精神科医療改革は時間をかけて慎重に進めるべきです。また、医療提供のバロメーターである、アクセス、コスト、アウトカムいずれをみても、日本の精神科医療は世界一だと思います。日本の精神科医療関係者は、日本の精神科医療を誇りと自信を持って世界に向かって情報発信するべきだと思います。
最後に、会員諸先輩のご支援、ご協力をお願いして新年のご挨拶に代えさせていただきます。